- 糸井
-
たとえば、アメリカ人は
視線だけでつくられてる状況とか関係を
「コミュニケーション」とは
呼ばないと思うんですよ、たぶん。
- 増田
-
そうでしょう‥‥ね。
- 糸井
-
でも、カフェという場所では
若者、子ども、
増田さんのいうプレミアエイジの人々、
それに犬‥‥‥とかね、
世代とか種類とかを越えた人たちが
いっしょの空間に
混じって存在することができますよね。
- 増田
-
うん。
- 糸井
-
お年寄りが若者を眺めてたり、
赤ん坊が
おじいちゃんに笑いかけたり、
犬がサラリーマンをじっと見てたり‥‥とか、
そこでは
さまざまな「無言のクロストーク」が
行なわれてると思うんです。
- 増田
-
ええ、ええ。
- 糸井
-
それって、りっぱなコミュニケーションだし、
カフェの「視線の文化」だなぁって
今、増田さんとしゃべってて思ったんですよ。
- 増田
-
なるほど、なるほど。
- 糸井
-
だから増田さん、答え出てるじゃんって。
- 増田
-
そうか‥‥でも、今ぼくがカフェって言ったのは、
原体験に原宿の「レオン」があるんです。
- 糸井
-
あ、そうなんですか。
- 増田
-
表参道と明治通りの交差点にあった
セントラルアパートの1階のカフェ。
1970年代に、
有名なクリエイターが集まっていて、
糸井さんの事務所もあって。
- 糸井
-
ええ、あー、そうですか。
- 増田
-
うん、大学を卒業して、東京へ出てきて、
いちばん最初に行った場所ですから。
- 糸井
-
へぇー‥‥。
- 増田
-
有名な人たちがいっぱい来てて、
そこに、新聞を読みながら、
じつは、まわりを気にしながら、
混ざってただけだったんだけど‥‥。
あの「気にする感じ」が、
糸井さんの言う「視線の文化」だったんやね。
- 糸井
-
そうそう、そうだと思う。
- 増田
-
あのときの、ドキドキする体験からは
すごくインスパイアされたんです。
‥‥そうか、だから、
代官山プロジェクトでも、そうでけへんかなぁと
思ってたんかな、ぼくは。
今、そういう場所ってなかなか、ないから。
- 糸井
-
今日、いちばん腑に落ちたのは
今の話ですね。
「場」が視線を交差させる‥‥という。
- 増田
-
そうですか。
- 糸井
-
その視線の先には、
さっき言ってた「リスペクト」があったり、
血気盛んな若者だったら
勝っただ負けただがあったり、
きれいなお姉さんをちらっと眺めては
「いいなぁ」と思ったり、
「あいつ、かっこいいな」っていう
憧れもあったり‥‥。
- 増田
-
うらやましがったり、真似したりね。
「あいつ、いいパソコン持ってるな。
あれ、なんだろう?」みたいな。
- 糸井
-
頭の中身をお互いに刺激し合って、
その「場」から
蒸気みたいな、竜巻みたいなものが
パーッと巻き起こるような‥‥。
- 増田
-
それがいちばん、うれしいのかなぁ。
- 糸井
-
かっこいいですよね。
- 増田
-
うん、うん。
- 糸井
-
下北沢について、話したことありましたっけ?
- 増田
-
いえ。
- 糸井
-
下北沢という街は、
なぜああなったのかは知らないんだけど、
演劇の関係の人が
有名な人も無名な人も含めて、
ごっちゃになって、いるじゃないですか。
- 増田
-
ええ、ええ。
- 糸井
-
たとえばですけど、
宮藤官九郎さんがご飯を食べに行く店で、
「お待たせしました」って
料理を運んでくる人が
劇団の若い子だったりしますよね。
あの街の感じって、
ぼくにとって、ひとつの理想型なんです。
- 増田
-
あ、そうですか。シモキタが。
- 糸井
-
何て言うんだろう‥‥
この街で働きたいという気持ちと
この街に遊びに行きたいという気持ちが
交差してる街、じゃないですか。
- 増田
-
ええ。
- 糸井
-
ウェイターの子の視線の先には
具体的な憧れの対象がいたり‥‥して。
- 増田
-
ああ、その感じも
「視線の文化」かもしれないですね。
- 糸井
-
‥‥あのー、仮にね、真夏の熱い日に
道の向こうから
薄着の女の子が歩いてくるとしまして。
- 増田
-
ええ。
- 糸井
-
そのとき、あんまり「見ない」ように
気をつけてます?
- 増田
-
俺?
- 糸井
-
うん。
- 増田
-
見る!(笑)
- 糸井
-
‥‥いや(笑)、
見ないように気をつけてると思うんです。
- 増田
-
‥‥まぁね(笑)。
- 糸井
-
バレないように‥‥とか。
- 増田
-
そうそう。サッと、この‥‥。
- 糸井
-
いちばん見たいのは、胸のあたりですよね?
- 増田
-
人にもよるでしょうけど(笑)。
- 糸井
-
でも、たぶん、女性同士でも
胸のあたりを、まじまじと見ることは
避けてると思うんです。
つまり、わざわざ避けるほどのパワーを
振りまいてるわけ、その薄着のかたは。
- 増田
-
ええ、はい(笑)。
- 糸井
-
そこで、何が行われてるかというと、
ものすごく
「工夫した視線」が、飛び交ってる。
- 増田
-
そうやなぁ(笑)。
- 糸井
-
ぼくは今、そこのクリエイティブに
ものすごい興味があります。
- 増田
-
わはははは(笑)、へぇー‥‥。
- 糸井
-
それは、かならずしも劣情ではなくてね。
劣情ではないんだけど、
でも、なんか見ないように工夫しちゃう。
つまり、目が行っちゃうわけだけど‥‥。
- 増田
-
結局‥‥「見る」ということは
何かの存在を認識する、ということですよね。
- 糸井
-
ええ、そうですね。
- 増田
-
だから、その「見る」っていうことが
僕らが生きていくにあたって
なんか‥‥すごく大事な行為なんでしょうね。
- 糸井
-
しかも、楽しかったり、うれしかったりする。
だから、好きな人の顔を見ただけで
ニコニコしちゃうのは、その最たる例ですよ。
- 増田
-
そうだね。
- 糸井
-
やっぱり、視線って「片思いの連続」だから。
- 増田
-
ああ‥‥なるほど。
- 糸井
-
だから、カフェというのは
片思いが無限に交差しあう場所、ですよね。
- 増田
-
うん、うん、なるほどね。いいなぁ。
- 糸井
-
素敵じゃないですか。
- 増田
-
だから、カフェの「無言の視線」というのも
人と人との間で交差するから‥‥
コミュニケーションなんですよね、やっぱり。
- 糸井
-
うん、うん。
- 増田
-
代官山プロジェクトの着地点は
人と人とが、素敵な「目線」を交わせる場所‥‥
ということなのかなぁ。
- 糸井
-
どう儲けるかは、知りません(笑)。
- 増田
-
それは、これから考えます。
- 糸井
-
ぼくはね、
そこだけ聞きたいくらいですよ(笑)。
- 増田
-
わはははは(笑)。
- 糸井
-
「さすが増田社長!
そうやって儲けるんですかぁ」
みたいな。
- 増田
-
‥‥まいったなぁ、今日は(笑)。
<おわります>
2011-3-18-FRI