CCC増田宗昭+糸井重里 カフェの視線。

第3回 4000坪、ぜんぶカフェ?

増田
ちょっと話の角度を変えますとね、
現代って、どんどん
「ギャップを平準化していく社会」
なんだと思うんです。
糸井
つまり‥‥。
増田
資本家がいて、経営者がいて、労働者がいて、
お客さんがいて‥‥みたいに
役割がシンプルだったでしょう、むかしは。
糸井
うん、うん。
増田
でも今は、個人というものが
固定してなくて、
役割がマルチタスク化してる。

たとえば、ふだんは会社勤めをしている
「1億総労働者」である日本人は
パソコンでFXとかいう為替の取引している
「1億総投資家」でもあり、
仕事が終わった後は
ツイッターでいろいろコメントしてる
「1億総評論家」でもあり、
そんなの、あたりまえの時代でしょう。
糸井
うん、うん。
増田
そういう意味で言うとね、
むかし、ぼくらがせっせとカセットテープを
編集していた時代に比べると、
今は、パソコンで簡単に楽曲を作れたり、
編集したり出来ちゃう。

そして、完成したら
YouTubeにアップして全世界に公開できる。
糸井
できますね。
増田
つまり、同じようなレベルで
「1億総アーティスト」化していくと
ぼくは思ってるんですよ。

あるときは投資家であり
あるときは労働者であり、
あるときはアーティストである‥‥という。
糸井
‥‥そういう時代に拍手できるのが、
増田さんのロマンだと思うんです。
増田
それはつまり‥‥「舐めんなよ」と?(笑)

糸井
いやいやいや、そういうふうに
言うつもりはないけど
ぼくは、
ぜんぶが「のっぺらぼう」になっていくことが
耐えられないんです。
増田
うーん‥‥「のっぺらぼう」かぁ。
糸井
たとえばね、ツイッターひとつにしても
「この人、フォローしたいな」
と思わせる人って、
漫然と「代官山なう」とは、書かないと思うんです。

もともとは「代官山なう」と書くべき
ツールなんでしょうけど。
増田
うん、うん。
糸井
音楽でも映画でもなんでもいいんですけど、
決して少なくない時間を
自分自身に投資してきた時間がまずあって、
その上で、摩擦熱のようなものを伴って
生まれてくるクリエイティブに、
やっぱりぼくはリスペクトの気持ちがある。
増田
なるほど。
糸井
だから、
役割がマルチタスク化していく‥‥という
時代的な流れはわかるんですけれど、
何と言うかな、
「のっぺらぼう」と
「クリエイティブ」や「アート」を
同一平面に置いちゃうのは、
ぼくには、ちょっと‥‥退屈なんですよね。
増田
あぁー‥‥それなら、わかる。

わかるんだけど、
でも、糸井さんが言ってることの本質って
どのへんにあるのかなぁ?
糸井
ぼく、今、増田さんのおっしゃることに
ものすごく反対の意見を言ってるかのように
思われてるかもしれませんが‥‥。
増田
ええ、思ってます(笑)。
糸井
これを、まったく逆から言うと、
本当に「なんでもない」って思われてる人の
「たいせつさ」というのは、
「クリエイティブ」だとか「アート」だとか、
そういうことと関係ないじゃないですか。
増田
‥‥うん。
糸井
つまり、インターネットも触ったことなくて
「ほぼ日」も知らなきゃ、
TSUTAYAに行ったこともないんだけど
「尊敬できる無口なオヤジ」って、いますよね。
増田
うん、いる。
糸井
そのオヤジの「なんでもなさ」に対する
「無限のリスペクト」をベースにしていくのが、
これから先の
自分たちの考えかただと、思ってるんです。

増田
‥‥キーワードは「リスペクト」ですか。
糸井
そうかもしれません。
増田
‥‥あの、今ね、糸井さんの話を聞いてたら
代官山プロジェクトに関しても
「リスペクト」って、
すごい刺さる考えかただなぁと思いました。
糸井
あ、そうですか。
増田
さっきも言いましたけど、
代官山プロジェクトでは
『平凡パンチ』を全巻、そろえるってことに
チャレンジしてるんですけど
これだって、
『平凡パンチ』と「大橋歩」という存在を
ぼくらが、リスペクトしてる結果。
糸井
ええ、ええ。
増田
あるいは、このプロジェクトの建物を
設計してくれている
クラインダイサム・アーキテクツという
建築家にも、
おもしろいもん見せてくれたっていう
リスペクトがある。

つまり「リスペクト」が「幸せの量」と
比例するんだとしたら‥‥
その切り口で
このプロジェクトを考えるのは、いいな。
糸井
うん、うん。

たぶん「リスペクト」と「利益」とを
互いに代入できる関係として捉えちゃったら
ダメなんでしょうね。

ドラッカーの言う
「利益とは、目的ではなく、手段である」
というのと同じようなことで
リスペクトって、あくまで「結果」だから。
増田
今回、TSUTAYAがやろうとしている
代官山プロジェクトについて、
ぼくが思うのは‥‥エスプレッソ飲みません?
糸井
はい、もらえるなら。
増田
エスプレッソ、ふたつちょうだい。

‥‥TSUTAYAという場所は
今まで、
「文化のコンビニ」って言われていたんです。
糸井
ええ。
増田
コンビニが悪いと言ってるわけじゃないけど、
こんどの代官山プロジェクトでは
もうすこし「作品」というものの価値を
大事に伝えていこう、
それこそ「作品」に対して
リスペクトを表現しようと思っているんです。

糸井
なるほど。
増田
それと、あとひとつ。

最近、うちの息子に聞いてみたんです。
「いちばん大事なものって何?」って。
糸井
ほう。
増田
そしたら「友だち」って言うのね。
糸井
いいですねぇ。
増田
たしかに、今は「グーグル」よりも
「ツイッター」とか「フェイスブック」とか
どっちかっちゅうと
ネットワーク系のサービスのほうに
みんな、シフトしていってるじゃないですか。
糸井
ええ、ええ。
増田
それってつまり、「情報」というより、
「つながり」を欲してる、みんな。
糸井
うん、うん、うん。
増田
だから「リスペクト」ともうひとつ、
代官山プロジェクトでは
「コミュニケーション」というものが
テーマになるんじゃないかなぁと。
糸井
なるほど。
増田
つまり、来てくれた人々が
どうコミュニケートできるかってことを
徹底的に追求した空間。
糸井
いいじゃないですか。
増田
極端な話をするなら、
4000坪、ぜんぶカフェにしちゃうとかね。
糸井
‥‥いいじゃないですか。
増田
あ、そう?
糸井
それは、おもしろいと思いますね。

コミュニケーションの空間だって
言われるよりも、
「4000坪、ぜんぶカフェなんだ」って
言われたほうが
だんぜん、おもしろいと思います。
増田
あ、そう?
糸井
うん、4000坪、ぜんぶカフェ。
増田
4000坪、ぜんぶカフェ、かぁ‥‥。

<つづきます>

代官山にでっかいTSUTAYAができる!?

そのたのしみ〜な計画については
増田さんの新著
『代官山オトナTSUTAYA計画』で読めます。

ごぞんじのかたも多いかもしれませんが、
代官山の旧山手通り沿いに、
ずいぶん大きな空き地があったんです。

夏にはひまわりが揺れていて、
ちょっと、不思議な空間だったのですが、
2011年の初夏、
この約4000坪の土地に完成するのが、
「森の中の図書館」をイメージした
「次世代のTSUTAYA」。

この対談にも出てきますけど、
『平凡パンチ』を全巻あつめるなど、
ワクワクする計画を
いろいろ、たくらんでいるそうです。

そのコンセプトや経緯については
増田さんの新刊
『代官山オトナTSUTAYA計画』で
読むことができます。

今回の糸井重里とのお話を
別角度から編集した対談をはじめ、
ゲームクリエイターの飯野賢治さんや
建物の設計を手がけた
クライン・ダイサム・アーキテクツと
増田さんとの対談も収録されてます。

TSUTAYA社長の「経営観」が読める、
純粋な読み物として読んでも、おもしろそう。

代官山オトナTSUTAYA計画

2011年4月発売予定
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