- 増田
-
ざざーっと聞いていただいたんですけど、
いかがでしょう、ご感想とか。
- 糸井
-
まず、このプロジェクトをやる場所が
「代官山」だってところが、
心配の分量が少ないですよね、あるていど。
- 増田
-
そうですね。
- 糸井
-
逆に言うと、「代官山にある」というだけで
成り立つ仕事の分量って
たとえば
どこか郊外に同じものをつくったときに比べて、
だいぶ多いじゃないですか。
新しく考えなきゃならないことは、少ないし。
- 増田
-
うん。
- 糸井
-
だから、ずっとお話を聞いてましたけど、
すでに増田さんの
セミ成功体験かのようでした、その意味では。
実際にどうなるかは、これからでしょうけど、
「どうなるだろう?」‥‥って
あんまり思わなくてよさそうな、今のところ。
- 増田
-
ま、ふつう、この手の企画って
「こういうことをやりたいんだけども
どこかにいい土地ない?」
みたいなところから始まりますからね。
- 糸井
-
そうそう。
それと「プレミアエイジ」というのが
まさしく
今日のテーマなんだと思うんですけど、
これってつまり「自分」ですよね。
- 増田
-
そうそう、そうなんです。
- 糸井
-
さっき、御社の資料のスライドのなかに
ぼくに似た男が
チラッと出てきてましたけど‥‥。
- 増田
-
すみません、勝手に(笑)。
- 糸井
-
いえいえ(笑)、
だから、まさにぼく個人のことを言ってしまうと、
たとえば‥‥。
- 増田
-
うん、これからの糸井さんは
「何が楽しくて、何がうれしくて、何がしたい?」
というのが、聞きたい。
- 糸井
-
もしかすると、どこかで話したことが
あるかもしれないんですけど。
- 増田
-
ええ。
- 糸井
-
今、ぼくは、自分が「美味しい」って言って
食べていたものを
他の人が「美味しい」って食べてくれると
そっちのほうが、
自分が「美味しい」より「美味しい」んです。
- 増田
-
うん、うん‥‥へぇ。
- 糸井
-
自分の口で食べるより
他人の口で食べたほうが美味しいって
どういうことなのか。
個人の欲望が
肥大化したのか、変形したのか、共有されてるのか、
ひょっとしたら昔に戻ったのか‥‥。
- 増田
-
‥‥ええ。
- 糸井
-
‥‥わかりませんが、
そういう構造になってきてるんですよ。
ぼくがうれしいことって、だいたい。
- 増田
-
なるほど。いや、そのことと
関係するかどうかわからないんだけど、
‥‥ちょっと関係すると思うんだけど、
「編集権の移動」ということをね、
最近、ぼくはよく、言ってるんですよ。
- 糸井
-
ほー‥‥。
- 増田
-
なぜ、人々はユニクロに行くのか。
レンタルCDショップが
どうしてこんなに、広まったのか。
それは「値段が安いからだよ」って
みんな言うんだけど
そうじゃないと、ぼくは思うんです。
- 糸井
-
ほう。
- 増田
-
安いからというのも当然あるとは思うけど、
もっと根本的には
「お客さんの側の変化」があると思ってる。
- 糸井
-
たぶん、その話はおもしろいですね。
- 増田
-
TSUTAYAというのは、
もともと「貸しレコード屋」だったんです。
- 糸井
-
ええ。
- 増田
-
買ったら3000円もするCDアルバムが
借りたら、たったの300円。
だからこんなに広まったんだろうって
みんなが言うんだけど、ちがう。
- 糸井
-
つまり‥‥。
- 増田
-
何がちがうか。
以前は「編集権」というものが、
商品を制作・提供する側にあったんですよ。
具体的に言うと、ユーミンやサザンが
1曲目はこれ、2曲目はこれ、3曲目はこれって
決めたCDを
ぼくたち消費者は、買って聴いてたんです。
すなわち、編集権はアーティストにあった。
- 糸井
-
‥‥ええ。
- 増田
-
お客さんの側でも、あたりまえのように
編集済みの商品を求めてた。
だけど、たとえば彼女とドライブ行くとき、
「1曲目はサザンのあの曲で
2曲目にはユーミンのあの曲で」
みたいに、
お客さん自身が編集しはじめたわけです、
そのうちに。
- 糸井
-
うん、うん。
- 増田
-
だって、そっちのほうが、いいやん?
つまり、そんなふうに
お客さんの「質」が変わっちゃった時代に
貸しレコード屋は、広まったわけ。
- 糸井
-
なるほどね。
- 増田
-
プリパッケージされたCDでいいやという
時代じゃなくなって、
「自分だけのアルバムがほしい」という時代には、
お客さんのニーズは
あらかじめ編集されたCDを売ってるだけの
レコード屋さんでは、満たすことができない。
それに対して、貸しレコード屋というのは、
「編集するための素材」を提供してる。
- 糸井
-
ええ。
- 増田
-
これは、現代のファッションでも同じで。
むかしは、
アルマーニを揃いで買っときゃよかったけど、
今は、自分でコーディネイトしたい。
そうなると
好きなコーディネイトを楽しむうえで
たとえば
「黒のタートルネック」がほしいという場合、
その「黒のタートルネック」というのは
「パーツ」ですよね。
- 糸井
-
全体からしてみればね。
- 増田
-
だから、お客さんはパーツ屋さんに行くはず。
- 糸井
-
うん。
- 増田
-
そのパーツ屋さんが、ユニクロなんですよ。
- 糸井
-
うーーーーん。
- 増田
-
いまや、ブログからSNSからレストランまで、
とにかく、
ありとあらゆる物事を編集したがる。
これがつまり、ぼくのいう
「編集権の移動」ということの、意味なんです。
- 糸井
-
それは、増田さんのロマンチックな部分ですね。
- 増田
-
ロマンチック?
- 糸井
-
うん。
- 増田
-
どういう意味だろ、ロマンチックって。
- 糸井
-
つまり、増田さん自身クリエイティブだし
タフなんで、
いつも何かを発信していたい人なんですよ。
だけど、ぼくはそうじゃなくって、
面倒くさくてしょうがない、この時代が。
- 増田
-
あ‥‥そう(笑)。
- 糸井
-
いや、せっかく人が組み合わせてくれて
「これで、どう?」って
言ってくれるものがあるんだったら‥‥。
- 増田
-
いいじゃん、と?
- 糸井
-
つまり、言いかたが難しいんですが‥‥
増田さんは、
彼女とドライブするときに
カセットテープを編集してた人なんだけど、
ぼくは、
誰かに編集してもらってた人なんです。
- 増田
-
そうなの?
- 糸井
-
ユニクロについても
増田さんみたいにとらえてる人って、
そういうことを
ずーーっと考えていられる人というか‥‥
比較的、
インテリな人だと思うんですよ。
- 増田
-
まぁ、そうかもしれない。
- 糸井
-
実際には、世の中の大半のぼくら大衆は
「黒いタートルネック」を
安いからという理由で買うんだけど、
それでも
気分よく買い物ができるという
あの「構造」のほうにあると思うんです。
ユニクロの本質って。
- 増田
-
うーん‥‥。
- 糸井
-
編集権の移動ということよりも、たぶん。
つまり、直接的に言うと、
増田さんがおっしゃる‥‥どういったらいいだろう、
ぼくたち大衆が
すべてクリエイティブなんだというロマンは‥‥。
- 増田
-
持てない?
- 糸井
-
・・・・持てない。
- 増田
-
そうですか。
- 糸井
-
ただ、そのロマンは、素敵だとは思います。
何々であるべきだ‥‥という部分がないと、
ただの物売りになっちゃうから。
- 増田
-
そうですよね。
- 糸井
-
さっき「編集権の移動」という言葉を聞いて
ぼくが頭に浮かべていたのは
増田さんの言ったようなことじゃなくって、
「イニシアチブが変化してる」ってこと。
つまり、生産者が「魅力ある商品とは何か」を
決めていた時代はとっくに終わって、
今は、仕事の合間のわずかな時間を見つけては
素敵なバッグを探しに行く女性のほうが、
「魅力ある商品とは何か」を知ってますよね。
- 増田
-
うん、そうやね。
- 糸井
-
だから、生産者から消費者へと
経済活動のイニシアチブが移動してきたという
ある種、冷たい構造として
今の時代のことを考えていたところで。
- 増田
-
へぇー‥‥。
「お客さんのほうが、わかってる」って部分は
いっしょなんですけどね。
- 糸井
-
そう、だから、ぼくと増田さんのちがいは、
もうちょっと喋ったら、
きっと、おもしろいでしょうね、たぶん。
- 増田
-
じゃ、しゃべりましょうか。もうちょっと。
<つづきます>
2011-3-16-WED