CCC増田宗昭+糸井重里 カフェの視線。

第2回 編集権とイニシアチブ

増田
ざざーっと聞いていただいたんですけど、
いかがでしょう、ご感想とか。
糸井
まず、このプロジェクトをやる場所が
「代官山」だってところが、
心配の分量が少ないですよね、あるていど。
増田
そうですね。
糸井
逆に言うと、「代官山にある」というだけで
成り立つ仕事の分量って
たとえば
どこか郊外に同じものをつくったときに比べて、
だいぶ多いじゃないですか。

新しく考えなきゃならないことは、少ないし。
増田
うん。
糸井
だから、ずっとお話を聞いてましたけど、
すでに増田さんの
セミ成功体験かのようでした、その意味では。

実際にどうなるかは、これからでしょうけど、
「どうなるだろう?」‥‥って
あんまり思わなくてよさそうな、今のところ。
増田
ま、ふつう、この手の企画って
「こういうことをやりたいんだけども
 どこかにいい土地ない?」
みたいなところから始まりますからね。
糸井
そうそう。

それと「プレミアエイジ」というのが
まさしく
今日のテーマなんだと思うんですけど、
これってつまり「自分」ですよね。

増田
そうそう、そうなんです。
糸井
さっき、御社の資料のスライドのなかに
ぼくに似た男が
チラッと出てきてましたけど‥‥。
増田
すみません、勝手に(笑)。
糸井
いえいえ(笑)、
だから、まさにぼく個人のことを言ってしまうと、
たとえば‥‥。
増田
うん、これからの糸井さんは
「何が楽しくて、何がうれしくて、何がしたい?」
というのが、聞きたい。
糸井
もしかすると、どこかで話したことが
あるかもしれないんですけど。
増田
ええ。
糸井
今、ぼくは、自分が「美味しい」って言って
食べていたものを
他の人が「美味しい」って食べてくれると
そっちのほうが、
自分が「美味しい」より「美味しい」んです。
増田
うん、うん‥‥へぇ。
糸井
自分の口で食べるより
他人の口で食べたほうが美味しいって
どういうことなのか。

個人の欲望が
肥大化したのか、変形したのか、共有されてるのか、
ひょっとしたら昔に戻ったのか‥‥。
増田
‥‥ええ。
糸井
‥‥わかりませんが、
そういう構造になってきてるんですよ。

ぼくがうれしいことって、だいたい。
増田
なるほど。いや、そのことと
関係するかどうかわからないんだけど、
‥‥ちょっと関係すると思うんだけど、
「編集権の移動」ということをね、
最近、ぼくはよく、言ってるんですよ。
糸井
ほー‥‥。
増田
なぜ、人々はユニクロに行くのか。

レンタルCDショップが
どうしてこんなに、広まったのか。

それは「値段が安いからだよ」って
みんな言うんだけど
そうじゃないと、ぼくは思うんです。
糸井
ほう。
増田
安いからというのも当然あるとは思うけど、
もっと根本的には
「お客さんの側の変化」があると思ってる。
糸井
たぶん、その話はおもしろいですね。
増田
TSUTAYAというのは、
もともと「貸しレコード屋」だったんです。

糸井
ええ。
増田
買ったら3000円もするCDアルバムが
借りたら、たったの300円。

だからこんなに広まったんだろうって
みんなが言うんだけど、ちがう。
糸井
つまり‥‥。
増田
何がちがうか。

以前は「編集権」というものが、
商品を制作・提供する側にあったんですよ。

具体的に言うと、ユーミンやサザンが
1曲目はこれ、2曲目はこれ、3曲目はこれって
決めたCDを
ぼくたち消費者は、買って聴いてたんです。

すなわち、編集権はアーティストにあった。
糸井
‥‥ええ。
増田
お客さんの側でも、あたりまえのように
編集済みの商品を求めてた。

だけど、たとえば彼女とドライブ行くとき、
「1曲目はサザンのあの曲で
 2曲目にはユーミンのあの曲で」
みたいに、
お客さん自身が編集しはじめたわけです、
そのうちに。
糸井
うん、うん。
増田
だって、そっちのほうが、いいやん?

つまり、そんなふうに
お客さんの「質」が変わっちゃった時代に
貸しレコード屋は、広まったわけ。
糸井
なるほどね。
増田
プリパッケージされたCDでいいやという
時代じゃなくなって、
「自分だけのアルバムがほしい」という時代には、
お客さんのニーズは
あらかじめ編集されたCDを売ってるだけの
レコード屋さんでは、満たすことができない。

それに対して、貸しレコード屋というのは、
「編集するための素材」を提供してる。
糸井
ええ。
増田
これは、現代のファッションでも同じで。

むかしは、
アルマーニを揃いで買っときゃよかったけど、
今は、自分でコーディネイトしたい。

そうなると
好きなコーディネイトを楽しむうえで
たとえば
「黒のタートルネック」がほしいという場合、
その「黒のタートルネック」というのは
「パーツ」ですよね。
糸井
全体からしてみればね。
増田
だから、お客さんはパーツ屋さんに行くはず。
糸井
うん。
増田
そのパーツ屋さんが、ユニクロなんですよ。
糸井
うーーーーん。
増田
いまや、ブログからSNSからレストランまで、
とにかく、
ありとあらゆる物事を編集したがる。

これがつまり、ぼくのいう
「編集権の移動」ということの、意味なんです。
糸井
それは、増田さんのロマンチックな部分ですね。
増田
ロマンチック?
糸井
うん。
増田
どういう意味だろ、ロマンチックって。
糸井
つまり、増田さん自身クリエイティブだし
タフなんで、
いつも何かを発信していたい人なんですよ。

だけど、ぼくはそうじゃなくって、
面倒くさくてしょうがない、この時代が。
増田
あ‥‥そう(笑)。
糸井
いや、せっかく人が組み合わせてくれて
「これで、どう?」って
言ってくれるものがあるんだったら‥‥。
増田
いいじゃん、と?
糸井
つまり、言いかたが難しいんですが‥‥
増田さんは、
彼女とドライブするときに
カセットテープを編集してた人なんだけど、
ぼくは、
誰かに編集してもらってた人なんです。
増田
そうなの?
糸井
ユニクロについても
増田さんみたいにとらえてる人って、
そういうことを
ずーーっと考えていられる人というか‥‥
比較的、
インテリな人だと思うんですよ。
増田
まぁ、そうかもしれない。

糸井
実際には、世の中の大半のぼくら大衆は
「黒いタートルネック」を
安いからという理由で買うんだけど、
それでも
気分よく買い物ができるという
あの「構造」のほうにあると思うんです。
ユニクロの本質って。
増田
うーん‥‥。
糸井
編集権の移動ということよりも、たぶん。

つまり、直接的に言うと、
増田さんがおっしゃる‥‥どういったらいいだろう、
ぼくたち大衆が
すべてクリエイティブなんだというロマンは‥‥。
増田
持てない?
糸井
・・・・持てない。
増田
そうですか。
糸井
ただ、そのロマンは、素敵だとは思います。

何々であるべきだ‥‥という部分がないと、
ただの物売りになっちゃうから。
増田
そうですよね。
糸井
さっき「編集権の移動」という言葉を聞いて
ぼくが頭に浮かべていたのは
増田さんの言ったようなことじゃなくって、
「イニシアチブが変化してる」ってこと。

つまり、生産者が「魅力ある商品とは何か」を
決めていた時代はとっくに終わって、
今は、仕事の合間のわずかな時間を見つけては
素敵なバッグを探しに行く女性のほうが、
「魅力ある商品とは何か」を知ってますよね。
増田
うん、そうやね。
糸井
だから、生産者から消費者へと
経済活動のイニシアチブが移動してきたという
ある種、冷たい構造として
今の時代のことを考えていたところで。
増田
へぇー‥‥。

「お客さんのほうが、わかってる」って部分は
いっしょなんですけどね。
糸井
そう、だから、ぼくと増田さんのちがいは、
もうちょっと喋ったら、
きっと、おもしろいでしょうね、たぶん。
増田
じゃ、しゃべりましょうか。もうちょっと。

<つづきます>

2011-3-16-WED