「わたし」を肯定するために。

(ここからはジェインさん、ケリーさん、
 糸井重里のミニトークをご紹介します)

糸井
おふたりとも、ありがとうございました。
今日はみんなとても熱心に聞いていて、
めずらしいことです。
ぼくがしゃべってると、たまに寝てたりしますから。
一同
(笑)
糸井
ではまず、ぼくから感想をお話しします。
おふたりのお話は、それぞれ別のテーマでしたが、
一つのつながった話のように聞こえました。
常識のように信じられていることに
新しい視点をもたらす話でありながら、
多くの人が納得するお話だったと思います。
ぼくもそうでしたが、ここにいるみんなも、
「この話は、自分も前から感じていたことだ!」
と思った人が多いんじゃないか。
そう感じた人、拍手してみてください。
一同
(大きな拍手)
おふたり
(笑顔)
糸井
また、いまのお話は研究の話でありつつ、
ぼくにはおふたりが、
それぞれ歩んできた人生のことを
語っていたように聞こえました。
ジェインさんも、ケリーさんも、
「『わたし』自身を肯定するために、
考えたいことはこれなんだ!」
ということを研究されてきたんじゃないか。
おふたり
(顔を見合わせて笑う)
糸井
ジェインさんは
「どうして自分はゲーマーなんだろう?」
「ゲームをやるのはすこし後ろめたいな」
と思いながらも、
ゲームにのめり込んでいった自分を
研究によって肯定していった。
「この自分でいいんだ!」と発見した喜びに、
満ちているお話だったと思います。
ジェイン
はい。
糸井
おそらく世界中に、
ジェインさんと同じような思いをかかえた
ゲーマーのかたが、たくさんいると思います。
うちの会社にも西田くんという、
かつて、家に引きこもって
ゲームばかりしていた子がいるのですが(一同笑)、
いま、とても元気に活躍しています。
彼はゲームがうまくて、
自分の仕事をゲームをクリアするように
解決しているのを、よく目撃しています。
ジェイン
いい話ですね。
糸井
いっぽうケリーさんのお話も、
ぼく自身がとてもストレスを感じる人間なので、
よく理解できました。
ケリーさん自身が
「感受性が強すぎて、ストレスの多い自分」を
なんとかしたいとずっと考えてきた。
そしてあるとき、ストレスから逃げるのではなく、
「一緒に歩めばいいんだ」と発見した。
今日はそのときのうれしさを、
みんなに分けてくれているように感じました。
かつてのケリーさんと同じ悩みを抱えている、
多くの人たちの助けになる話だったと思います。
ケリー
そうだといいなと思います。
糸井
また、おふたりのお話を聞きながら、
ぼくは、以前自分が作った
『MOTHER』というゲームのことを思い出しました。
そのゲームには英語版もあって
『EARTHBOUND』という名前なんですが、
知っていますか?
ジェイン
はい、もちろん知っています。
糸井
『MOTHER』の主人公というのは
スーパーヒーローでもなんでもない、
ひとりの、ふつうの男の子なんですね。
ぜんそく持ちで、気が弱くて、
お母さんだけの家庭に育ってる。
とくに何か特技を持っているわけでもない、
そんな「ふつうの子」の物語を作りました。
ジェイン
ええ。
糸井
ただ、英語版を出すとき、この物語は
日本の人たちには共感できても、
超人的なヒーローたちのたくさんいるアメリカで
うまく伝わるだろうか、と思っていたんです。
だけど実際に英語版を出してみたら、
このゲームを大好きだと言ってくれる
アメリカの人たちにたくさん出会えました。
また、最近になって、そういう人たちから
「アメリカにもこのゲームに共感する
『ふつうの子』はいっぱいいますよ」
と教えてもらって
「そうか、そうだよな」と思ったんです。
国や文化が違っても心の奥のところには、
あるていど、みんなが
同じように感じている部分がある。
ジェイン
ええ、そうですね。
糸井
今日のおふたりのお話も、
強い、超人的な人たちに向けた話じゃなくて、
ふつうの人たちみんなを肯定する
お話だったと思うんです。
そういった、ぼく自身がなんとなく
感じてきたことを、
今日はおふたりが研究として言ってくれた気がして、
聞いていてとてもうれしかったです。
ケリー
ありがとうございます。
ジェイン
そんなふうに言ってもらえて、うれしいです。
糸井
ただ、おふたりは今日の講義のテーマについて、
それぞれ分厚い本を書かれていますよね。
いまの話で全部のはずがない。
だから今日は残りの時間で、
そのあたりのことについて、うかがってみたいです。
本を作るにあたって、
「実はこんなに大変だったんだよ」という
お話があれば、教えてください。
では、ジェインさん、いかがでしょうか。
ジェイン
実はこの本には、500件の研究結果が
掲載されています。
これはすごい量なんですね。
だけど、人々に
「ゲームはわたしたちを助けるものなんだ」
と納得してもらうには
それだけの量が必要だったんです。
糸井
ああー。
ジェイン
というのも、ゲームはいまだに
「時間の無駄だ」「意味がないことだ」
みたいに考えられがちなんですね。
毎日ゲームを遊ぶような人たちですら、
どこか後ろめたく思いながら遊んでいる人が
ずいぶん多いんです。
だから、ゲームはわたしたちを
成長させてくれるものでもありますが、
多くの人はそんなこと、考えたこともないんです。
だから、その事実を伝えるための努力は
惜しみませんでした。
糸井
なるほど。
ジェイン
また、研究してわかったのが、
そんなふうにゲームをすることに
「後ろめたさや恥ずかしさを感じていない人が、
ゲームでいちばん成長できる」
という事実でした。
だからわたしはずっと
「どうやったらみんなのゲームに対する
後ろめたさがなくなるだろう?」
ということを考えながら、本を書いていました。
糸井
いまのお話はなんだか
幼稚園での子どもたちの遊びの話に
通じる話という気がしました。
積み木やおりがみ、
車のおもちゃとか、お絵かきとか。
幼児たちは遊んでいるけれど、
そこからすごくたくさんの気づきを得ている。
そうした教育をコンピューターゲームに
置き換えたような話だと思いました。
ジェイン
ああ、そのとおりですね。
糸井
ジェインさんは以前、幼児教育について
学ばれたことがあるんでしょうか?
ジェイン
実は、わたしはまさにいま、
幼児教育について学んでいるところなんです。
糸井
そうなんですか。
ジェイン
というのも、わたしにはいま、
ちょうど8ケ月のふたりの娘がいるんです。
そしてふたりは、わたしたちのように
双子なんですけど。
一同
わぁー(笑)。
ジェイン
そしてもうひとつあります。
実はわたしたちふたりの母親というのが、
まさに幼稚園の先生なんです。
だから、きっと母の存在も、
わたしの研究に影響していると思います。
糸井
なんと。
ケリー
(笑)
ジェイン
すばらしい洞察力ですね。
糸井
いやいや、そうですか。
驚きました。
たぶん、ぼくは英語がわからないから、
幼児のように感じたんだと思います。
‥‥もうひとつ質問させてください。
ゲームを幼児教育のように考えると、
きっと「いいゲーム」「悪いゲーム」が
あると思うんです。
そのときジェインさんが考える、
「いいゲーム」とはどんなものでしょう?
ジェイン
実はわたしはゲームについて、
「いいゲーム」や「悪いゲーム」が
あるわけではないと思っています。
ですが
「ゲームをやるのにいいタイミング」
というのはあると思います。
糸井
タイミング。
ジェイン
たとえば『テトリス』がすごく役立つ
タイミングというのがあるんです。
何か悪いことが起きて、そのことがずっと
頭から離れないときがありますよね。
そういうときに『テトリス』をプレイすると、
いちど考えを止められることが
科学的調査でわかっています。
実際に『テトリス』が、
PTSDの回避に使われている例もあります。
トラウマになるようなショックな出来事が起きたとき、
24時間以内に『テトリス』をすれば、
フラッシュバックを避けやすくなるんです。
糸井
はぁー、そうなんだ。
ジェイン
ただし逆に、タイミングが悪いと、
ゲームをすることで不安を覚えたり、
怒りを感じたりすることだってあるかもしれません。
また、ほかの大事なことをする時間を
奪ってしまうこともあると思います。
「いつが自分にとっていいタイミングなのか」を
それぞれの人が考えることが大切だと思ってます。
糸井
ジェインさん自身は、
どんなタイミングでゲームをしていますか?
ジェイン
わたしはたとえば
「ちょっと助けがほしいな」というとき、
友人たちとつながるソーシャルゲームを
したりしますね。
糸井
ちょっと気持ちの助けになる?
ジェイン
そうなんです。
あと、ゲームが思いがけないところから、
わたしを助けてくれることもあります。
わたしは義理の父や母、親戚たちとみんなで
『クラッシュ・オブ・クラン』や
『キャンディ・クラッシュ・ソーダ』といった
携帯ゲームをプレイしているんですね。
そして、わたしが彼らに
パワーアップアイテムを贈るときがあるんです。
そうすると彼らがお返しとして
‥‥娘たちの世話をしにきてくれて。
一同
(笑)
糸井
ゲームの世界の恩返しが、
現実世界でおこなわれたりするんですね。
ジェイン
そうなんです。
そんなふうに、ゲームは現実と混じり合って、
いろんなかたちでわたしを助けてくれます。
<つづきます>
2016-04-01 FRI
協力: 株式会社タトル・モリエイジェンシー