- 糸井
- では、こんどはケリーさんに質問させてください。
いま隣に座っているとても近しい人が、
こんなにゲームについて語っています。
なのにケリーさんは、
どうしてゲームをしないんでしょう?
- 一同
- (笑)
- ケリー
- それはいい質問ですね。
まず、わたしたちは一卵性の双子ですから、
ゲームへの興味というのは
遺伝子で決まるわけではないんでしょうね。
- 糸井
- そうなんでしょうね。
- ケリー
- ただ、わたし自身はゲームはしませんが、
子どものころ、ゲームに熱中するジェインのそばで
眺めているのがたのしかったんです。
実際にゲームをしなくても、そばで共感して、
ゲームのたのしさを感じていました。
- 糸井
- それは、子どもがご飯を食べるのを見ていると、
お父さんとお母さんが自分が食べなくても
「おいしい」と思うようなことですね。
- ケリー
- まさにそんな感じだったかもしれません。
そして、成長したわたしの研究のメインテーマは
「共感」や「思いやり」になりました。
双子であるわたしたちは
深いところでつながっていて、
日々、共感しあうことが多いんです。
それがわたしがそういったテーマに惹かれた
理由かもしれません。
- 糸井
- その深いつながり、うらやましいです。
‥‥だけど一緒にいながらも、
興味を持った部分はすこし違ったんですね。
- ケリー
- そうなんです。
そうだ、子供時代のわたしたちの違いを
よくあらわしている、
ちょっとおもしろい話があるんですけど‥‥。
- ジェイン
- (笑いながら)えっ、あの話?
- ケリー
- うん、わかりやすいでしょう?
- ジェイン
- そうね‥‥。
- ケリー
- いまジェインが笑った話はなにかというと、
わたしは小さいときから
動物保護に関心があったんです。
それで、9歳のときに友達たちと
動物保護をするクラブをはじめました。
それは、友達たちと寄付を募って、
そのお金で動物の保護をするというものでした。
ある年末、
わたしは友達と一緒にお金を集めたんです。
でも‥‥。
- 糸井
- ええ。
- ケリー
- ジェインが友達みんなを説得して、
そのお金を使って、おもちゃ屋さんで
ショッピングをすることにしちゃったんです。
- 一同
- (笑)
- ケリー
- だからそんなふうに、わたしは小さいときから
「誰かを助けたい」気持ちが強くて、
ジェインは‥‥。
- ジェイン
- 「遊びたい、プレイしたい」
- ケリー
- って思いが強くて。
- 一同
- (笑)
- ケリー
- だから、こうやって
それぞれのテーマで本を出すようになって、
そういったわたしたちの違いをはっきり理解して、
ふたりの個性を後押ししてくれた両親に、
とても感謝しています。
- 糸井
- なるほど、ご両親もはっきり
理解されていたんですね。
‥‥だけど、おふたりにはそういう
違いもありながら、
すごく似ている部分もあるんですよね?
- ケリー
- はい、もちろんです。
たとえば、わたしたちの根底にははっきりと
「悲しんだり、苦しんだりしている人の
役に立ちたい」
という思いがあります。
また、わたしたちは、
悩んでいる人や苦しんでいる人を見ても
まったく驚かないところが共通しています。
人はそれぞれ、ほかの人にはわからない
悩みや苦しみを持つものですから。
- 糸井
- たしかにそのスタンスは、
おふたりの研究に共通してますね。
- ケリー
- だと思います。
- 糸井
- いま話された「驚く」ということについては、
ぼくも前に考えたことがあります。
ただ驚くって、理解しようとしてないんですよね。
「驚く自分がいる」こと自体はいい。
だけどそのとき、その自分の反応と同時に、
「どうして驚いているんだろう?」
と考える自分がいないと、
世界は失礼なことだらけになる気がするんです。
- ケリー
- そうなんですよね。
「感情を大切にしながらも、引いた目で見る」
って、すごく大事で。
- ジェイン
- すこし話が逸れるかもしれませんが、
ゲームの考え方でも、
そういう視点が大事なんですね。
たとえば対戦ゲームで、
相手が思いがけない行動をしたときに、
驚いて怒ってしまうのではなく、
「びっくりした‥‥じゃあどうしよう」
と考える姿勢が大切なんです。
そういう姿勢でいると、より成長しやすくなることも、
研究からわかっています。
- 糸井
- もうひとりの自分の目を
「現状を乗り越えるヒントにする」んですよね。
- ジェイン
- そういうことです。
- 糸井
- いまのお話は、ぼくが個人的に
「すごいな」と思っている人たちの
考えかたとよく似ています。
たとえば野球選手のイチローや、
矢沢永吉というミュージシャンの話なんですが、
ふたりとも、自分のなかに、
もうひとりの自分がいるらしいんです。
そして、緊張するような場面では、その自分が
「イチロー頑張れ」とか「ヤザワ頑張れ」とか
言ってくれるらしいんです。
- ケリー
- そういう「セルフ・トゥ・セルフ」
(自分のなかのいろんな自分)は
わたしの研究分野のひとつなので、
とてもよくわかります。
人って「怖い」と思いながら
別の心が「頑張るぞ」と考えたり、
「できない」と言いながらも
同時に「やってみたい」と感じていたり、
人の心って、そういった多面性を持ちながら、
自分にとって大切なことを
うまく成し遂げようとするんですよね。
- 糸井
- あと、ぼくは最近、
うちの会社がやろうとしていることって
「みんなの『いい時間』を増やす」
ということでもあると思ったんですけど、
おふたりの研究のお話は、まさに、
みんなの「いい時間」を増やすものでも
あると思いました。
- ジェイン
- 「いい時間」を増やすもの。
- 糸井
- たとえばジェインさんのお話は、
「あぁ、ゲームなんかしちゃった」とか、
みんなに「悪い時間」と思われやすかった
ゲームをしている時間を、
「いい時間」に変えてくれるものですよね。
- ジェイン
- そうですね。
ゲームをやっている時間について
「この時間は自分の役に立っているんだ」
と思うことができるようになると、
急にそれが「いい時間」に変わります。
- 糸井
- また、ケリーさんのお話というのも、
「悪い時間」だと多くの人に信じられていた
強いストレスのある時間を、
「実は、どう捉えるかによって、
『いい時間』にできるんだ」と
気づかせてくれるようなものでしたよね。
- ケリー
- はい。
「ストレスは悪いものじゃないんだ」
「このストレスがわたしの力になるんだ」
という考えはじめると、
ストレスも自分の力になりますから。
- 糸井
- どちらも視点が変わることで、
その時間を「いい時間」に変えることができる。
おふたりはそれぞれに、
いままで「悪い時間」だと思われていた時間を、
「いい時間」だと取り戻すための道具を
作ってくれた、という気がしました。
- ケリー
- 今日は、わたしたち姉妹の
たくさんの秘密のつながりを見つけていただいた、
という気持ちです。
- 糸井
- 今日のお話のことを考えて、
どう進んでいくんだろうと思っていたんです。
しかもおふたりの研究は、似ていながら違う、
違いながらも似ている話じゃないですか(笑)。
- おふたり
- (笑)
- 糸井
- でも、とてもおもしろかったです。
いろいろと考えるヒントをもらいました。
ありがとうございました。
- ケリー
- こちらこそ、とてもたのしかったです。
- ジェイン
- たのしかったです。
ありがとうございました。
- 一同
- (大きな拍手)
<連載はこちらでおしまいです。
お読みいただき、ありがとうございました>
お読みいただき、ありがとうございました>
2016-04-04 MON
協力: 株式会社タトル・モリエイジェンシー