- ──
- 担当編集として、岡田さんは、
けっこうなご苦労があったのかなと、
造本を見ると、思うのですが。
- 岡田
- そうですね(笑)。
- ──
- 本は、はじめのイメージのとおりに、
できあがった感じですか?
- 岡田
- いや、こういう仕上がりになるとは、
想像できてなかった部分もあります。
- ──
- 当初の想定とは、けっこうちがった?
- 岡田
- 基本のコンセプトは変わりませんが、
やはり、つくりや仕様の部分で。
- ──
- 思い切ったことをしてますもんね。
- 岡田
- そうですね、かなり。
- junaida
- この本のアイデアと、
そのアイディアを実現したい思いと、
そういうものが
たくさん詰まっていたので、
最初から、
ふつうにつくることができない本に
なってしまっていたんです。
- ──
- 本の「前後」がなかったりとか。
- 岡田
- そこがですね‥‥(笑)。
- junaida
- いわゆる「両A面」じゃないですが、
どちらの側も
等しく「表紙」にしたかったんです。
その「無理難題」に、岡田さんと
ハルさんが取り組んでくださって。

- ──
- どっちの側からも読める絵本‥‥を、
流通に乗せるためには、
思った以上に、
超えるべきハードルが多かった、と。
- 岡田
- そうですね、ふつうの本の場合には
バーコードや価格を、
裏表紙に印刷するわけですけど、
それをやってしまうと、
必然的に、
そちらが「後ろ」になっちゃうので。
- ──
- 絵本の「前後」が、決まってしまう。
どうされたんですか。
- 岡田
- きれいに剥がせるステッカーを貼り、
そこに、すべてを印刷しました。
- ──
- すべて。
- 岡田
- はい、すべて。
- ──
- バーコードだけを
剥がせるステッカーに印字した本は、
たまに見ますけど。
- 岡田
- そうですね。
今回は価格やバーコードだけでなく、
版元名や「ISBN」も印刷し、
さらに
「このシールは、剥がしてください」
という但し書きまで印刷しました。
- ──
- つまり「このシールは剥がせます」
ではなく、
もう「すぐ剥がして!」と(笑)。
- junaida
- はい、「お願い」の感じで(笑)。

- 岡田
- これが‥‥ちょっと異例だったので、
ドキドキしてたんですけど、
会社が、OKを出してくれたんです。
版元として、
ありがたい判断をしてくれましたね。
- ハル
- オクヅケ‥‥もね?
- 岡田
- あ、奥付。そこもひと工夫しました。
- ──
- 奥付とは、本のいちばん最後にある、
著者名とか、発行年月日とか、
何刷とかの情報が書かれている場所。
ふつうの本だと、
奥付があるほうが後ろになりますね。
- 岡田
- そうですね、和書では、ほとんどが。
なので、ハルさんと相談して、
前にも後ろにも奥付を入れたんです。
日本語の奥付と、英訳した奥付を。
- ──
- なるほど。
- junaida
- 話が前後しますが、本のタイトルは、
ローマ字で『Michi』ですけど、
反対側に、
ひらがなで「みち」と書いたんです。
どういうことかというと、
当初はひらがなで考えてたんですが、
福音館書店さんには、
すでに『みち』という絵本があって。
- ──
- へえ、どなたの‥‥。
- 岡田
- 五味太郎さんのデビュー作です。
- ──
- そのかたの処女作とかぶったんですか!
ある意味、すごい。
- junaida
- でも、児童書にするっていう意味でも
平仮名の『みち』も諦めがたく、
「せっかく両A面の絵本なんだから」
という思いもあって、
「オフィシャルタイトルはローマ字で、
もう片方の表紙に
ひらがなで『みち』と書きましょう」
ということになったんです。

- ──
- つまり、日本語の「みち」の側に‥‥。
- junaida
- そう、日本語の奥付を、
ローマ字の側に、奥付の英訳を置いて。
- ──
- きれいにまとまりましたね、むしろ。
- junaida
- 本の前後がないこともキープしつつ、
結果として、
デザイン的な整合性も取れたんです。
- ──
- こうして福音館書店としても、
めずらしい絵本ができあがった、と。
- 岡田
- はい。ないですね、こういう本は。
まだまだあって、たとえば、
内容的に、
ふつうの製本ができなかったんです。
- ──
- 物語それ自体が、製本に影響する?
- 岡田
- ふつうの本みたいに製本すると、
「ノド」‥‥
つまり紙が閉じてある真ん中の部分で
「道が途切れてしまう」ので。
- ──
- うわあ、なるほど!
つまり、右ページと左ページの間に、
切れ目ができてしまう。
- 岡田
- そうすると「道」としては、
いちどそこで切れちゃってますよね。
ふつうの製本では、左右のページを
別の紙に印刷することになるので、
道が、本当には、つながらない‥‥。
- ──
- はあー‥‥。
- 岡田
- そこで、右のページと左のページを
一枚の紙に印刷する
「合紙」という製法をとったんです。
- ──
- 通常の製本法でも、見た目上は
道が続いてるようにできると思いますが、
これはもう、
つくり手側の気持ち的な問題ですよね。
- 岡田
- そうですね、通常の製本の仕方ですと
どうしても多少はズレますし、
「ノドに食われる」って言いますけど、
綴じの部分に絵が食いこんで、
見えなくなる部分も、あると思うので。
- junaida
- ずっと目で追ってきた道が、
ノドでいったん途切れてしまうんです。
それだけはやりたくなかったというか、
その「ノド」の部分で、
急に、現実に戻される気がしたんです。
- ──
- せっかく一本の道を歩いてきたのに。
- junaida
- でも、合紙の製法をとれば、
パタンと綺麗に開くことができるので、
どのページでも、
道が、完全に一本につながるんです。

- 岡田
- 合紙は、赤ちゃん向けの絵本ですとか、
ちいさなサイズの絵本では
やってるんですが、
このサイズの絵本で合紙、というのは、
ちょっと前例がありませんでした。
- ──
- 手間のかかる製法なんでしょうね。
- 岡田
- 裏を印刷しないので、ふつうの倍です。
一般的な製法の本では、
紙の「裏表」に印刷をしていますけど、
合紙の裏は印刷せずに、白いまま。
- junaida
- 表にばっかり印刷して、
白い裏と裏を貼り合わせて本にします。
技術もコストも手間もかかる製法です。
- ──
- それもこれも、
一本の「道」を途切れさせないために。
- junaida
- そうです。
- ──
- 物理的にも、気持ち的にも。
- junaida
- はい。
<つづきます>
2018-11-22-THU