HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

アイディアのたどる、未知の道。ーjunaidaさん最新作『Michi』はいかにして「絵本」になったかー アイディアのたどる、未知の道。ーjunaidaさん最新作『Michi』はいかにして「絵本」になったかー

画家junaidaさんの最新作は
「絵本」でした。「画集」ではなく。
ひとりの画家があたためていた
アイディアとコンセプトは、いかにして、
一冊の「絵本」として結実したのか。
その旅路、道行き、具体化の過程を、
junaidaさん、この絵本をデザインした
グラフィックデザイナーのハル・ユデルさん、
福音館書店の編集者・岡田望さんに
振り返ってもらいました。
絵本のタイトルは『Michi』と言います。
ひとりの少年とひとりの少女が、
色とふしぎにみちた世界を、
真っ白い道に導かれて旅する物語です。
担当は「ほぼ日」奥野です。

第3回 最高のチームで歩いた。

──
ハルさんは、どんな気持ちで、
この本をデザインなさったんですか。
ハル
junaidaの絵がすばらしいから、
グラフィックは‥‥静かに、静かに。
junaida
そこが、ハルさんの最高なところ。
空間を美しくデザインしてくれる。

あの‥‥なかには、
デザインでつよめに主張をしないと、
デザインした気になれない人も、
まあ、いらっしゃると思うんですよ。
──
junaidaさんは過去の画集をはじめ、
オリジナルのグッズなども
自分自身でデザインされているから、
ビシッと言える意見ですね。
junaida
その点、ハルさんは、
そのものに必要十分なデザインを
出してくれるんです。

個人の主張みたいなものより、
デザインとして「いい佇まい」を
最優先してくれるから、
ぼくは、すごく信頼してるんです。
ハル
ありがとう。
──
といっても、当然ですけど、
何にもしてないってことじゃなく。
junaida
もちろん、もちろんです。

字の大きさや配置、間隔が絶妙で、
絵を引き立たせてくれます。
ハルさんデザインじゃなかったら、
こうはならないんです。
──
みなさんの関係性を見ていると
すごくチーム感があっていいなあと
思うんですけど、
所属はバラバラというか、
臨時のチームではあるわけですよね。
junaida
そうですね。
──
それが、おもしろいなあと思います。
junaida
岡田さんもね、すばらしいんです。
まず、とっても大好きな編集者で。
岡田
ああ、うれしい(笑)。
junaida
押し出しの強いところはないですし、
話しぶりとかも、
物静かな感じではあるんですけれど、
でも、じつは情熱にあふれる人。

心のなかで、ひそかに
パッション岡田と呼んでるくらいで。
──
おお、急に芸人っぽい感じに(笑)。

でも、本に対しては、
それほどまでに情熱家でらっしゃる。
junaida
そうなんです。で、それはきっと、
ぼくとやっている仕事だけじゃなく、
どの仕事でも、誰との仕事でも、
そうなんだろうなと伝わってきます。
──
わかる気がします。
junaida
たがいの意見がぶつかった場合には、
何でも「はい、はい」と
ぼくの言うことを聞くわけじゃなく、
でも、理解をしてくれるし、
意見を尊重してくださっているのが、
よくわかるんです。
──
気持ちを共有してくれるんですね。
junaida
そう、だからこそ、
岡田さんから出たアイデアや意見も、
そっちのほうがいいと思ったら、
すなおに自分の意見を変えられます。

そういう関係性って、必ずしも、
誰とも築けるわけではないんですよ。
──
最近、他社で本をつくったんですが、
制作を進めるにあたって、
そこの編集者がついてくれたんです。

自分が編集の役のときには、
何にも思っていなかったんですけど、
「編集者って助かるなあ!」
って、しみじみ、思ったんですよね。
junaida
そう思いますね。自分以外の人間で、
今、この世の中で誰よりも、
目の前の作品について、
情熱を持って、
本気で考えてくれる人‥‥ですから。
──
編集者というのは。
junaida
今回も岡田さんは、何度となく
自分のことのように悩んでくれたし、
よろこんでくれたし、
アイデアを出してくれました。
「道」を、切り開いてくれたんです。

ぼくとハルさんが
「こーんな絵本にしたいな♡」って
妄想していても、
岡田さんがいなかったら、
何にも実現しなかったわけですから。
──
はい。本の「前後」をなくしたいと
言ったてみたりね(笑)。

それと、聞くところによると、
印刷の色を調整する
プリンティングディレクターの方が、
とんでもない人だったとか。
岡田
そうです。佐野さんとおっしゃって、
すでに退職されているんですが、
「ここぞ」という場面で、
出てきてくださる超ベテランですね。
──
ここぞ。
岡田
微妙な色調整が必要な写真集や画集は、
「佐野さんじゃないと」
という感じで、お願いされるようです。

今回も、junaidaさんということで。
──
レジェンドがお出ましに。
junaida
すごかったです。
──
具体的には、どこが、どのように?
junaida
原画と印刷物って別物じゃないですか。
──
原画は無限の色からできていますけど、
印刷物の場合は、
その無限の色を4色に分解して、
再構成している‥‥という意味ですね。
junaida
そう‥‥なんですけど、
佐野さんが手がけてくださる色校って、
原画とならべて見くらべても、
どっちが原画で、どっちが色校か、
一瞬わかんなくなる瞬間があるんです。
──
わあ。
junaida
部分的には、原画よりも、
絵のよさを引き出してくださっている、
そんなこともあるくらいでした。
──
色を見わける目がいいってこと?
junaida
経験値、ですね。
──
ああ、もう少しマゼンタを足せば、
もっとよくなるだろうみたいな判断が。
junaida
的確。ものすごいところまで、
原画に寄せてきてくださるんですよね。

理解力が、すばらしいんだと思います。
元の絵にたいして、
画家がいちばん大事に思っている部分、
そのポイントを完璧に理解して、
きちんと印刷に出してくださるという。
岡田
今回も、原画を目にした瞬間、
「ここは蛍ピンを使いましょう」って。
──
蛍ピン‥‥蛍光ピンク?
junaida
そう、このページには、
蛍光ピンクの特色を使ってるんですが、
原画の朱色を見て、
「このページには、
 蛍光ピンクを混ぜたほうがいい」と。
──
それを瞬時に見抜いちゃう。
junaida
もう、びっくりしっぱなし。
岡田
あの、高野山に、
「誰も見せてもらえない曼荼羅」が
あるんですけど。
──
はあ。
岡田
その写真集をつくることになったとき、
プリンティングディレクターの
佐野さん一人だけ、
その曼荼羅を見せてもらったそうです。

つまり「実物を見ないと」ってことで。
──
誰も見せてもらえない曼荼羅を、
見せてもらえる‥‥まさにレジェンド。
junaida
とにかく、最高のチームでした。
──
ほんとですね。その編成で、
未知の道を歩んできたわけですよね。

junaidaさんを先頭に、
junaidaさんが信頼を寄せるハルさん、
パッション岡田さん、
そして‥‥レジェンド佐野さん。
junaida
最高のチームでしょう?(笑)
<つづきます>
2018-11-23-FRI

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