HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

アイディアのたどる、未知の道。ーjunaidaさん最新作『Michi』はいかにして「絵本」になったかー アイディアのたどる、未知の道。ーjunaidaさん最新作『Michi』はいかにして「絵本」になったかー

画家junaidaさんの最新作は
「絵本」でした。「画集」ではなく。
ひとりの画家があたためていた
アイディアとコンセプトは、いかにして、
一冊の「絵本」として結実したのか。
その旅路、道行き、具体化の過程を、
junaidaさん、この絵本をデザインした
グラフィックデザイナーのハル・ユデルさん、
福音館書店の編集者・岡田望さんに
振り返ってもらいました。
絵本のタイトルは『Michi』と言います。
ひとりの少年とひとりの少女が、
色とふしぎにみちた世界を、
真っ白い道に導かれて旅する物語です。
担当は「ほぼ日」奥野です。

第4回 ようやく出会えた、ふたり。

──
今回、かなり濃密なスケジュールで、
この絵本を描きあげてましたよね。
junaida
そうですね、けっこう大変でした。

なにせ、この本を描いている最中に、
筆を変えたくらいですもん。
──
筆?
junaida
ごらんのように細かい絵なので、
細い筆を使ってたんですが、
腕の筋肉がへんになっちゃって。

細い筆を握ってられなくなって、
柄の太い筆に変えたんです。
──
どっちかの腕だけムキムキな人が
たまにいますけど。腕相撲の人で。
junaida
そこまでじゃないけど(笑)。
──
どれくらい描いてたんですか、1日に。
junaida
ふだんの倍くらいかな。
──
つまり1日に2日分ぶん‥‥ってこと?
junaida
じゃないと間に合わなかったんです。
──
具体的には‥‥。
junaida
朝の8時くらいにはもう描きはじめて、
夜は11時とか、12時くらいまで。
──
う、わー‥‥。
junaida
描きはじめると、1枚を描くのに、
何日くらいかかるなって、
なんとなくわかってくるんですね。

その日数にページ数をかけると、
完成までの日数が、だいたい出る。
──
ええ。
junaida
そしたら「これは年内、厳しいな」
という感じだったんで、
岡田さんに、相談したんです。

「じゃあ、来年にしましょう」って
言ってくれるだろうと思って。
──
優しそうですもんね。
junaida
そしたら「いや、年内で!」と。
──
鬼! 優しい顔の皮を被った鬼(笑)。
岡田
いやあ、すみません‥‥(笑)。
──
でも(笑)、まあ、
そこは編集者の仕事ですものね。
岡田
仕上がりがすばらしいものになると
確信していたので、
junaidaさんには悪いんですが、
なるべく早く出したいと思いました。
junaida
で、そこで「うわぁ」となって、
スケジュールを切りなおしたら、
1日に倍くらい描かないと、
間に合わない計算になったんです。

そのことがわかった日、奥さんに、
「すまないんだけど、
 絵だけに集中させてほしい。
 家のことは、
 明日からしばらく任せました」
と言い残して。
──
旅に出た、と(笑)。
で、そのような生活を‥‥何ヶ月?
junaida
4ヶ月‥‥くらい。
──
はあ、すごい。それは、
腕も使いものにならなくなりますね。

でも、こう言うのも何ですが
福音館書店から絵本を出したい人は、
山ほどいると思うんですよ。
junaida
そうだと思います。
──
出したくて出したくて出せない人が、
おおぜいいますよね、きっと。
junaida
ですから、大変だったけど、
そんなことは、どうでもいいことで。

本当に光栄だと思います。
今までも、絵本は出していますけど、
絵本作家だったわけではないし、
王道の絵本を、
描いてきたわけでもないですから。
──
ちなみに、福音館書店の社内では、
どんな反応なんですか?
岡田
すごく、おもしろがられてます。

会議室で色校を見てたんですけど、
社員みんなが
入れ替わり立ち替わりやってきて、
色校を見てすごいねーって(笑)。
──
よかったですねえ。
junaida
はい、よかったです。ひとまずは。
あとはたくさん売れてほしいです。
──
福音館書店は歴史ある出版社だし、
何十年も売れ続けている
ロングセラーがいくつもあって、
正直言って、
新しいチャレンジをしなくたって
大丈夫そうに見えるんです。
岡田
でも、それは、
常々突きつけられていることです。

つまり、この本は、
チャレンジに値する本なのかって。
──
そうか‥‥なるほど。
岡田
それに、福音館の歴史を考えると、
つねに「開拓者」だったんです。
──
たしか、はじめは
金沢のいち本屋さんだったんですよね。
岡田
そう、何もないところから
現在へ続く道を切り開いてきたという、
そういう開拓者精神があります。

ちがうジャンルの人たちに、
「絵本、児童書」というフィールドで
新しい表現をしていただきながら、
自分たちの場所を、
少しずつ築き上げてきた会社なんです。
──
彫刻家の佐藤忠良さんに
ロシア民話の『おおきなかぶ』の絵を
描いていただいたりとか。
岡田
もともとは漫画家だった長新太さんや
佐々木マキさんもそうだし、
堀内誠一さんはデザイン方面でしたし。
junaida
そう考えると、本当にいろいろな人が、
他のジャンルから来てますね。
──
絵本だから
やってくださるようなところや、
絵本だから、
腕まくりしちゃうってところも、
ある気がしますね。
junaida
ぼくも今回やらせていただいて、
絵本の奥深さを知りました。
──
それは、どういう点で?
junaida
「絵本って、こんなにも
 自由な発想で表現できるんだ」と。

自分が今までやってきた「型」から
だいぶ外れても、
受け入れてもらえる気がして‥‥
自分自身にとっては、
可能性しかないような分野だなって。
──
ちなみにですが、
どういう順番で絵を描いたんですか。
junaida
はい、ふだん画集をつくるときって、
1枚ずつ描いていくんです。

色塗りまで含めてぜんぶ、完成まで。
──
ええ。
junaida
でも、今回の『Michi』の場合は、
まずはドローイング、
つまり線画で全ページを描きました。
──
色を塗らずに。どうしてですか。
junaida
やっぱり、自分自身が、
一歩づつ「道」を歩いていくような、
そんな気持ちで、
描きたかったんだと思います。

男の子の1ページ目から描きはじめて
本の真ん中の折り返し地点‥‥
そのちょうど真ん中で、
反対側から道を歩いてきた女の子と
出会うんですね。
──
ええ。グッとくる場面ですよね。
junaida
男の子が、その真ん中の
折り返し地点にたどり着いたところで、
こんどは、
女の子の1ページ目から描きはじめて。
──
で、そのあと色塗りの作業へ。
junaida
そうですね。色を塗るときは、
男の子の1ページ目、女の子の1ページ目、
男の子の2ページ目、女の子の2ページ目、
みたいな感じで色を塗っていったんです。
──
今度は、かわりばんこに。
junaida
そんなふうに作業を進めていくと、
必然的に、最後の色塗りは、
真ん中の
ふたりが出会うページになります。

で、そのときに、思ったのは‥‥
「ああ、ようやく出会えた」って。
──
そうか、junaidaさんにとっては、
あのふたりは、
何ヶ月もかかって出会ったんだ。
junaida
そう。
──
長い旅の果てに、
一本の道を歩き続けた末に、
出会ったふたり。
junaida
そうなんです。
<つづきます>
2018-11-24-SAT

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