- ──
- 今回、かなり濃密なスケジュールで、
この絵本を描きあげてましたよね。
- junaida
- そうですね、けっこう大変でした。
なにせ、この本を描いている最中に、
筆を変えたくらいですもん。
- ──
- 筆?
- junaida
- ごらんのように細かい絵なので、
細い筆を使ってたんですが、
腕の筋肉がへんになっちゃって。
細い筆を握ってられなくなって、
柄の太い筆に変えたんです。
- ──
- どっちかの腕だけムキムキな人が
たまにいますけど。腕相撲の人で。
- junaida
- そこまでじゃないけど(笑)。
- ──
- どれくらい描いてたんですか、1日に。
- junaida
- ふだんの倍くらいかな。
- ──
- つまり1日に2日分ぶん‥‥ってこと?
- junaida
- じゃないと間に合わなかったんです。
- ──
- 具体的には‥‥。
- junaida
- 朝の8時くらいにはもう描きはじめて、
夜は11時とか、12時くらいまで。
- ──
- う、わー‥‥。
- junaida
- 描きはじめると、1枚を描くのに、
何日くらいかかるなって、
なんとなくわかってくるんですね。
その日数にページ数をかけると、
完成までの日数が、だいたい出る。
- ──
- ええ。
- junaida
- そしたら「これは年内、厳しいな」
という感じだったんで、
岡田さんに、相談したんです。
「じゃあ、来年にしましょう」って
言ってくれるだろうと思って。
- ──
- 優しそうですもんね。
- junaida
- そしたら「いや、年内で!」と。
- ──
- 鬼! 優しい顔の皮を被った鬼(笑)。
- 岡田
- いやあ、すみません‥‥(笑)。
- ──
- でも(笑)、まあ、
そこは編集者の仕事ですものね。
- 岡田
- 仕上がりがすばらしいものになると
確信していたので、
junaidaさんには悪いんですが、
なるべく早く出したいと思いました。
- junaida
- で、そこで「うわぁ」となって、
スケジュールを切りなおしたら、
1日に倍くらい描かないと、
間に合わない計算になったんです。
そのことがわかった日、奥さんに、
「すまないんだけど、
絵だけに集中させてほしい。
家のことは、
明日からしばらく任せました」
と言い残して。
- ──
- 旅に出た、と(笑)。
で、そのような生活を‥‥何ヶ月?
- junaida
- 4ヶ月‥‥くらい。
- ──
- はあ、すごい。それは、
腕も使いものにならなくなりますね。
でも、こう言うのも何ですが
福音館書店から絵本を出したい人は、
山ほどいると思うんですよ。
- junaida
- そうだと思います。
- ──
- 出したくて出したくて出せない人が、
おおぜいいますよね、きっと。
- junaida
- ですから、大変だったけど、
そんなことは、どうでもいいことで。
本当に光栄だと思います。
今までも、絵本は出していますけど、
絵本作家だったわけではないし、
王道の絵本を、
描いてきたわけでもないですから。
- ──
- ちなみに、福音館書店の社内では、
どんな反応なんですか?
- 岡田
- すごく、おもしろがられてます。
会議室で色校を見てたんですけど、
社員みんなが
入れ替わり立ち替わりやってきて、
色校を見てすごいねーって(笑)。
- ──
- よかったですねえ。
- junaida
- はい、よかったです。ひとまずは。
あとはたくさん売れてほしいです。
- ──
- 福音館書店は歴史ある出版社だし、
何十年も売れ続けている
ロングセラーがいくつもあって、
正直言って、
新しいチャレンジをしなくたって
大丈夫そうに見えるんです。
- 岡田
- でも、それは、
常々突きつけられていることです。
つまり、この本は、
チャレンジに値する本なのかって。
- ──
- そうか‥‥なるほど。
- 岡田
- それに、福音館の歴史を考えると、
つねに「開拓者」だったんです。
- ──
- たしか、はじめは
金沢のいち本屋さんだったんですよね。
- 岡田
- そう、何もないところから
現在へ続く道を切り開いてきたという、
そういう開拓者精神があります。
ちがうジャンルの人たちに、
「絵本、児童書」というフィールドで
新しい表現をしていただきながら、
自分たちの場所を、
少しずつ築き上げてきた会社なんです。
- ──
- 彫刻家の佐藤忠良さんに
ロシア民話の『おおきなかぶ』の絵を
描いていただいたりとか。
- 岡田
- もともとは漫画家だった長新太さんや
佐々木マキさんもそうだし、
堀内誠一さんはデザイン方面でしたし。
- junaida
- そう考えると、本当にいろいろな人が、
他のジャンルから来てますね。
- ──
- 絵本だから
やってくださるようなところや、
絵本だから、
腕まくりしちゃうってところも、
ある気がしますね。
- junaida
- ぼくも今回やらせていただいて、
絵本の奥深さを知りました。
- ──
- それは、どういう点で?
- junaida
- 「絵本って、こんなにも
自由な発想で表現できるんだ」と。
自分が今までやってきた「型」から
だいぶ外れても、
受け入れてもらえる気がして‥‥
自分自身にとっては、
可能性しかないような分野だなって。
- ──
- ちなみにですが、
どういう順番で絵を描いたんですか。
- junaida
- はい、ふだん画集をつくるときって、
1枚ずつ描いていくんです。
色塗りまで含めてぜんぶ、完成まで。
- ──
- ええ。
- junaida
- でも、今回の『Michi』の場合は、
まずはドローイング、
つまり線画で全ページを描きました。
- ──
- 色を塗らずに。どうしてですか。
- junaida
- やっぱり、自分自身が、
一歩づつ「道」を歩いていくような、
そんな気持ちで、
描きたかったんだと思います。
男の子の1ページ目から描きはじめて
本の真ん中の折り返し地点‥‥
そのちょうど真ん中で、
反対側から道を歩いてきた女の子と
出会うんですね。
- ──
- ええ。グッとくる場面ですよね。
- junaida
- 男の子が、その真ん中の
折り返し地点にたどり着いたところで、
こんどは、
女の子の1ページ目から描きはじめて。
- ──
- で、そのあと色塗りの作業へ。
- junaida
- そうですね。色を塗るときは、
男の子の1ページ目、女の子の1ページ目、
男の子の2ページ目、女の子の2ページ目、
みたいな感じで色を塗っていったんです。
- ──
- 今度は、かわりばんこに。
- junaida
- そんなふうに作業を進めていくと、
必然的に、最後の色塗りは、
真ん中の
ふたりが出会うページになります。
で、そのときに、思ったのは‥‥
「ああ、ようやく出会えた」って。
- ──
- そうか、junaidaさんにとっては、
あのふたりは、
何ヶ月もかかって出会ったんだ。
- junaida
- そう。
- ──
- 長い旅の果てに、
一本の道を歩き続けた末に、
出会ったふたり。
- junaida
- そうなんです。
<つづきます>
2018-11-24-SAT