「「冬の都会で」編  今回の先生/諏訪雄一さん プロフィールはこちら
名前その17 ハルノノゲシ 

どうやら雨は本降りになることもなく。
青山界隈での、みちくさは続いています。

 
吉本 これも、ロゼットですね。
この子はなんていうんですか?
 
諏訪 これはおそらく、ハルノノゲシですね。
吉本 ああー、ノゲシなんだ。
諏訪 たしか、もうすこし先に行くと
花が咲いてるのがあったと思いますよ。
吉本 ノゲシというと、黄色い花ですか?
諏訪 そう、黄色です。
行ってみましょう。
 
諏訪 ちょっとこう、アザミみたいなトゲトゲで、
タンポポの花に似てるんですよ。
吉本 それが咲いてるんですか?
諏訪 ええ、基本的には春から秋に花が咲くので、
いまの季節はさっきのような
ロゼッタ状態のはずなんですが、なぜか‥‥。
吉本 なぜか咲いてる。
諏訪 ええと‥‥たしか、このあたりに‥‥。
 
諏訪 ああ、ほら、ありました。
吉本 ほんとだ。
わぁ、なんだか寒そうに‥‥。
 
諏訪 三分咲きくらいでしょうかね、
たまに冬に咲くこともあるようで。
もともとはヨーロッパ原産ですが、
かなり古くから日本にある植物なんです。
吉本 そうなんですか。
 
諏訪 これに加えて、
オニノゲシっていうのもあるんです。
吉本 鬼‥‥またすごい名前が(笑)。
諏訪 それはもっとトゲトゲな感じなんですよ。
わりと近年になって外国から来た強いやつで。
吉本 増えてるんですか?
諏訪 増えてますね、どんどん。
ちなみに、きょう見ている植物の
たぶん半分くらいは帰化植物ですよ。
吉本 やっぱり強いんだ、外国の草って。
諏訪 うーん、外来種の強さについては‥‥。
たしかに海外の植物って、強くて頑丈で、
がっちりしている印象がありますよね。
吉本 ええ。
諏訪 たとえばサッカーや野球も、
必ず外国人の選手がいて、
みなさん強いじゃないですか。
吉本 そうですね、大きくて強いですよね。
諏訪 それとおんなじで、海外の植物はみんな強いと
ぼくも思ってたんです。
でもですね、実際に海外へ行って見ると、
そこの植物がぜんぶ強そうかというと、
そんなことはないんです。
弱そうなのもちゃんといるんですよ。
吉本 ああー。
諏訪 ですから、ぼくが思うに、
海外からは弱い植物も強い植物も
いろいろ入ってくるんだけど‥‥
吉本 結果的に強いのが残っていると。
諏訪 そうです。
ごつい感じのが残っているから、
「外国の草はみんな強い」
というイメージがあるんだと思うんですよ。
吉本 なるほどぉ。
 
諏訪 ん?
ああ、さっそくそこに、ありますね(笑)。
吉本 なんですか?
諏訪 これです。
さっき言った、オニノゲシ。
 
吉本 うわぁ、すごい。
諏訪 ぜんぜん違うでしょ。
こっちは完全にロゼット状態ですね。
吉本 なんだか、悪そう。
諏訪 悪そうですか(笑)。
たしかに、トゲトゲですしね。
吉本 すごいなぁ‥‥。
 
 

1回につき、ひとつずつ名前をおぼえていく
「みちくさの名前。」ですが、
今回はふたつセットで名前が登場しました。
「ハルノノゲシ」と「オニノゲシ」。
トゲトゲのほうが「オニノゲシ」。おぼえました?

次の「みちくさ」は、明後日に。
月・水・金の更新でまいります。

 
吉本由美さんの「ハルノノゲシ」
 

排気ガスだらけの目黒通りの某歩道橋の下で、
ここ10年、春になると1本ポツンと咲いている花を
ハルノノゲシと呼ぶことを、
今回ようやく認識できてちょっと嬉しい。
アザミに少し似ているけれど、
花は小さく、黄色で貧弱。
アザミの派手さは一寸もない。
事務員みたいなこの草を何と呼ぶのか。
ずっと気になっていたのである。
毎年ほとんど同じ場所に顔を出す。
たぶんそこらに根を張って脈々とつながり続ける
ご一家の、その年版と思えるが、
でも、どうしていつも1本だけ? という疑問がある。
種はたくさんばら撒かれているのだが、
劣悪な状況のもとで花を付けるほどに育ち得るのは
毎年1本だけ、ってことなのかしら。
いつかは犬にオシッコを掛けられていた。
雨上がりの午後、S小の生徒に傘で叩かれていた。
強烈なビル風に、右へ左へ、
千切れそうに揺れている姿もたびたび目撃した。
でも、毎年、結局、立派に生きる。
冬、マーケットへ行く道すがら、
そのきりっと立ち枯れしている姿を見ると、
「キミはすごいねえ」と声を掛けないではいられない。
いちおう楚々としているから、
この歩道橋下の住人はオニノゲシでないことは確か。
この春からは、「ハルノノゲシよ、お元気か」と、
きちんと名前で呼んでみよう。

2009-03-16-MON
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