「「冬の都会で」編  今回の先生/諏訪雄一さん プロフィールはこちら
名前その18 チチコグサモドキ 

雨はどうやら完全にあがった様子。
季節は冬のまんなかですが、
青山界隈でのみちくさは、しずかに陽気に続いています。

おふたりが次に足をとめたのは、
白いシートにおおわれた、建設現場の前でした。

 
吉本 ここは、ビルかなんかができるんですね‥‥。
こういうふうに、
ちょっとでも地面がみえていると‥‥
諏訪 ありますよね、みちくさが。
吉本 すごいなぁ、土のあるところを見逃さない。
‥‥これは、なんでしょう?
ロゼットになっていない、みちくさ。
諏訪 これは‥‥これはおそらく、
チチコグサだと思うんですが‥‥。
 
吉本 チチコグサ?
諏訪 ハハコグサっていうのが春の七草でありますよね。
吉本 ええと‥‥ありましたっけ?
諏訪 あ、そうか、ハハコグサは、ゴギョウのことなんです。
吉本 ああ、ゴギョウ。
はい、それは春の七草ですね。
諏訪 ハハコグサは黄色いきれいな花が咲くんですけど、
これはそれではなくて、チチコグサ。
 
吉本 母ではなくて父(笑)。
諏訪 ‥‥いや、ちょっと待ってください。
チチコグサモドキのほうかな‥‥。
吉本 モドキ?
諏訪 ‥‥うん、そうですね、
どうやらチチコグサモドキのようです。
 
吉本 花のようなものが咲いてますけど。
諏訪 咲いてますね、花が。
吉本 咲いちゃって、終ったんですね。
諏訪 いや、これがいま、盛りなんです(笑)。
吉本 ええ?(笑)。
この地味なのが、盛り?
いまごろ咲く花なんですか。
諏訪 本来は春から秋なんですが‥‥
けっこう都内って暖かいじゃないですか。
吉本 ああ、はい、はい。
諏訪 たぶん、冬なんだけど、
暖かくて咲いちゃったってことも
理由としてあるかもしれませんね。
吉本 咲いちゃった。
諏訪 あとはですね、
植物が花を咲かせることには
すごく温度以外にも、大きな要因があって、
それは大陽の日照時間なんです。
吉本 おひさまがあたる時間。
諏訪 1日の日照時間の長さとか短さによって
つぼみをつけたり、つけなかったりする植物が
すごく多いんですよ。
で、都会なんかだと、
たとえばここに街灯があるじゃないですか。
 
吉本 あ、ほんとだ、ちょうど真上に。
 
諏訪 そうすると冬なのに‥‥
吉本 いまは日照時間が長いのだと‥‥
諏訪 勘違いしちゃう。
吉本 うーん。
諏訪 さらにここは白いシートがあるでしょ。
吉本 ああー、はい。
 
諏訪 反射するから、大陽の光がより強くなって。
吉本 そうかぁ。
諏訪 いや、断定はできないですよ。
日照時間に影響を受ける植物が多いので、
これもそうなのかなあと思ったんです。
吉本 はい。
諏訪 畑でキャベツやレタスを育てている場合は、
ほら、葉っぱを膨らませて食べる野菜でしょ?
だから花を咲かしちゃうとだめなわけですよ。
吉本 ええ、そうでしょうね。
諏訪 だからできるだけ花を咲かせないようにするんですけど、
畑の近くに駐車場なんかができたりすると
電気電灯が点いちゃって
収穫する前に花が咲いてしまうことがあるんです。
吉本 あー。
諏訪 だからこれも、多少は
光の影響を受けてるかもしれないですよね。
吉本 うーん、そうかぁ。
諏訪 だとしたら、
ちょっとかわいそうかもしれませんね。
まだ本当は咲きたくないのに、
寒いのに、咲かされてしまって。
吉本 はい‥‥。
 
  今回のみちくさも、種類の判別がむずかしいものでした。
ハハコグサ・チチコグサには何種類かの仲間がいるそうで。
「たぶん」や「おそらく」をつけながらのご紹介が
たびたびになりますが、
それでも植物について知っていることが
すこしずつ増えていくのって、うれしいですよね。
「ハハコグサは春の七草のゴギョウのことで、
 似た種類には、チチコグサやチチコグサモドキがある」
覚えましたか?
ぜひ、自分の目でもたしかめに出かけてみてくださいね。
 
次の「みちくさ」は、明後日に。
月・水・金の更新でまいります。
 
吉本由美さんの「チチコグサモドキ」
 

う〜〜ん、草はややこしゅうございますねえ。
ハハコグサ(ゴギョウ)という名は
春の七草のひとつとして知っていたが、
チチコグサ、さらにはチチコグサモドキまでもが
存在していたとは。
ハハ、チチ、モドキ。直球勝負の命名である。
どこをしてハハ、何をしてチチ、
と言わしめるかは気になるところで、
家に帰って考えた。
街の建物壁面で諏訪さんが指差した、
ひよひよしたのがチチコグサなら、
毎春ウチの庭に咲くのはハハコグサではなかろうか、と。
若苗の姿形、白い綿毛におおわれた葉の柔らかな感触、
そして葉の裏が白っぽいという
よく似た3つの特徴はファミリーの証しに思える。
が、チチコグサの"咲いてるんだか枯れてるんだか"
よく判らない地味な花に比べると、
ウチのは、黄色い小さな冠のような花をたくさんつけて、
それが若草色の葉に映えて、なかなか華やかなのである。
ありきたりな考えだけれど、
地味目がチチなら派手目はハハと分類したくなる。
それならモドキは? 
と思ったところで牧野先生を繙いた。
しかしハハチチあれどモドキなし。
先生没後出現の新種なのかもしれない。
ま、そういう方面は他にまかせて、
チチコグサとチチコグサモドキの違いねえ。
芸術家と芸術家もどきほどにはないみたいだけれど。

2009-03-18-WED
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