「「冬の都会で」編  今回の先生/諏訪雄一さん プロフィールはこちら
名前その21 セイヨウタンポポ
風邪をひかないようにたっぷりと厚着をして、
冬の青山をゆっくり歩き続ける、吉本さんと諏訪先生。
ぶらぶらするうちに、
おふたりとも通ったことのない道に出ていました。
「道に迷っちゃった?」と吉本さん。
いっぽう諏訪さんは、
なにかみちくさを見つけたようですよ。
 
諏訪 うん、これも、あれですね、
何度も見かけてますし
みなさんご存じと思いますけど、
やっぱりとりあげておきたいですね。
吉本 あ、それ。
諏訪 はい。
吉本 わたしが名前を言ってもいいですか?
諏訪 どうぞどうぞ(笑)。
吉本 これは、タンポポです。
 
諏訪 そうですね、まさにタンポポ。
吉本 タンポポのロゼットです。
諏訪 すばらしい。
吉本 なんだかすごくうれしい(笑)。
諏訪 これ、つぼみが出てますよ。
吉本 ほんとだ、かわいらしい。
 
諏訪 もっと正しくいうと、
セイヨウタンポポですね。
吉本 そうか、
日本古来のタンポポもありましたね。
諏訪 そうなんです。
カントウタンポポとか。
吉本 どうやって見分けるんですか?
諏訪 花が咲いていれば
はっきりした違いがわかるんですが‥‥。
花の下にですね、総苞というのがあるんですよ。
吉本 ソウホウ?
諏訪 ええ、総苞(ソウホウ)。
つぼみを包んでいた葉っぱのことで、
花の下を見ればすぐわかるんです。
総苞が反り返っているのが
セイヨウタンポポ。
吉本 へええ?。
諏訪 で、日本古来のタンポポ、
これ数種類あるんですが、
それは反り返らず、花にくっついてるんです。
 
吉本 そうですか‥‥。
いまはセイヨウタンポポのほうが、
諏訪 多いですね。
吉本 やっぱり強い。
諏訪 はい。なぜ強いかというと、
セイヨウタンポポは単為生殖で増えるんです。
吉本 単為生殖。
諏訪 受粉しないでタネを作れちゃう。
吉本 へ〜。
諏訪 シングルマザーなのに
どんどん子供を産めちゃうんです。
吉本 (笑)
諏訪 もう、ひとりで増えちゃう。
吉本 わあー(笑)。
諏訪 日本古来のタンポポは
受粉しなきゃタネはできないんですよ。
吉本 それはやっぱり単為生殖のほうが、
早く広がりますよね。
諏訪 でも単為生殖には問題があって、
結局これも自分のコピー、クローンなんです。
同じ遺伝子になっちゃうから
環境の変化にちょっと弱いという。
吉本 ああ、なるほど、クローンですね。
 
諏訪 ヨーロッパじゃ食べますよね、
タンポポを野菜として。
吉本 はいはい。
諏訪 タンポポはキク科なんですけど、
面白いのは、キク科の野菜って少ないんですよ。
キク科の野菜、なにか思いつきます?
吉本 えーと‥‥春菊?
諏訪 シュンギク、まさにその通りです。
吉本 うーん、あとは‥‥水菜?
諏訪 ミズナは、アブラナ科ですね。
あとはですね、レタスがそうなんです。
吉本 レタスがキク科?
諏訪 意外ですよね。
レタスはほっとくと花が咲くんですけど、
それがほんとにマーガレットを
ちっちゃくしたようなきれいな花なんです。
吉本 へええ?。
諏訪 それと、ゴボウもキク科ですね。
吉本 え、ゴボウが?
諏訪 ゴボウって、大きくて長い根の野菜でしょ。
タンポポの根も大きくて長いんです。
吉本 あ、そうかー。
そういえば根の雰囲気が似てますね。
諏訪 ほんとは名前を覚えていくときに、
せっかくだから「科」もいっしょに
覚えると楽しいんですけどね。
吉本 うーん、「科」の名前も‥‥。
はい、がんばります(笑)。
 

セイヨウタンポポはキク科。
覚えましたか?
たくさんある「科」を覚えるのはたいへんそうですが、
たしかに、そういうジャンルわけの知識があったら
きっともっと楽しいでしょうねー。
レタスとゴボウが、キク科だったとは‥‥。

次のみちくさは、明後日に。
月・水・金の更新でまいります。

 
吉本由美さんの「セイヨウタンポポ」
 

タンポポとは、誰が付けたのか不思議な名前だ。
まず、和名なのか洋名なのか、判りにくい。
私は長いこと音感的にいって洋名と思っていた。
けれど大人になってから、
頭にセイヨウを付けるタイプもいると知って、
初めて、じゃあタンポポは和名だったかと悟った。
にしても、
「蒲公英」という漢字表記はないだろう、と思う。
どこをどう読んだらタンポポになるのか。
「等々力」を「などなどちから」と言って
バスの運転手さんを困らせた私の誤読力を発揮しても、
せいぜい「がまこうえい」である。
なんでも漢方で開花前に摘んで乾燥させたタンポポを
「蒲公英(ホコウエイ)」と呼ぶことから
この表記になったらしいが、
音と字に重なるものがあまりに少なく、
この字をタンポポと呼べというのは
ずいぶん乱暴な話じゃないかと思うのである。

語源には諸説あったが、“ツヅミグサ(鼓草)にちなむ”
というのが私にはいちばんフィットした。
江戸時代、草の茎を鼓の形に反り返らせる
子供の遊びがあって、そこから名付けられたというのだ。
つまり、鼓を叩く音、「タン!」と「ポポ」、
そこから来ているというのだけれど、
これは楽しく、とても腑に落ちるネーミングだ。
そういわれると茎を反り返すまでもなく、
花が咲くときは「タン!」と叫んで勢いよく
開いているような気がするし、
夕方は「ポポ」と小さく呟いてゆっくり
閉じているような気がしてくる。
何にせよ、タンポポの春の使者のような黄色い花を見ると
元気が出るのはまちがいない。
コートを脱ぎセーターを脱ぎ、
やっとシャツ1枚になったときのような溌剌気分は、
実に「タン!」であり「ポポ!」なのだ。

2009-03-25-WED
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN