「のがわでみちくさ」編 今回の先生/梅田彰さん
名前その24 シロツメクサ
「のがわ」のほとりで「みちくさ」をするはずが、
川辺に向かう途中で
ちょっとうれしい足止めにあった梅田さんと吉本さん。
一面に広がるシロツメクサだけでなく、
当然ですがその場所には
別のみちくさも息づいていました。

吉本 あ、カタバミですね?
梅田 そうですね、カタバミです。
吉本 葉が3枚で、シロツメクサと似てますね。
梅田 ちいさな黄色い花がかわいらしいです。
吉本 うちの庭にもどんどん生えてくるんですけど、
こうやって見ると、かわいいですね。
梅田 カタバミっていうのは、
夜になると葉っぱが‥‥
吉本 あ、下向きに?
梅田 そうそう、下向きになります。
吉本 クタッとなってますよね。
梅田 たたんで半分になっちゃう。
片方が噛み切られているみたいだから、
「カタバミ(片喰)」という名前になったと、
そういう説もあるんです。
吉本 へえー、
噛まれたみたいになってるからカタバミ。
梅田 植物は昼の間に光合成をしていますが、
それを、でん粉や糖に変えるのは
夜にやっているみたいなんです。
で、その活動は
温度が高い方が効率がよいようです。
葉っぱが広がっていると、
放射冷却で温度が逃げてしまうでしょ?
だから、なるべく
縮こまっていたほうが、
熱が逃げないというわけですね、はい。
吉本 そうだったんですか。
ちぢこまってるのは
枯れちゃったんだと思ってたんですけど、
違うんですね。
梅田 で、カタバミっていうのは
シュウ酸という酸を含んでいます。
吉本 「酸」ですか。
梅田 ちょっと待ってくださいね‥‥
(ポケットから10円玉を出す)
いつも子どもたちに見せてるんですが、
こうやってですね、
カタバミの葉っぱで10円玉を磨くと‥‥。
吉本 ピカピカになるんですか。
梅田 そう。
ちょっと、もうすこし‥‥(磨く)。
吉本 酸が入ってるんだ。
梅田 ええ‥‥(磨く)。
‥‥こんな感じで、どうでしょう。
吉本 ほんとだ、ピカピカになりました。
梅田 はい、なりましたね。
吉本 へええ〜、そんな力を持ってるんだ。
梅田 はい。
それでですね、このカタバミが、
木になってるやつがスターフルーツです。
吉本 ‥‥え? スターフルーツ?
星の形をした、南国のくだものの?
梅田 そう、あれもカタバミ科なんです。
五角形でしょ?
吉本 ああ、はい、五角形ですね。
切ると断面が星形になります。
梅田 ここにあるカタバミの実も、五角形ですよ。
探せばあると思うんですが‥‥
ああ、ありました、ほら。
吉本 ほんとだ、五角形!
スターフルーツって、カタバミなんですか。
梅田 そうなんです。
ちなみに「オッタチカタバミ」っていう、
これにそっくりなのもあるはずなんですが‥‥。
吉本 オッタチカタバミ。
梅田 あ、そこにありましたね。柵のところに。
これです、これがオッタチカタバミ。
吉本 見た目はふつうのカタバミみたいですけど。
梅田 これは外来種で、背が高いんです。
カタバミは横に広がっていくんですが、
オッタチカタバミは
上に向かって伸びていくんですよ。
吉本 へええー。
カタバミって、奥が深いですね。

なかなか川にはたどり着きませんが、
もうすでにずいぶん勉強になるお話をうかがえました。
スターフルーツって、
カタバミの仲間だったんですね?!

最後には「オッタチカタバミ」という、
外来のカタバミも教えていただきました。
今回は、ふたつまとめて覚えましょう。
横に広がるのが「カタバミ」、
上にのびるのが「オッタチカタバミ」です。

次の「みちくさ」は、月曜日に。
「のがわでみちくさ」編は、
火曜日と金曜日の更新でまいります。


ご紹介したみちくさについての 感想やご指摘など、お待ちしています!

 
吉本由美さんの「シロツメクサ」
 
この“みちくさ”にはすでに
オキザリスとムラサキカタバミという
カタバミ仲間が顔見せを済ませているが、
三度目の今回、ついにカタバミ本人の登場となった。
小さなハート型の葉っぱが
赤紫色なのがアカカタバミ、緑紫色はウスアカカタバミ。
ともに初夏から秋口まで小さな黄色い花を咲かせて可愛い。
睡眠運動のため夕方葉を閉じ、
片方が欠けて見えることから傍食「かたばみ」と呼ばれる。
あるいは葉が三枚あるので
片葉三(かたばみ)という説もある。
葉や茎に酸味があることから
吸物草(すいものぐさ)とも呼ばれ、
葉を閉じて畳むことから
雀の袴(すずめのはかま)とも呼ばれる。
実に“名だくさん”で人とも近しい存在だけれど、
私にとっては庭の手入れのうえでの長年のライバルである。
油断するとどうしようもなく増えていくので、
目を光らせて引っこ抜いてきた。
だからそう簡単に
褒めたり讃えたりはしたくない‥‥のだけれど、
梅田さんから教わった“カタバミの秘密”には、
正直まいった。
たとえば夕方になると葉を閉じる習性だが、
しなっとなっているので枯れたと思ったらとんでもなくて、
それは懸命に生命活動まっ最中の姿という。
葉を囓ると酸っぱいあの酸味(蓚酸)ともなると、
その昔、銀の食器や真鍮の仏具磨きに
大いに役に立ったというから、
ふううむ、ちょいと“けなげ“に思えてくるではないか。
それから五角形の、
バナナのようなロケットのような朔果も凄腕だ。
あの中にはびっしりと種子が並び、
発射は今かと待ちわびていて、
そして機が熟したら、
たとえば風などの空気の振動でバチンと五角形が炸裂する。
上向きのロケット形のおかげで
種子は勢いよくはじき飛ばされ、
遠くのどこかに新居を得る。
炸裂が面白いので人は(つまり私のようなのが)
ついつい朔果に触れるが、
そのつど種子の旅立ちが
行われるという仕組みになっている。
つまり彼らの繁殖に人はうまく利用されているのだ。
カタバミはけなげのみならず賢くもあるのだ。
2009-08-07-FRI
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN