海の近くの鎌倉で、 「ウラシマソウ」という植物に出会いました。 おまけに、その仲間の「ムサシアブミ」まで。 ウラシマソウによく似た「カラスビシャク」を合わせると、 今回は3つもみちくさの名前が登場しています。 でも、これだけ個性的だと、 3つとも覚えてしまいそうですよね? 次の「みちくさ」は、火曜日に。 「春の鎌倉でみちくさ」編は、 火曜日と金曜日の更新でお届けしています。
その昔、20年くらい前だったろうか、 NHKが放送した 英BBC制作「アッテンボローの植物たちの挑戦」という ドキュメンタリー番組でやっていた ウツボカヅラの“繁殖戦略”には驚いた。 その素晴らしい知性に。 ウツボカズラ、というと 「ああ、食虫花ね、気持ち悪い形の」と、 簡単に言い捨てられる傾向にあるが、 虫を誘き寄せ捕らえて溶かす消化液入りの あの袋(靫)の製造工程を知れば 誰だって一目おきたくなるはずだ。 東南アジアの森でひっそりと暮らすウツボカズラ。 その成長をカメラ早送りで見るとまるで工場だった。 精巧な靫(うつぼ)作りの第一弾は、 葉の先端を細い蔓状にしてぴゅるぴゅると伸ばすのである。 中央脈と呼ばれるそれは枝に付いた葉の先から、 下へ下へ、大地の方へ、より良き条件の一角へと、 ぴゅるぴゅるぴゅるぴゅる伸びていく。 土に触れたら、 今度はその触れている部分をむくむく膨らませる。 それがほど良い大きさの空洞の袋状になると、 上部をパカンと開けて屋根と入口を作り、 入口のその縁は くるっと外に捲ったような滑りやすい形に整え、 袋の中には消化液を溜め、 入口付近には密を配置し、 そして満を持して虜となる虫の到来を待つのである。 日本の小さな町工場から 世界を席巻する優秀なマシンが 生まれたときに通じる驚愕をおぼえたのだった。 ウツボカズラに尊敬の念さえ持った。 森さんが「ほら」と指さすところにひっそり咲いている ウラシマソウの茶褐色の花を見たとき、 昔々のその驚愕が蘇ったのだ。 形状が遠い親戚程度にちょっと似ていたから。 花の脇からぴゅるぴゅるぴゅると細い蔓状のものが、 まず上に伸び、 次に下へぎゅゆんと垂れている。 それが釣り竿みたいに見えるから ウラシマソウと言うらしい。 なるほどね。 それも素敵な命名だけれど、 でも、この臙脂色を含んだ茶褐色の色合いや ほっそりと柔らかにふくらんだ仏炎苞の形が、 私には浦島太郎というより エレガントなご婦人の雰囲気を感じさせ、 となると、わずかな差だけれど 英名コブラ・リリーのほうに軍配を上げたいような。 その親戚筋のムサシアブミも 小ッさくていじらしかったなあ。 森さんの話では ともに公園やお寺の境内などに植わっているそうだけれど、 あんまり控えめなので、 目の悪い私はこれまでの長い生涯 見つけることができなかった。 だから今回が初のご対面。 これからは日の差さない隅っこを通るときには注意しよう。 追伸 前回のナズナについて読者の皆さんから メールでいろいろ教えていただきました。 ビンボウグサって主にハルジオンのことを言うんですね。 私はナズナの記憶があったのでそう書いたのですが、 違和感をおぼえられた方が多いようでした。 森さんにお聞きしたところ、 ビンボウグサという名は いろんな雑草に付けられている俗称で、 ナズナをそう呼ぶこともあるそうです。 また、ペンペンという音の出し方が間違っていたようで、 正しい出し方も皆さんから教えていただきました。 実の裂け方も違うようですが、 私の庭にいたペンペン草は星形だったし、 やはり遠い親戚筋なのかと思いますが、 もう姿が消えているので森さんに確かめようもありません。 いろいろなご指摘ありがとうございます。 みちくさに詳しい皆さんがごらんになっているのが判って、 素人の私やスタッフは背を正しているところです。