子供が初めて描く“お花”は、
黄色い花心が白い花びらに囲まれたキクの形が多いという。
ウチの近所の保育園にも先日まで、
そういう“お花”が壁にたくさん張り出されていた。
その園の玄関先の花壇には、
絵のモデルとなったらしい
ゆで卵の輪切りのような
黄色い丸を白く囲った小さな花がたくさん咲いていた。
本物と絵とが素敵なコラボレーションを見せ、
その建物ぜんたいが「しらぎくの園」といった風情で、
通りかかる人たちの目を和ませていた。
花は4月初めから咲き始め、
5月に入っても次から次に咲き続けていた。
「デージー」と大ざっぱに呼んでいたが
本当は誰だろうかと気になり園芸本で確かめたけれど、
ほんとのところはわからなかった。
デージーほどの背丈だが
デージーほどには花にふくらみがない。
ハマギクの花にいちばん似ている気がするが、
ハマギクの開花時期は9〜11月だから、やはり違う。
ほかの園芸書やいつもの『牧野植物大図鑑』を繙くも、
今ひとつはっきりしない。
似たようなものが多いだけで、
コレってものがない。
というか、
黄色い花心に白い花びら・・・という形の花が
いかに多く存在するかを改めて知ったのだった。
そうこうするうち鎌倉へ。
そして某所の石垣に、
未来に向かってにょっきり伸びている
「E.T」の目玉みたいな小さな丸いものを見つけたのだ。
ハッとした。
保育園の花の蕾に似ていたから。
もしかして?
ドキドキしながら森さんに訊くと、
ゲンペイコギクというお教えだった。
園芸書や『牧野植物大図鑑』にはなかった名である。
花も可憐でさらりとした雰囲気。
デージーのむっちり肌
(花びらを分厚く付けている様子)より
こちらのほうが保育園の花に近い。
それに名前もいいではないか、
ゲンペイコギク。
鎌倉から帰ってしばらくのちの6月初め、
確かめようと
ゲンペイコギクの写真を持って保育園の玄関先に行った。
すると、
なんたること、
何もない!
花壇が掘り返され、
そこにふかふかの黒い土がたっぷりと盛られ、
あれだけたくさん咲いていた花の痕跡が見事に消えていた。
根っこの端切れさえもない。
跡形もなく、というのはこのようなことか。
壁の“お花”の絵もなくなっていた。
呆気にとられ、
園の人に訊いたら、
6月から花壇も模様替えをするので
5月末に手入れしたという。
うう〜む、手入れかあ。
でもですねえ‥‥。
いくら模様替えとはいえ、
あんなに元気に咲き誇っていた花を
どういう肝を据えれば
いきなり引っこ抜けるものなのだろう。
ちょっと宮崎の口蹄疫殺処分問題を思い起こして
気が滅入った。
園芸に使う花は
枯れるまで待ってはもらえない運命なのか。 |