森さんから注意を受けなかったら、
オドリコソウそっくりの葉っぱに
「あ、オドリコソウだ、私これ知ってます」と、
調子に乗って触っていたろう。
くわばら、くわばら、桑の原。
触らなくて良かったなあ。
ヒスタミンに私は特別弱いんですよね。
イラクサという名前はよく聞くし、
棘があるのも知っていたけれど、
それがただの棘ではなく毒針だったとは。
毒針を刺しまくる暴力団みたいなヤツだったとは。
今の今まで知らなかった。
それで家に帰って、
モーリス・メーテルリンクの『花の知恵』という
きれいな装丁の小さい本を取り出した。
『青い鳥』で有名なこの人は博物学者でもあって、
『蜜蜂の生活』『白蟻の生活』『蟻の生活』
という昆虫三部作と共に
植物に関する書物もいくつか書いている。
中でも面白いのが花の知的企みを綴ったこの本で、
花たちの驚くべき行為が
流麗かつドラマチックな筆致で綴られ、
大河ドラマを読むかのように引き込まれ、
夜更かしに至ることもしばしばだ。
確かその中にイラクサが登場してたなあ、と
思い出したので探してみた。
数カ所にイラクサの文字があるにはあったが、
「毛に毒を持つ」程度の表記で、
あっさりしたものである。
メーテルリンクはイラクサには
あまり興味を覚えなかったのかもしれない。
それでも「婚礼」の項目では、
“結合に向けての限りない努力が払われる”
という文章のあとに、
たとえば、イラクサのように、
雄蕊が花冠の奥にじっと蹲っている場合がある。
受粉のときがくると雄蕊の軸が発条のごとく伸び、
うえに載っている葯あるいは花粉袋が雲とかすむ
花粉を柱頭のうえにふりかけるのである。
(注)発条→ばね、ぜんまい
と、努力を称賛する一文もある。
しかし3頁にもわたって書かれた
セキショウモの悲劇的エピソードへの共鳴に比べると、
やはりあっさり感は拭えない。
なので、続いてアッテンボローの
『植物たちの挑戦・生きのびるたくらみ』
のビデオを取り出した。
森さんの著書『身近な雑草のふしぎ』によると
イラクサはかなりの策略家らしいので、
“生きのびるたくらみ”というテーマであれば
出演交渉がないはずがないと思ったのだ。
ふんふん、やはり登場していた。
森の入り口でアッテンボローが
「これがこうやって刺すのです」と解説している。
見るからにとげとげのイタイタ風な葉っぱが
彼の手元で揺れている。
しかし私が引きつけられたのは
次に出て来たイラクサそっくりのオドリコソウで、
どうしてここまでイラクサに似ているのかの
その理由にびっくりしたのだ。
アッテンボロー曰く、
動物から身を守るため
毒を持つイラクサそっくりになってみせた、
らしいのだけど、
この素敵な秘密、みなさん、知ってました?
オドリコソウ、やりますねえ〜。 |