みなもと |
私は、子どもの頃から、
どこの世界に行っても浮くの。
学校のクラスでも、浮いてしまう。
漫画界へ行けば、俺みたいなのが
ゴロゴロしてると思って飛びこんでみたら、
そこでも浮いて、イヤになっちゃったけど。 |
糸井 |
(笑) |
みなもと |
今は、当たれば一獲千金ですからね。
『ジャンプ』以後は、特にすごいけど。
漫画家は、単行本が出ることで
蔵が建つようなシステムなんですよね。
なんでもかんでも、単行本になるのは、
『サイボーグ009』以降だから。
あれも、当時連載していた講談社は、
単行本化に、見向きもしなかったんです。
小学館や講談社には、当時は、
「雑誌と単行本で二度稼ぐなんて
そんなはずかしいマネができるかい」
という気分があったんですよね。
『おそ松くん』でさえ、貸本漫画から、
何とか、生き残ろうとしてたわけです。
今は、世間知らずのまま
最初の一作目が売れて、となるからなぁ。 |
糸井 |
みなもとさんの場合は、
そういう時代はなかった? |
みなもと |
二十歳で、デビューをしました。
最初は、漫画家になりたい人だったから、
人マネの漫画しか、描いていないわけですよ。
これは、自信がないです。
デビューして、
すぐにスランプになりました。
「これが出れば、なんとか食っていく、
ぐらいのことは、できるだろう」
と思えたのは、
当時は別のタイトルだったけど、
『ホモホモセブン』という漫画の
ネームを描いた時。二二歳ぐらいの頃でした。
そこから、ずっと漫画を
描いてきましたけど……。 |
糸井 |
デビュー、早いですよね?
若さゆえ、の
ホステスに入れあげてどうのこうのとか、
ドンチャカドンチャカ、ということは? |
みなもと |
そんなことは、この三〇年、
一度もないなぁ。 |
糸井 |
すごく静かに生きてたんですか? |
みなもと |
品行方正ではないし、
多少の遊びはあったかもしれないけど、
三〇歳を過ぎてから、なくなりました。 |
糸井 |
二〇代の時は、多少、いい気になった? |
みなもと |
「いい気」はなかったよ。
結局、仕事量から言うと、
作る仕事の中でも、
漫画家がいちばんなんじゃないかなぁ。
銀座のクラブにも行かないでしょう?
もちろん、「漫画家でござい」と
名乗って遊んでいる人もいるけどさ。
それは、漫画家という肩書きをつけた
タレントさんであって、その人はもう、
漫画の仕事をしていないんじゃないですか?
ただ、月に二〇〇ページとか持って、
何らかのかたちで作品を描いていたら、
遊びにいくヒマなんて、絶対にないって。 |
糸井 |
漫画家は、ヒマがない(笑)。 |
みなもと |
ないないない。ぜんぜんない! |
糸井 |
そうですね。 |
みなもと |
定期的にテレビなんかに出ていたら、
もう、連載は、なくなります。 |
糸井 |
テレビに出ると、
はっきりと、生産量が落ちますからね。 |
みなもと |
小説家は、わりかし出入りができる。
小説家が書きあげると
「書きあがった、飲みに行くぞ」
となるけど、漫画家の場合には、
ネーム(物語とセリフ)ができたら、
そこで「アシスタント集まれ」となる。
そこからようやく、
描く作業に、かかれるわけでしょう? |
糸井 |
二重に、仕事をしているんですね。 |
みなもと |
そうです。
だから、二〇〇ページなんて
持っている作家は、
遊びに行ってるヒマはないですよ。
もう自分では描かないけれども、
自分の名前だけでやれる先生も
いらっしゃる。
そこまでいけば、
遊びも行けるしゴルフにも行ける、
飲みにも行けるし、
女も囲えるでしょうけど。 |
糸井 |
漫画があると、何にも、できないですね。 |
みなもと |
そうです。
漫画家は、とにかく、
他の職業よりも、時間を取られる。 |
糸井 |
あの、谷岡ヤスジ先生みたいに、
「勢いでババーン!」みたいな人は、
早く終わらせるみたいなことはできますね。 |
みなもと |
谷岡先生なんか、ネームしないでしょう? |
糸井 |
そのままいくんですよね。 |
みなもと |
つまり、そういうわけで、
やっぱり、遊べたのは、
二〇代の、体力のあるときでしょう。 |
糸井 |
そうでしょう。 |
みなもと |
週刊連載を持っていた時は、
徹夜で上がって、徹夜で仕上げる。
その後、新宿で映画観てメシを食って、
映画館に入っても眠くならなかったもん。 |
糸井 |
体力があったから(笑)。 |
みなもと |
そうそう。
四八時間、起きてたって、
そんなにつらくなかった。 |
糸井 |
うーん。 |
みなもと |
二〇代から三〇代前半ぐらいまでかな。
ストーリーでも、殴り合いで
ずっといけるみたいなマンガだと、
もう少し、いけるとは思いますけどね。
ただ、今月三〇ページで、
これだけのドラマを入れていく、
みたいな計算をやり出すと、もうだめです。 |
糸井 |
そうだろうなぁ。 |
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(明日に、つづきます!) |