YAMADA
歴史は、ひとことで語れない。
みなもと太郎さんと「時間」を語る。

第5回 漫画家は、遊ぶことができない。

みなもと 私は、子どもの頃から、
どこの世界に行っても浮くの。
学校のクラスでも、浮いてしまう。

漫画界へ行けば、俺みたいなのが
ゴロゴロしてると思って飛びこんでみたら、
そこでも浮いて、イヤになっちゃったけど。
糸井 (笑)
みなもと 今は、当たれば一獲千金ですからね。
『ジャンプ』以後は、特にすごいけど。
漫画家は、単行本が出ることで
蔵が建つようなシステムなんですよね。

なんでもかんでも、単行本になるのは、
『サイボーグ009』以降だから。
あれも、当時連載していた講談社は、
単行本化に、見向きもしなかったんです。

小学館や講談社には、当時は、
「雑誌と単行本で二度稼ぐなんて
 そんなはずかしいマネができるかい」
という気分があったんですよね。
『おそ松くん』でさえ、貸本漫画から、
何とか、生き残ろうとしてたわけです。


今は、世間知らずのまま
最初の一作目が売れて、となるからなぁ。
糸井 みなもとさんの場合は、
そういう時代はなかった?
みなもと 二十歳で、デビューをしました。

最初は、漫画家になりたい人だったから、
人マネの漫画しか、描いていないわけですよ。


これは、自信がないです。
デビューして、
すぐにスランプになりました。

「これが出れば、なんとか食っていく、
 ぐらいのことは、できるだろう」
と思えたのは、
当時は別のタイトルだったけど、
『ホモホモセブン』という漫画の
ネームを描いた時。二二歳ぐらいの頃でした。
そこから、ずっと漫画を
描いてきましたけど……。
糸井 デビュー、早いですよね?
若さゆえ、の
ホステスに入れあげてどうのこうのとか、
ドンチャカドンチャカ、ということは?
みなもと そんなことは、この三〇年、
一度もないなぁ。
糸井 すごく静かに生きてたんですか?
みなもと 品行方正ではないし、
多少の遊びはあったかもしれないけど、
三〇歳を過ぎてから、なくなりました。
糸井 二〇代の時は、多少、いい気になった?
みなもと 「いい気」はなかったよ。
結局、仕事量から言うと、
作る仕事の中でも、
漫画家がいちばんなんじゃないかなぁ。
銀座のクラブにも行かないでしょう?

もちろん、「漫画家でござい」と
名乗って遊んでいる人もいるけどさ。
それは、漫画家という肩書きをつけた
タレントさんであって、その人はもう、
漫画の仕事をしていないんじゃないですか?

ただ、月に二〇〇ページとか持って、
何らかのかたちで作品を描いていたら、
遊びにいくヒマなんて、絶対にないって。
糸井 漫画家は、ヒマがない(笑)。
みなもと ないないない。ぜんぜんない!
糸井 そうですね。
みなもと 定期的にテレビなんかに出ていたら、
もう、連載は、なくなります。
糸井 テレビに出ると、
はっきりと、生産量が落ちますからね。
みなもと 小説家は、わりかし出入りができる。
小説家が書きあげると
「書きあがった、飲みに行くぞ」
となるけど、漫画家の場合には、
ネーム(物語とセリフ)ができたら、
そこで「アシスタント集まれ」となる。

そこからようやく、
描く作業に、かかれるわけでしょう?
糸井 二重に、仕事をしているんですね。
みなもと そうです。
だから、二〇〇ページなんて
持っている作家は、
遊びに行ってるヒマはないですよ。

もう自分では描かないけれども、
自分の名前だけでやれる先生も
いらっしゃる。

そこまでいけば、
遊びも行けるしゴルフにも行ける、
飲みにも行けるし、
女も囲えるでしょうけど。
糸井 漫画があると、何にも、できないですね。
みなもと そうです。
漫画家は、とにかく、
他の職業よりも、時間を取られる。
糸井 あの、谷岡ヤスジ先生みたいに、
「勢いでババーン!」みたいな人は、
早く終わらせるみたいなことはできますね。
みなもと 谷岡先生なんか、ネームしないでしょう?
糸井 そのままいくんですよね。
みなもと つまり、そういうわけで、
やっぱり、遊べたのは、
二〇代の、体力のあるときでしょう。
糸井 そうでしょう。
みなもと 週刊連載を持っていた時は、
徹夜で上がって、徹夜で仕上げる。
その後、新宿で映画観てメシを食って、
映画館に入っても眠くならなかったもん。
糸井 体力があったから(笑)。
みなもと そうそう。
四八時間、起きてたって、
そんなにつらくなかった。
糸井 うーん。
みなもと 二〇代から三〇代前半ぐらいまでかな。
ストーリーでも、殴り合いで
ずっといけるみたいなマンガだと、
もう少し、いけるとは思いますけどね。

ただ、今月三〇ページで、
これだけのドラマを入れていく、
みたいな計算をやり出すと、もうだめです。
糸井 そうだろうなぁ。
  (明日に、つづきます!)


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2004-04-13-TUE


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