YAMADA
歴史は、ひとことで語れない。
みなもと太郎さんと「時間」を語る。
昔からの「ほぼ日」読者の方から推薦されて、
『風雲児たち』という長編歴史漫画に、ハマりました。
二十数巻、仕事の終わった夜中に、夢中になって読んで、
食わず嫌いだった「歴史」に、興味を持ちはじめたんだ。

歴史は、単一の視点では語り尽くせないからおもしろい!
作者・みなもと太郎さんと「時間」について話しました。

<臨時ニュース! 手塚治虫文化賞受賞!>

本日、4月21日更新の「今日のダーリン」で、

「みなもと太郎さんの『風雲児たち』が、
 第8回手塚治虫文化賞「特別賞」を受賞されました!
 おめでとうございます!勢いついてますよねぇ!
 歴史マンガの新境地開拓とマンガ文化への貢献に対して、
 という受賞理由だったようです。
 「ほぼ日」をおたのしみの皆さん、
 いまからでも遅くない。
 現在は品切れ中の『風雲児たち』20巻セットを、
 ぜひともオトナ買いしたまえ。
 予約したまえ読みたまえおもしろがりたまえまえまえ」


と書いてあるように、
この対談に登場のみなもと太郎さんが、
手塚治虫文化賞特別賞を、受賞されたんです。

朝日新聞を見て「お、あの『風雲児たち』が」と、
うれしくなったかたも、いらっしゃると思います。
「ほぼ日」で対談をたのしんでくださった方のために、
みなもとさんに、受賞決定直後に
お電話をしていたときの「よろこびの声」の大意を、
ここで、短く、ご紹介したいと思います。

「いやぁ、ほんとにありがとうございます。
 今回、思いがけず、さまざまな人たちから
 推薦をいただいたようで……うれしかったです。
 25年描いてきた『風雲児たち』は、まだまだ
 つづきもあるので、励みにして、なんとかがんばります。
 イトイさんからは、今月末に復刊される
 『レ・ミゼラブル』の帯の言葉
 「ふざけた本気が胸を撃つ」までいただいて、
 もう、そちらに足を向けては寝られません。
 私、足を向けて寝られない人が、
 たくさんいるのです……。
 かつて、いしかわじゅん氏が私の『ホモホモ7』を
 『計算しつくされたイイカゲンさ』
 と評してくれたコトがありますが、イトイ氏の言葉は、
 それよりさらに短くまとまっている! 感服しました」


何十年もかけて、しかも今も描き続けている作品が、
漫画文化への貢献、として評価されていることって、
なんだか、外から眺めていても、うれしいことでした。

みなさんからたくさんいただいたお祝いのメールも、
みなもとさんに、転送しますね。ありがとうございました。
みなもと漫画やこの対談を、まだ読んでいなかったかたは、
ぜひ、この機会に、たのしんでみてくださいね。

(みなもとさん対談構成担当・「ほぼ日」木村俊介より)

第6回 漫画の未来は、ここにあった?

糸井 みなもとさんは、雑誌以外にも、
コミケ(コミックマーケット)
みたいな所にも
ご自分の作品を出してるんですよね?
みなもと うん。
ものすごい狭いスペースに、
自分の本をダーッと並べてね。
「千円いただきます!」って、やってる。
最近、漫画家の中にも、
増えてきたんですよ。

柴田昌弘さんとか、新谷かおるさんとか。
山田節子さんというご年配の少女漫画家は、
ずいぶん昔から、
猫漫画をずっと出していますね。

コミケの中でも、自分の趣味の漫画を
少しだけ作って
売るということをしている方は、
いっぱいいるんです。
印刷費が安くなったから、
百部とか二百部で、
なんとかペイできる時代が来たからね。

コスプレだなんだという
エロ騒ぎがあるから、
コミケと言うと、
そこだけが拡大報道されて、
悪の巣窟のように言われていますけど、
違う動きもある。
コミケでマンションを買ったぐらいの人に、
マスコミはカメラを向けますけど、
そういう人は、ごく一部の
エロ漫画だけなんです。
その種類の同人誌を置く本屋は、
日本中にあるから、
会場だけじゃなく、そこにも適当に
じょうずに撒く。それで、
がっぽりもうける人は、
もうけますね。
糸井 売れるエロ漫画は、
漫画として質が高いんですか?
みなもと あれはあれで、
売り手と買い手の関係は
成り立っているんだろうと思います。

私の目では、それが、まだつかめない。
はっきり言うと、わからない。


これが百冊しか売れないのに、
あれが万の桁で売れる、その差はどうか?
そこは、私にはつかめない。
トシでしょうね。
糸井 買っている人は、
つかんでいるわけですよね?
みなもと そうそう。
買い手がちゃんといるわけです。
糸井 「つかめない」って
ちゃんと言えるところが、いいですね。
編集者体質。
みなもと でも、つかみたいよね。
糸井 わかりたいですよね。

コミケは、
どのぐらいの頻度で行ってますか?
みなもと 年に二回、八月と一二月に、
だいたい三日づつあるんですが、
ぼくはたいがい、いちばん盛り上がる
三日目に参加するようにしています
このあいだは、一二月に行きました。
コミケに参加するとなったら、
年末年始はないと決めないと、
参加できません。
糸井 でも、やっぱり
おもしろくなっちゃったんですよね?
みなもと いくら漫画を描いても、
編集が持っていって、
あとは書店に並ぶだけでしょう?
やっぱり、コミケは、
直に交流ができるから。


ホッチキスで一冊ずつ作っているのも、
コミケに出すからには、
そういうものの原点も
経験したかったからなんです。

ただ、あれは、百部ぐらいまでは
パチコン、パチコン、
って打っていけるけど、
四百ぐらいになると、もう……
手作り本の世界とは、
違ってきてしまいます。
製本に、三日三晩ぐらいかかりますよ。

それにぜんぶ、サインして
手書きでタイトルを書くんだから、
自分でも、
「なにやってるんだ」と思う(笑)。
糸井 ちゃんと読んでくれる人に
届くっていうのは、うれしいでしょうねぇ。
みなもと 雑誌に掲載することを30年やってきたけど、
コミケは、それとは違うんです。
「送ると、返ってくる」
というくりかえしで。
糸井 みなもとさん、
コミケというおもしろい場所と、
嫌がらず、入りこみすぎず、
いい感じで、つきあっていますよね。
みなもと ええ。可能性があると思うんです。

かつての貸本屋は、
当時、まだ、それだけでは
お金を稼ぐことはできなかった。
でも、明らかに、
その後の漫画文化の
供給源になっていましたよね。
二軍としての役割が、あった。

だからもう、貸本が消え去ったときには、
私はものすごい絶望感に襲われたんです。
ところが、そしたら、コミケがあった……。


かつて、貸本を描いていたような層の
今の若い人たちは、
コミケで世界を相手にしだしたんです。
大変な世の中になっているわけね。
それを、黙って見過ごす手はないので、
これは、つきあいたいと思ったんです。

私は、適当なところで
死ぬからいいんだけど、
これからの漫画文化がどうなるのかを、
見届けたいという気持ちは、あるんです。
昔は、情報の全体量が
少なかったから見渡せた。

漫画というお花畑を、
端から端まで見渡せて、
どこそこでこんな人が
デビューしているけれども、
この絵柄から言うと、
誰それのアシスタントとか、
そのへんを、七〇年代終わりぐらいまでは、
ぜんぶ読みこめていたわけ。
だけど、雑誌の数が、十倍二十倍と増えて、
わけがわからなくなった……。
糸井 航空写真でも、かつては、
霞が関ビルとか、サンシャインとか、
ぜんぶ見分けがついていましたよね。
だけど、今は、
「……なんだっけ?」
という建物がいくつもある。
みなもと なるほどねぇ。
糸井 増え過ぎているわけだけど、
でも、増えることは、
もう当然増えるに
決まっているわけだから、
その中でも、新しい生き方の模索が、
漫画家なら漫画家なりに
あるわけですよね。
みなもと 今の人たちは、そうせざるをえない。
糸井 漫画の文化圏って、実は、
タモリさんにもつながっているんですよね。

赤塚不二夫さんみたいに、
飲み屋文化圏と漫画文化圏と、
両方持っている人がいたんだけど、
漫画編集者たちというのは、
ちょっと無頼を気取っている人が多かった。

赤塚さんのところに出入りしていた
タモリさんみたいな人が登場したときには、
そういう編集者たちが、
飲み屋で、受け皿になったんですよね。
みなもと そう。
かつて、みんなで飲むところに行くと、
タモリは、テレビでは
とてもやれないような芸をやっていたから。
糸井 お金もないけど、無頼を気取る。
その編集者たちのおかげで、
貸本屋漫画的な
芸能の流れもできたんだよね。
漫画の隆盛は、他の分野にも影響が大きい。
  (みなもとさんとの会話は、ここまでです。
 ご愛読、どうもありがとうございました!)


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『風雲児たち』について

風雲児たち (1)SPコミックス(Amazon.co.jp)

ワイド版風雲児たち20冊セット(リイド社)

※「ほぼ日」でみなもとさんとの対談を掲載しはじめたら、
 出版社・リイド社さんのホームページで販売をしている
 『風雲児たち全20巻セット』に、たちまち注文が殺到!

 予想以上の申し込みの多さで、品切れ中だそうですが、
 商品ができ次第発送するという形で、
 予約注文を受けつけている最中なのだそうです。




これまでのタイトル
2004−04−07 第1回 歴史は、ひとことでは語れない。
2004−04−08 第2回 ひとりで、ぼーっとする時間。
2004−04−09 第3回 身体を使わないと、信用されない。
2004−04−12 第4回 自分のすべてをぶつける仕事。
2004−04−13 第5回 漫画家は、遊ぶことができない。

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2004-04-14-WED

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