糸井 |
ぼくは、歴史に、これほど
興味を持つとは思っていなかったんです。 |
みなもと |
私も、そうよ。 |
糸井 |
みなもとさんの漫画を読んでいると、
歴史的な事件が、だんだん、
隣の人の話みたいに見えてきたんですね。
ただ、「歴史好き」という人のことを、
ぼくはどうも、敬遠していて……
語りあいになったらキリがないというか、
説教されちゃいそうなところが、
あるじゃないですか。 |
みなもと |
この前も、
飲んでて、横にそういうのがいた。
「え? おまえ、歴史漫画を描いてるのか?
坂本竜馬を殺したのは誰か、知ってるか?」
うるさいですよね。
あの手の輩はもう、いちばんキライです。
ああいうのって……自分に自信がないから、
外のものを、持ってきちゃうんでしょうね。 |
糸井 |
ええ。
みなもとさんは、
資料を読んだり調べたりするのは、
ぜんぶ、おひとりですか? |
みなもと |
人が調べたって、
こっちの筋肉にならんもん。
これについて描きたいと思っていて
調べても、そのうちにぜんぜん別の方に
話を描いている。
そればかりですからね。 |
糸井 |
遠くにも行ってますよね。 |
みなもと |
連載をはじめる時には、
「けっこう大変なことになるだろうな」
とは思ったので、
薩摩とか長州とかに、行きました。
だけど、描き出したら、薩長なんか、
いつまでたっても出てこなかったけど。 |
糸井 |
漫画でリアリティがあったのは、
萩の町の「遠さ」についての記述でした。 |
みなもと |
あれはバスで行ったんです。
「まだなのかな?」
と思ったのが、そのまま絵になった。 |
糸井 |
そのリアリティは、
そのまんま伝わってますね。
こないだ、ぼくは萩出身の人に会ったので、
そんな話を、いかに知ったかぶって、
「すごいところにあるんですね」
って言ったら、
「そうなんですよ」とうれしそうに
してました。
ただ、今ではもう、
みんなも知ってる萩ですし、
吉田松陰以後ですから、かつてとは
意味がぜんぜん違いますけどね。
でも、なんかね、
その遠さの実感は、おもしろかったなぁ。 |
みなもと |
取材が30年近く前でしょう?
今とだいぶ交通の便が違いますからね。
バス乗り継ぎみたいな感じでね、
とにかくバスに揺られて萩まで行きました。
「まだなのかよ」っていう感じで行ったから、
その気持ちで描けてる。 |
糸井 |
そういうことって、大事ですねぇ。 |
みなもと |
漫画が続いて後になっていくと、
「もう、取材なんて行ってられない」
みたいになるんですけど。
まして、ロシアには行けないし(笑)。 |
糸井 |
『風雲児たち』の後半になってからは、
特に、グローバルなつながりについて、
急に興味を持ちはじめましたし……
それは、長くなって当然ですよね。 |
みなもと |
いや、やっぱり、
複線っていうのは、
それが醍醐味なのよ。
ひとつの枠でものを見ていると、
その外側の枠が見えてくるわけでしょう?
しょうがないから、
外側の枠をいじるでしょう?
そうすると、
もうひとつ外側の枠が、また見える。
それのくりかえし、ですよね。 |
糸井 |
ロシアや北海道のあたりに
しつこく筆が及んでいる時というのは、
寒かったし、痛かったし、
理解されないつらさもあったし、
日本人の残虐な部分も出ていたし、
読んでいて、ひりひりしました。
ぼくはかつて、
「徳川埋蔵金」という番組をやっていて、
「雪が降っても掘るぞ」とか、
「あぶないけど掘るぞ」とか、
そういうことをやっていたおかげで、
現場で身体つかって働いてる人たちから、
「お、イトイさん」なんて、
声をかけられるようになったんです。
それまで、ぼくは、
そういう人たちには、好かれていなかった。
身体を使った動きをしないと、
やっぱり、人は、
信用しないですからね……。
みなもとさんの漫画の中に出てくる、
北の国に渡った人たちが心をつかむのも、
そのあたりがあるからだと思うんです。 |
みなもと |
あぁ、なるほど。そうだったんだ!
私としては、あの部分に
すごいドラマは感じられなかったのよ。
ところが、あそこがやっぱり、
っていう声が、けっこう多かったので、
なぜなんだろうと思っていたの。
その理由が、今の言葉で、わかった。 |
糸井 |
肉体があるからですよ。
ソリで何キロ何キロ何キロ、と
毎日走ってくときの、
「凍傷になるだろうな」
みたいなイメージが、しみる。
痔を持ってる人どうしの話と同じですよね。
「痛いですよねぇー!」って言いあう。
そういうものが、あると思うんですよ。 |
みなもと |
なるほどね。
勉強になった。そういうことか! |
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(月曜日に、つづきます!) |