YAMADA
歴史は、ひとことで語れない。
みなもと太郎さんと「時間」を語る。

第3回 身体を使わないと、信用されない。

糸井 ぼくは、歴史に、これほど
興味を持つとは思っていなかったんです。
みなもと 私も、そうよ。
糸井 みなもとさんの漫画を読んでいると、
歴史的な事件が、だんだん、
隣の人の話みたいに見えてきたんですね。

ただ、「歴史好き」という人のことを、
ぼくはどうも、敬遠していて……
語りあいになったらキリがないというか、
説教されちゃいそうなところが、
あるじゃないですか。
みなもと この前も、
飲んでて、横にそういうのがいた。

「え? おまえ、歴史漫画を描いてるのか?
 坂本竜馬を殺したのは誰か、知ってるか?」

うるさいですよね。
あの手の輩はもう、いちばんキライです。
ああいうのって……自分に自信がないから、
外のものを、持ってきちゃうんでしょうね。
糸井 ええ。
みなもとさんは、
資料を読んだり調べたりするのは、
ぜんぶ、おひとりですか?
みなもと 人が調べたって、
こっちの筋肉にならんもん。
これについて描きたいと思っていて
調べても、そのうちにぜんぜん別の方に
話を描いている。
そればかりですからね。
糸井 遠くにも行ってますよね。
みなもと 連載をはじめる時には、
「けっこう大変なことになるだろうな」
とは思ったので、
薩摩とか長州とかに、行きました。
だけど、描き出したら、薩長なんか、
いつまでたっても出てこなかったけど。
糸井 漫画でリアリティがあったのは、
萩の町の「遠さ」についての記述でした。
みなもと あれはバスで行ったんです。
「まだなのかな?」
と思ったのが、そのまま絵になった。
糸井 そのリアリティは、
そのまんま伝わってますね。
こないだ、ぼくは萩出身の人に会ったので、
そんな話を、いかに知ったかぶって、
「すごいところにあるんですね」
って言ったら、
「そうなんですよ」とうれしそうに
してました。

ただ、今ではもう、
みんなも知ってる萩ですし、
吉田松陰以後ですから、かつてとは
意味がぜんぜん違いますけどね。
でも、なんかね、
その遠さの実感は、おもしろかったなぁ。
みなもと 取材が30年近く前でしょう?
今とだいぶ交通の便が違いますからね。
バス乗り継ぎみたいな感じでね、
とにかくバスに揺られて萩まで行きました。
「まだなのかよ」っていう感じで行ったから、
その気持ちで描けてる。
糸井 そういうことって、大事ですねぇ。
みなもと 漫画が続いて後になっていくと、
「もう、取材なんて行ってられない」
みたいになるんですけど。
まして、ロシアには行けないし(笑)。
糸井 『風雲児たち』の後半になってからは、
特に、グローバルなつながりについて、
急に興味を持ちはじめましたし……
それは、長くなって当然ですよね。
みなもと いや、やっぱり、
複線っていうのは、
それが醍醐味なのよ。


ひとつの枠でものを見ていると、
その外側の枠が見えてくるわけでしょう?
しょうがないから、
外側の枠をいじるでしょう?
そうすると、
もうひとつ外側の枠が、また見える。


それのくりかえし、ですよね。
糸井 ロシアや北海道のあたりに
しつこく筆が及んでいる時というのは、
寒かったし、痛かったし、
理解されないつらさもあったし、
日本人の残虐な部分も出ていたし、
読んでいて、ひりひりしました。

ぼくはかつて、
「徳川埋蔵金」という番組をやっていて、
「雪が降っても掘るぞ」とか、
「あぶないけど掘るぞ」とか、
そういうことをやっていたおかげで、
現場で身体つかって働いてる人たちから、
「お、イトイさん」なんて、
声をかけられるようになったんです。

それまで、ぼくは、
そういう人たちには、好かれていなかった。
身体を使った動きをしないと、
やっぱり、人は、
信用しないですからね……。

みなもとさんの漫画の中に出てくる、
北の国に渡った人たちが心をつかむのも、
そのあたりがあるからだと思うんです。
みなもと あぁ、なるほど。そうだったんだ!

私としては、あの部分に
すごいドラマは感じられなかったのよ。
ところが、あそこがやっぱり、
っていう声が、けっこう多かったので、
なぜなんだろうと思っていたの。
その理由が、今の言葉で、わかった。
糸井 肉体があるからですよ。
ソリで何キロ何キロ何キロ、と
毎日走ってくときの、
「凍傷になるだろうな」
みたいなイメージが、しみる。

痔を持ってる人どうしの話と同じですよね。
「痛いですよねぇー!」って言いあう。
そういうものが、あると思うんですよ。
みなもと なるほどね。
勉強になった。そういうことか!
  (月曜日に、つづきます!)


前回へ 最新へ 次回へ

2004-04-09-FRI


戻る