- 糸井
- 自分でこういう仕事でやっていこうというのは、
早くから決めてたんでしょ?
- ミロコ
- やっていけると思ったことは1回もないです。
- 糸井
- ああ、そう。
- ミロコ
- はい。
でも好きだからずーっとやってたら、
こんなになったっていうだけで。
何かすごい決意があったとか、
そんなんじゃないんです。
だから、あまり苦労もしてないし。
- 糸井
- それは理想的ですね。
じゃあ逆に、
「絵を見てくれる人がいなくなってもやることは同じ」
という気持ちもあるわけですね。
- ミロコ
- そうですね。
「もし仕事がなくなったらどうする?」って
聞かれたこともありますけど、
まあ、またバイトしながら
絵を描けばいいんじゃない? って感じですね。
- 糸井
- 最近僕が知った陶芸作家のおじさんがいて、
その世界ではけっこう知る人ぞ知る方なんだけど、
今のミロコさんが言ってるのとそっくりで、
「みんなが喜べばそれはそれでいい」
っていうんだよね。
展覧会にもあまり興味がなくて、
結局、彼がつくった器はどれも
使われてどこかにいっちゃっているものばかりで、
本にまとめるのがたいへんらしいんです。
- ミロコ
- あ、私もまさにそうです。
何も記録とかがなくて、
画集をつくるときもたいへんでした。
作品がぜんぶバラバラになっちゃってるので。
ある作品は、なんでもないスナップ写真に
ななめにちっちゃく写ってるのだけが手元にあって、
「これこれ、これは誰が持ってるんや」
ってなった(笑)。
- 糸井
- わかる(笑)。
だって、僕のこの部屋にも
ミロコさんの作品、いっぱいあるもん。
まるで民藝作家みたいだね。
ミロコさんは自分が無名でもかまわないんだ。
- ミロコ
- あ、それはそれでいいですね、うん。
- 糸井
- でも知っていてくれたほうが、
人が手に取るチャンスはふえますよね。
- ミロコ
- そうですね。
はじめは、ちょっとだけ、親のためでした。
- 糸井
- あ、なるほど。
- ミロコ
- さいしょに何かの本に絵がつかわれたとき、
すごく親が喜んだんです。
それまで地元では、
「あのマチコちゃんって今何してるの?」
「絵とか描いてる」「大変ね」
みたいな感じが、
「見て。マチコ、この本にのったの!」って
まわりの人に言えるようになった。
それをすごい喜んでたから、
「あ、よかった。
お母さんたちがうれしいんだったら、
よりよかった」って。
- 糸井
- それはよかったねえ。
いちばん楽しいのはどういうときですか?
やっぱり、描いているときですか。
- ミロコ
- そうですね。
描いてるときが一番楽しい。
- 糸井
- 苦しさももちろんあるでしょう?
- ミロコ
- うーん、手を動かしてるときはあんまりないです。
描く前とかはしんどいときがありますけど、
描きだすとだんだんテンションが上がってくる。
それはね、もう描いちゃったからしかたない
みたいなとこありますね。
- 糸井
- 自分の子どもを産んじゃったら、
あれこれ言ってられない、みたいなことかな。
多少、見てくれが悪くてもね。
- ミロコ
- うん。
でも子どもだったら
ポイっとすてられないですけど、
絵は「失敗!」って、すてることもある(笑)。
- 糸井
- ああ、そうか(笑)。
この速度感をもった絵だから、
すてることもできる。
- ミロコ
- うん、そうですね。
- 糸井
- この速さは、
自分で身につけたものですか。
- ミロコ
- うーん、身につけたというか自然に。
頭の中のイメージを早く出したいんです。
わたしの場合、
こういうライブ感をもっているものが、
自分が気に入る絵になるんです。
じっくり構図を考えるよりも、
気持ちのまま、パッと思いうかんだ色とかを
ワーッと出していったほうが、
結果、満足いく絵になる。
だから描くとき、
ちょっとあせった気持ちになることがあります。
- 糸井
- 手が追いつかない。
- ミロコ
- そうですね。
なんかドキドキしちゃって、
「ああ、どうする、どうする」って。
- 糸井
- ミロコさんの場合、
見えてるものを描いてるわけではないですよね。
目玉が受け取ってるものを描いてるんじゃなくて、
それとは別に頭に浮かんでますよね。
- ミロコ
- そうなんですよ。
- 糸井
- 絵描きらしくない絵描き。
- ミロコ
- ああ、そうなんですかね?
- 糸井
- 僕は絵描きがどういうものか
知らないで言ってるんだけど、
絵描きってものすごく目がいいじゃない。
たとえばおとうふひとつとっても、
僕らとちがって見えてるから
おとうふが描けるわけだよね。
- ミロコ
- たしかに。
- 糸井
- ミロコさんもそういう訓練はやったんですか。
- ミロコ
- やってないんですよ。
- 糸井
- そうか。
目の作家じゃないんでしょうね。
- ミロコ
- うん、そう言われたらそうなのかもしれないですね。
- 糸井
- ‥‥妄想を描いてるってことかな(笑)。
- ミロコ
- ああ、うん、そうですね。
(絵を指して)こんな植物ないですしね(笑)。
- 糸井
- ないしね。
色はどうやって決めているんですか?
- ミロコ
- 色もね、説明しろって言われるとすごい難しいです。
「次は絶対ピンクが合うぞ」とか、
そういう感じなんですよね。
- 糸井
- パレットでつくってるの?
- ミロコ
- 私はほとんど、この(キャンバスの)上で
直接つくってます。
パレットに3色ぐらい出したら、
筆でぐるぐるぐるってやって、
キャンバスに描くと、
色が混ざってたり混ざってなかったりする。
- 糸井
- 言ってみれば、
キャンバスに気持ちを乗っけている。
- ミロコ
- うん。そのほうがいい絵が描けますね。
これ(赤いインドサイ)だってね、赤くするなんて、
はじめ決まってなかったんです。
- 糸井
- あ、そうなの?
今では、赤じゃないなんて考えられないよね。
- ミロコ
- 勝手に赤くなっていっちゃったんです。
- 糸井
- あんた誰(笑)?
- ミロコ
- (笑)。
- 糸井
- でも、ミロコさんは動物もたくさん描いているけど、
「動物がこうである」という約束からは
大きく外れてはいないですよね。
そこは一応、外したくない気持ちもあるわけですね。
- ミロコ
- そうですね。
もともとは、
「動物のここが面白いけど、
みんな知らないでしょう?」
という気持ちで描いている部分もあるんです。
というか、
自分が動物たちをただ見ているだけじゃわからなくて、
描いたらはじめて
「わー、足がヘンなほうに曲がってる」とか
わかっていくのがすごく楽しくて。
図鑑を見ては、やたら模写をしてたんですよ。
- 糸井
- それって、まるで子どもじゃないですか。
- ミロコ
- そう、はじめは子どもだったんです。
なんか、勉強してたー! みたいな感覚です。
楽しかった、それが。
体に入っていく感じがして。
- 糸井
- それを大人になってもちゃんと続けていられるんだね。
- ミロコ
- きっと、子どものときやらなかったからですね。
- 糸井
- 何してたの? 子どものとき。
- ミロコ
- 何もしてなかったんですよ(笑)。
(つづきます)
2016-2-19-Fri
© Hobo Nikkan Itoi Shinbun.