数字は、自画像だった。笹尾光彦さんの「発見」 数字は、自画像だった。笹尾光彦さんの「発見」

赤の画家と呼ばれる笹尾光彦さんに
2018年版ホワイトボードカレンダーの
月の数字を描いていただきました。
オファーの時点から
「数字を描く」というお題に大興奮し、
エネルギーの塊みたいになって、
創作に取り組んでくださった、笹尾さん。
いわく「数字は、自画像だった」と。
それって一体、どういうこと?
56歳のときに画家デビューしたという
異色の経歴もふくめ、
とってもおもしろいお話が、聞けました。
全4回の連載として、お届けします。
担当は「ほぼ日」奥野です。

(なお、笹尾さんは、2018年版の
 ほぼ日手帳のカバーにも
 作品を提供してくださってます。
 こちらも、ぜひチェックを!)
▶︎笹尾光彦さんプロフィール

第1回
56歳で画家になった。
──
笹尾さんの作品については、
もちろん素敵だなと憧れているんですが、
同じくらい興味あるのが、
「56歳で画家になった」ことでして。
笹尾
あ、そう?
──
いや、だって、勤めていた会社を辞めて、
画家としてデビューしたのが、そのお歳。
笹尾
うん。
──
それが、すごいなあと思ったんです。

今年で「デビュー20周年」ということは、
ようするに、56歳から、
まったく新しい20年があったってことで。
笹尾
そう、さらに楽しめる20年がありました。
──
まずはそれについて、お聞かせください。
デビューのきっかけは何だったんですか。
笹尾
画家になるまでの30年以上、
ぼくは、広告代理店に勤めていたんです。

もともとデザインの出身だったんで、
アートディレクター、
クリエイティブディレクターをやってて、
最後の10年は
会社のマネジメントもしていました。
──
そうだったんですか。
笹尾
広告の仕事、
楽しかったことは楽しかったんだけど、
何ていうのかなあ、
自分で決められないことばっかりなの。

で、いつくらいだろう、
たぶん40歳をちょっと過ぎたあたりから
「このままでいいのかな?」
とは、うっすら思いはじめていたんです。
──
40歳すぎというと、
就職して、20年くらいのときに?
笹尾
当時は「広告」というものが
今よりもっとワークしていた時代でした。

みなさんごぞんじの糸井重里さんという
スターが大活躍していたし、
広告を取り巻く環境も、よかったんです。
──
それでも「このままでいいのかな?」と。
笹尾
ぼくらはクリエイティブチームを組んで、
みんなで仕事に取り組んで、
その都度その都度、
新しい仕事をやっている実感もあったし、
仲間もどんどん増えるんだけど、
やっぱり‥‥
最終的な決定権が自分にないってことに、
もどかしさを感じていたんです。
──
つまり「広告」には、
つねに「クライアント」がいる‥‥から。
笹尾
そうですね。それに
「これ、自分のためにやってるのかなあ」
って気も、どこかでしてた。
──
そういう特集を組んだことがありますが、
まさに「不惑40で惑う」状態、ですね。
笹尾
そう、42歳くらいだったかな。

でも、だからといって、
すぐにどうにかなるわけでもないんでね、
まずは自分に投資しよう、と。
──
投資。
笹尾
時間とか、お金とか、エネルギーとかね、
家族の在り方も含めて。

ただし、そうは言っても仕事は忙しくて、
さまざまな案件を抱えていて、
条件も良かったから、
なかなか辞められなかったんです、会社。
──
はい。
笹尾
で、そういう状況ではじめたのが、
そこの上に置いてある、陶芸なんですよ。
──
わ、たくさんありますね。
笹尾
土日だとか平日の夜なんかに、
こういうものばっかり、つくってました。

ぜんぶ花を活ける器、花瓶なんだけどね。
──
いやあ、これまた素敵です。
笹尾
しばらくこんなことをやってたんだけど、
あるときに、うちのかみさんがね、
粗大ゴミ置き場から、
「古い額縁」を2枚、拾ってきたんです。

「ホラ、あんた、絵が好きだったでしょ。
 描いてみたら?」って言って。
──
へえ、奥さまが。
笹尾
うん。
──
当時は、描いてなかったんですか?
笹尾
描いてませんでした。
──
でも、昔は描いてた?
笹尾
学生時代に。

ただ、大学は「デザイン科」だったので、
油絵をちゃんと習ったことはなくて、
まったくの我流というか、独学ですけど。
──
じゃあ、基礎的なものは、どこで?
笹尾
高校時代、美大を目指していたとき。

3年間、みっちり毎日、
夕方の4時から夜11時半くらいまで、
アトリエに通ってたの。
──
え、そんなに? しかも毎日‥‥?
笹尾
正月の1日2日くらいは休みだったけど、
それ以外は「毎日」でしたね。
──
つまり、36‥‥3日、絵ばっかり描いて。
笹尾
そこで基礎のデッサンを、
毎日、夜まで、えんえんやってたんです。
──
すごい。甲子園に出る高校の球児だって、
そこまで練習しますかね?
笹尾
その当時は、あんまり、
なんとも思ってなかったと思うんだけど。
──
そうなんですか。
笹尾
でね、さっきの話に戻ると、
かみさんが古い額縁を拾ってきたもんで、
1枚、絵を描いてみたら、
もうね‥‥止まらなくなっちゃったの。
──
絵筆が。
笹尾
そう、あれよあれよという間に、
家じゅうが、
絵だらけになっちゃったんです。
<つづきます>
2017-09-20-WED