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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

12. テレビは何をこたえているのか?


土屋敏男さんは、かつて、
インターネット上の連載で、

「なぜ、必死に番組を作るという行為を
 やって来れたかと言うと
 視聴率でもなく、見た人の感想でもなく
 『出てるヤツらが明らかに必死だから』
 というのがいちばん大きかった気がします。

 電波少年、雷波少年はそれこそ
 『死にそう』というところまで
 出演者を文字通り追い込んでいました。
 そんな彼らの姿を
 画に撮ったものを目の前にすると
 しんどくても、
 手だけは抜けないと思ったのでした。

 仕事を一緒にする人間の熱は
 明らかにうつるものだし、
 それが最終的にチームの成せることの
 質と量を決める、と思います」

と、語っていました。
芸人さんの熱が伝染して、
テレビの制作者側は必死になるわけだけど、
テレビの制作者側の姿勢だって、
芸人さん側には、確実に、伝わるものだそうです。
今日は、その「姿勢」について語ってもらいました。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 ぼくは、最近、
鶴瓶さんとよくお会いするんですけど、
昔から、なんだかしらないけど、
妙にともだちなんです。

落語の高座に、半年で五〇も出ている人で……
事務所から言えば、きっとソンなことですよね。

だけど、あれだけテレビで
おもしろいことをしている一方で、
ぜんぶタダみたいな落語の仕事にも、
どんどんつっこんでいって、
どうもほんとに落語をじょうずになりたい、
という気持ちで、
必死にやっていらっしゃるんですね。

ぼくはそのお話をうかがっていて、
かっこいいなぁとも思ったし
「鶴瓶さんは、八〇歳になったときに、
 たのしく生きていこうと
 思っているんじゃないか?」
という気がしたんです。
目の輝きが違いますからね……。

そういう、鶴瓶さんのお話をしたいと思うんです。
三宅 鶴瓶さんが出ていらっしゃるのは、
東西の何人かで組んで落語をやろう、
という企画ですよね。

いいなぁ、と思っていたんです。
糸井 ええ。

小朝さんの呼びかけで、
プロデューサーは小朝さんがやっているんです。

小朝さんが、鶴瓶さんに
「兄さん、これ、憶えといてください」
というテープを
どんどん送ってくるらしくて、
それを鶴瓶さんは、それこそ毎日、
朝から、ネタを1本、2本、3本、4本と
頭の中で食っていって……。

その五〇の高座をやりながら、
テレビをやってるんです。
すごいことだなぁと思いまして。

あんなに本気になるとは……
また、高座が、ういういしいんです。

ご自分でもおっしゃるように
あんまりじょうずな落語ではないんですけど、
もちろん枕のしゃべりは
いつものペースですから、
客席を、ひっつかんで、
引きずりまわすぐらいおもしろいんです。

落語もちゃんとできているんだけど、
自分でもわかってるとおりに、まだ未熟で……
だけど、それを堪えてやってるってところが
美しくて、もうほんとに応援したいんです。
三宅 お客さんは、どういう層なんですか?
糸井 ふつうの寄席よりも、
少し若くなります。ホールです。
土屋 鶴瓶さん目当ての客、ではないんですよ。
どちらかというと、
落語好きのお客さんなんです。

けっこう厳しいアウェイ状態でやるんですよね。
あれはすごいと思いました。
糸井 そこに、
突っこんでいってるんだよね。
三宅 そういう、
自分なりの挑戦って、いいですよね。
土屋 鶴瓶さんは、
いろいろな番組をやられているなかに、
長い人生の先を考えたところで
挑戦することが、
やっぱり落語ということになると、
テレビ屋としては
「テレビよりも可能性を
 試せるところがあるのかもしれないなぁ」

と、ちょっとさびしくなる気持ちはありました。

お笑いとテレビと
非常に密接な関係があるわけですが、
いまの鶴瓶さんの落語だとか、
たけしさんの映画というように、
お笑いをやっていくなかには、
テレビで満たされないものが
かならず出てくるような気がするんです。

そういう人たちに、
テレビは何をこたえていないのか、
みたいなことが、ぼくは気になるんです。

鶴瓶さんとは、ずいぶん前に
一緒に台湾ロケに行ったんですが、
そのときに鶴瓶さんがおっしゃったことで
憶えているのは

「オレ、今から台湾の街、
 フルチンで走ることできるで」

ということで……。
まさにこう、現役感があるんです。

誰もそんなことをやってくださいとは
言ってないんですけど、そういう
「若手扱いされて、イチからもう一度やりたい」
という気持ちは、
みなさん、あるのかもしれません。
三宅 それは、みなさん、
どこかで持っているんじゃないですかね。
土屋 ええ。
鶴瓶さんには、結局若手のように、
台湾でヒッチハイクしてもらって、
自分でホテルを探してもらって、
すごくよろこんでいただいたんです。

「また、やろうな」
とおっしゃってくださった……。
糸井 若手扱いされたい感じは、
土屋さんにも、三宅さんにも、
ぼくにもありますよね。
土屋 ええ。
糸井 これは、なんなんですか?
土屋 (笑)
三宅 老いとの勝負?
土屋 あはははは。
糸井 そういうことなんですかね。
三宅 いつまでも現場でいられるぞ、みたいな。
それは、さんまさんも同じなんです。
糸井 野球で言うと、
バットを持っていたいっていうか。

「もともと、
 それがおもしろくてはじめたんだから」

そういうところは、ありますよねぇ。
三宅 あります、あります。

それと、さっきも出ましたけど
「みんなからそういう部分で期待されてるんだ」
とか、
「お呼びがかかってるんだ」
という、今を生きてる感みたいなのも
あると思います。
土屋 ただ、ちょっと呼ばれて出ていって、
『TVおじゃマンボウ』で、
「ちょっとアレしてください」
「コレもしてください」
「いつもの音楽かけますんで、出てください」
って言われると、
ちょっとイヤだみたいなところ、ありますよね?

「おまえの演出では出たくない」
みたいな……。
三宅 (笑)あぁ、ものすごいよくわかります。

昨日、説教したんです。
『トリビアの泉』に
「『ごきげんよう』のライオンのぬいぐるみは、
 昔は地味だった」
というトリビアが出るらしいんです。

ぼくは憶えていないんですけど、
ディレクターがコメントを求めてきて……
そのこと自体は、いいんです。
ただ、台本が決まってるんです。

「ここで、こう言ってください」

「貧相と言うと
 スポンサーのライオンさんに悪いので、
 地味と言ってください」

「今の言いかただと主語がアレなんで、
 こういうふうに言いなおしてください」

……なんかいろいろ言うから、

「もう、うるせぇな!
 だったら、台本どおり、
 おまえが言えばいいだろう。
 だいたい、オレがやっている番組で、
 いちいちそんなこと言われたくねぇんだ……
 おまえ、名前なんて言うんだ?」


もう、険悪な雰囲気で。
糸井 (笑)あはははは!
三宅 「あのな、出演者なんだから、ね?」と。
糸井 大事にしろと。
三宅 「出演者に何か言わせるというのは、
 素人に言ってもらうとか、
 役者に言ってもらうとかなんかだったら、
 台本どおりでいいかもしれないけど、
 こっちは、
 てめぇのやってきたことを話すのに、
 なんで、おまえに言われたように
 やらなきゃいけないんだ?」

それは、いい制作者は、
やらないぞ、と言ったんです。
糸井 わかるなぁ(笑)。
  (つづきます)


今日のひとこと:

「鶴瓶さんが
 いろいろな番組をやられていて、
 長い人生の先を考えたところで
 いま、挑戦することが、
 やっぱり落語ということになると、
 テレビ屋としては
 『テレビよりも可能性を
  試せるところがあるのかもしれないなぁ』
 と、ちょっと
 さびしくなる気持ちはありました。
 お笑いとテレビと
 非常に密接な関係があるわけですが、
 いまの鶴瓶さんの落語だとか、
 たけしさんの映画というように、
 お笑いをやっていくなかには、
 テレビで満たされないものが
 かならず出てくるような気がするんです。
 そういう人たちに、
 テレビは何をこたえていないのか、
 みたいなことが、ぼくは気になるんです」
             (土屋敏男)

※このコーナーへの感想をはじめ、
 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
 postman@1101.com
 ぜひ、こちらまで、件名を「テレビ」として
 お送りくださると、さいわいです。
 どのメールも、すべてじっくり拝読しますし、
 つい、おおぜいと分けあいたくなるような
 メールの感想などは、「おもしろ魂」連載中に
 ここで、ご紹介させていただくかもしれません。


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2004-09-16-THU

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