糸井 |
ぼくは、最近、
鶴瓶さんとよくお会いするんですけど、
昔から、なんだかしらないけど、
妙にともだちなんです。
落語の高座に、半年で五〇も出ている人で……
事務所から言えば、きっとソンなことですよね。
だけど、あれだけテレビで
おもしろいことをしている一方で、
ぜんぶタダみたいな落語の仕事にも、
どんどんつっこんでいって、
どうもほんとに落語をじょうずになりたい、
という気持ちで、
必死にやっていらっしゃるんですね。
ぼくはそのお話をうかがっていて、
かっこいいなぁとも思ったし
「鶴瓶さんは、八〇歳になったときに、
たのしく生きていこうと
思っているんじゃないか?」
という気がしたんです。
目の輝きが違いますからね……。
そういう、鶴瓶さんのお話をしたいと思うんです。 |
三宅 |
鶴瓶さんが出ていらっしゃるのは、
東西の何人かで組んで落語をやろう、
という企画ですよね。
いいなぁ、と思っていたんです。 |
糸井 |
ええ。
小朝さんの呼びかけで、
プロデューサーは小朝さんがやっているんです。
小朝さんが、鶴瓶さんに
「兄さん、これ、憶えといてください」
というテープを
どんどん送ってくるらしくて、
それを鶴瓶さんは、それこそ毎日、
朝から、ネタを1本、2本、3本、4本と
頭の中で食っていって……。
その五〇の高座をやりながら、
テレビをやってるんです。
すごいことだなぁと思いまして。
あんなに本気になるとは……
また、高座が、ういういしいんです。
ご自分でもおっしゃるように
あんまりじょうずな落語ではないんですけど、
もちろん枕のしゃべりは
いつものペースですから、
客席を、ひっつかんで、
引きずりまわすぐらいおもしろいんです。
落語もちゃんとできているんだけど、
自分でもわかってるとおりに、まだ未熟で……
だけど、それを堪えてやってるってところが
美しくて、もうほんとに応援したいんです。 |
三宅 |
お客さんは、どういう層なんですか? |
糸井 |
ふつうの寄席よりも、
少し若くなります。ホールです。 |
土屋 |
鶴瓶さん目当ての客、ではないんですよ。
どちらかというと、
落語好きのお客さんなんです。
けっこう厳しいアウェイ状態でやるんですよね。
あれはすごいと思いました。 |
糸井 |
そこに、
突っこんでいってるんだよね。 |
三宅 |
そういう、
自分なりの挑戦って、いいですよね。 |
土屋 |
鶴瓶さんは、
いろいろな番組をやられているなかに、
長い人生の先を考えたところで
挑戦することが、
やっぱり落語ということになると、
テレビ屋としては
「テレビよりも可能性を
試せるところがあるのかもしれないなぁ」
と、ちょっとさびしくなる気持ちはありました。
お笑いとテレビと
非常に密接な関係があるわけですが、
いまの鶴瓶さんの落語だとか、
たけしさんの映画というように、
お笑いをやっていくなかには、
テレビで満たされないものが
かならず出てくるような気がするんです。
そういう人たちに、
テレビは何をこたえていないのか、
みたいなことが、ぼくは気になるんです。
鶴瓶さんとは、ずいぶん前に
一緒に台湾ロケに行ったんですが、
そのときに鶴瓶さんがおっしゃったことで
憶えているのは
「オレ、今から台湾の街、
フルチンで走ることできるで」
ということで……。
まさにこう、現役感があるんです。
誰もそんなことをやってくださいとは
言ってないんですけど、そういう
「若手扱いされて、イチからもう一度やりたい」
という気持ちは、
みなさん、あるのかもしれません。 |
三宅 |
それは、みなさん、
どこかで持っているんじゃないですかね。 |
土屋 |
ええ。
鶴瓶さんには、結局若手のように、
台湾でヒッチハイクしてもらって、
自分でホテルを探してもらって、
すごくよろこんでいただいたんです。
「また、やろうな」
とおっしゃってくださった……。 |
糸井 |
若手扱いされたい感じは、
土屋さんにも、三宅さんにも、
ぼくにもありますよね。 |
土屋 |
ええ。 |
糸井 |
これは、なんなんですか? |
土屋 |
(笑) |
三宅 |
老いとの勝負? |
土屋 |
あはははは。 |
糸井 |
そういうことなんですかね。 |
三宅 |
いつまでも現場でいられるぞ、みたいな。
それは、さんまさんも同じなんです。 |
糸井 |
野球で言うと、
バットを持っていたいっていうか。
「もともと、
それがおもしろくてはじめたんだから」
そういうところは、ありますよねぇ。 |
三宅 |
あります、あります。
それと、さっきも出ましたけど
「みんなからそういう部分で期待されてるんだ」
とか、
「お呼びがかかってるんだ」
という、今を生きてる感みたいなのも
あると思います。 |
土屋 |
ただ、ちょっと呼ばれて出ていって、
『TVおじゃマンボウ』で、
「ちょっとアレしてください」
「コレもしてください」
「いつもの音楽かけますんで、出てください」
って言われると、
ちょっとイヤだみたいなところ、ありますよね?
「おまえの演出では出たくない」
みたいな……。 |
三宅 |
(笑)あぁ、ものすごいよくわかります。
昨日、説教したんです。
『トリビアの泉』に
「『ごきげんよう』のライオンのぬいぐるみは、
昔は地味だった」
というトリビアが出るらしいんです。
ぼくは憶えていないんですけど、
ディレクターがコメントを求めてきて……
そのこと自体は、いいんです。
ただ、台本が決まってるんです。
「ここで、こう言ってください」
「貧相と言うと
スポンサーのライオンさんに悪いので、
地味と言ってください」
「今の言いかただと主語がアレなんで、
こういうふうに言いなおしてください」
……なんかいろいろ言うから、
「もう、うるせぇな!
だったら、台本どおり、
おまえが言えばいいだろう。
だいたい、オレがやっている番組で、
いちいちそんなこと言われたくねぇんだ……
おまえ、名前なんて言うんだ?」
もう、険悪な雰囲気で。 |
糸井 |
(笑)あはははは! |
三宅 |
「あのな、出演者なんだから、ね?」と。 |
糸井 |
大事にしろと。 |
三宅 |
「出演者に何か言わせるというのは、
素人に言ってもらうとか、
役者に言ってもらうとかなんかだったら、
台本どおりでいいかもしれないけど、
こっちは、
てめぇのやってきたことを話すのに、
なんで、おまえに言われたように
やらなきゃいけないんだ?」
それは、いい制作者は、
やらないぞ、と言ったんです。 |
糸井 |
わかるなぁ(笑)。 |
|
(つづきます) |