「元気でいよう。」 ──これから、うたができること。── 宮沢和史さん×糸井重里対談
 
その3 大丈夫。きみはもう半分呼ばれてる。
糸井 被災地のみんなに
歌を届けるっていう
宮沢くんの映像を観ましたよ。
良かった。溌剌としてた。
宮沢 『光ツアー』ですね。
地震の後は、
“歌なんか、何の意味があるの”
って思いましたよ。

THE BOOMは震災の影響を受けて
ニューアルバムのリリースが無期延期になり、
ツアー・タイトルを
“THE BOOM 平成23年 春夏公演『光』”に変更して
全国ツアーを行った。
糸井 そのことを、一回、思うべきですよね。
宮沢 音楽って質量もないし、
何より目に見えないですしね。
腹いっぱいにもならないし、
トークのできるミュージシャンでもないし。
「俺の仕事ってなんだ?」
でもあの後、ぼくのやってるラジオ番組で
ものすごくリクエストが増えたんです。
糸井 よく分かる。
宮沢 「日本のうた」をあんなに聴いた一年は無かったです。
昔の日本の曲、山田耕筰さんのものとか、
いずみたくさんのものとかを含めて。
やっぱりみんな歌に飢えてるし、
歌が好きなんだっていう、
歌そのものの存在の軽さっていうか薄さっていうか、
はかなさと、無限に持つパワーみたいな。
そう、『アンパンマンのマーチ』がすごく‥‥。
糸井 『アンパンマンのマーチ』!
良かったよね。ぼくも買いました。
宮沢 “愛と勇気だけが友達さ”ってひと言で、
「俺は生きてけるかもな」
って思った人が、
いっぱいいたってことですよね。
「すげーな、音楽」って。

ぼくは被災地に行って働いたり
ボランティアしたりってことはなかったんですが、
音楽の中に留まって「何ができるだろう」って思って、
できることはそれほど無くても、
やっぱり何よりも、自分が元気でいることが
大事だなって思って。
ぼくらもやっぱり東京で怖かったじゃないですか。
「明日はどうなるんだ」って。
だからこそ
「いやいやいや、俺は元気だよ」、
「やりたいこといっぱいあるから、
 みんなに会いに行くよ」
っていうのがいちばんだと思いました。
糸井 そこに至る前に、
できないって気付いたかどうかが
重要ですよね。
ぼくも「できることはほんとに無いな」って、
やっぱり、まず思いました。

宮沢くんも、何の疑問もなく
「ぼくの歌を聴いて元気になって!」ではなく、
“できることの無さ”を痛感してから、
思い切って出て行った。
それが重要なんだと思う。

こういうふうに考えたらどうだろう?
日本をひとつの「人体」だとする。
すると、左脚一本分ぐらいにあたる東北が、
事故に遭ってしまった。
そのときに、さあひとつの人体として、
何ができるんだろう?

右手も左手も空いてるし、
頭では考えることもできるよね。
「飯食おう」「栄養を送ろう」
「さすろう」「薬を塗ろう」
「よし、血液回そう」それから、
「ヒリヒリしてるところにワイワイ行くなよ」
みたいなこともあるよね。

自分がやってきたことは、
そういう手伝いだったかもしれない。
おそらくぼくはね、
内臓系のどこかだったんだろうね。
たぶん宮沢くんの仕事は
もっと「こころ」の部分。
「脳」って言い切れないようなところ、
震災後に、被災地でやっとお風呂に入れた、
というようなニュースを見たときに、
「やっぱりお風呂だなー!」と思ったけれど、
あれ、歌そっくりだったよね。
あと化粧品とかシャンプーが、
ものすごくありがたがられたっていうことも。
宮沢 化粧品もですよね。
糸井 そう。“一食抜いても”って思ったらしいからね。
人体説、ちょっとあるかもしれない。
つま先の人はつま先として
ふだんはそれを全うしてればいい。
けれどもつま先に行ってる栄養まで
ほかの場所で欲しいときがあるっていうことは
“ある”と思うんです。
宮沢 地球全体がそうですもんね。
自分の人体と思わない限り、
どこにも逃げられないわけだから。
だけど今回の震災は、
地域によって温度差があったりしたのも事実ですね。
だからこそ、見て来た人間としては
伝えなきゃいけないな、って、
それが後から出てきた意義でした。
糸井 このところ俺はよく、
若い子と会う機会が増えたんですね。
彼らの「何をしていいか分からないんです」
っていう言葉に対して、
色々な答えかたがあったんだけど、
「きみも、いつか呼ばれるから、焦らなくていいよ」
って言っているんですよ。
その栄養(きみ自身)をください、
っていうときがいつか来るから、
それを意識していればいい。
そもそも「何をしていいか分からない」
って言ってる人は、
もう半分は呼ばれているんですよ。
宮沢 なるほど。ぼくもね、そう思ったんですよ。
ツアーしてても、やっぱり温度差があるので。
センシティブな人はどこにいても
「こうやっておいしいものを食べてる自分に
 ちょっと罪悪感があるんです」と感じている。
「だって、テレビを見てると
 ボランティアでやってる人がいるし、
 私はこれでいいのかな」って。
でも絶対役割というか、順番が来るし、
あなたの力が必要なときが来るから。
真っ先に行ってガーッとやった人は、
最初に呼ばれた人で、そういう役割だから。
それが5年後、
10年後に来る人もいるんだから。
だからそういうことを言っている人は、
糸井さんがおっしゃったように、
「もう半分は呼ばれてるんじゃない?」
って思うんです。
(つづきます)
2012-05-23-WED
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