「元気でいよう。」 ──これから、うたができること。── 宮沢和史さん×糸井重里対談
THE BOOMの宮沢和史さんが、 ぜひ糸井重里に話をききたい、とやってきました。 東日本大震災から1年を経て、 いろんなことを思い、 たくさんのことを実行してきた宮沢さんが たずさえてきたテーマは「未来」。 時代について、役割について、 恋について、思いについて、 ゴリラについて、そしてうたについて。 たくさん話した、たっぷり濃い時間になりました。  THE BOOMのファンクラブ会報誌「エセコミ」に 掲載されたこの対談を、 「ほぼ日」編集版でおとどけします。
 
その1 80年代のこと、聞かせてください。
宮沢 ぼくが思春期を迎えていた80年代、
糸井さんの言葉に
いろんな影響を受けました。
糸井さんのつくったフレーズやコピーが、
あの時代に、すごく溢れていて、
同時に、イエロー・マジック・オーケストラの音楽に
驚かされたりしながら、
それを見ていました。
あの80年代をつくった糸井さんが、
いま、その80年代につくったものを
原点としているかのように、
「ほぼ日」をつくっている。
その話を、ぼくはすごく
聞きたいと思っているんです。
糸井 宮沢くんの中では、80年代といまが
つながってるんだね。
宮沢 はい。つながってます。
糸井 その話を聞きながら、
「自分はどうなんだろうな」って考えていたんです。
案外“つながってない部分”が多いかもしれないぞと。

自分にとって、いまと80年代がいちばん違うのは、
“頼まれ仕事は一つもしなくて良くなった”こと。
80年代は全部が請け負い仕事でした。
けれどもいまは、自分でやりたいと思ったことを、
規模が小さくてもなんでも、
自分で決めて、ぜんぶ、自分が責任を引き受ける。
そういうふうにしたんです。
そういう仕事のしかたを、
もう十何年も続けています。
宮沢 はい。
糸井 80年代はね──、
このごろ、ぼくは若い子によく
「もっといい気になればいいのに」って言うんだけれど、
ぼくはちゃんとあの当時、
“いい気”になってたつもりなんです。
“自分がルールだ”
“これでいいんだ”って。
自分が面白いと思うものを、
みんなが面白がってくれた。
音楽で言えば
“個人的な気持ちをこめて書いたラブソングに、
 みんなが、共感してくれる”
というのとおんなじことで、
80年代は、自分のやりたいことと
ひとが面白がってくれることが
一致していたラクさがありました。
宮沢 90年代というのは、どうでしたか。
糸井 90年代って空白に見えますよね。
あの時代は、やっぱり他人に
合わせていたような気がします。

90年代は、
変に自己主張しなくてもよくなってしまった。
「これはやりたいから一所懸命やっています」
という人も、
ほんとにそれがやりたいのかどうか、
分からなかった。
宮沢 まさしくバブルっていうのは
80年代の終わりから90年代の頭頃ですよね。
糸井 そうだね。雑誌で言えば、
90年代というのは、
広告収入を当てにしていた時代です。

80年代の雑誌は、
編集部が面白いと思って作り、
それに賛同して、スポンサーが出した。
そもそも雑誌って、そういうものだよね。
何を作りたいかがあって、
内容があって、
広告はそこに入ってくるものだったから。

けれども90年代は、
“だったらこういうのを作ると広告が入るぞ”
っていう作り方になって、主客が転倒した。

ぼくは、その居心地の悪さがいやで、
“広告はもうアルバイトぐらいでいいや”と、
40歳半ばぐらいかな、広告の仕事を辞め、
「ほぼ日」を始めたのが1998年です。
“やりたいのはこっちだ”って。
やがて広告の仕事も受けなくなって、
全部を「ほぼ日」の仕事として考えるようになった。

そんなこと言ってるうちに、
もう14年経っちゃったんですよ。
ぼく、目的やら夢があって
進むっていうタイプじゃなくて、
“そこはやだな”っていうので
逃げるタイプなんです。
宮沢 はい(笑)。
糸井 で、「やだな」って逃げるときの
ダッシュ力が結構強いから、
まるで次のスタートを元気よく
しているかのように見えるんだと思う。
宮沢 なるほど。
糸井 成功するかしないかはわからないけれども、
とにかくスタートする。
考えようによっては
「飢え死にするのも覚悟!」みたいな勢いです。
そのダッシュ力って、
ぼくはいまでも
自分に期待してる部分なんですよ。
宮沢 怖くはないですか。
糸井 怖くはないんです。
音楽の人で言えば
レコード会社に期待しすぎたら、
自分が潰れてっちゃうし、そのときに
「そうじゃない道を考えるぞ!」
って走ってったときには、
ちょっと怖さがあると思うんだけれど、
それ、あまりぼくは感じないんですよ。

(つづきます)
2012-05-21-MON
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更新の予定
その1
80年代のこと、聞かせてください。 2012-05-21 MON
その2
90年代に、出せなかった力。 2012-05-22 TUE
その3
大丈夫。きみはもう半分呼ばれてる。 2012-05-23 WED
その4
宮沢くん、ラブソング作ってよ。 2012-05-24 THU
その5
ことばじゃない、たましいの部分。 2012-05-25 FRI
その6
見苦しく飛び込んで行く腕の中。 2012-05-28 MON
その7
居心地がいいのは歌謡曲? 2012-05-29 TUE
その8
意味や思いすら超えた「表現」。 2012-05-30 WED
その9
選んでもらえない数字をすべて肯定したい。 2012-05-31 THU
その10
日本の歌のゆたかさを。 2012-06-01 FRI
その11
元気でいよう。 2012-06-04 MON
 
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