「元気でいよう。」 ──これから、うたができること。── 宮沢和史さん×糸井重里対談
 
その9 選んでもらえない数字をすべて肯定したい。
宮沢 即興、ぼくは得意じゃないんです。
どちらかと言えばある程度準備したい人間なんです。

スピーチなんて最たるもので、
よく言うじゃないですか
「書かれたものを読むと3分の2ぐらいは
 伝達能力が下がる」って。
言葉って“いい言葉”も“悪い言葉”もなくって、
平等で、使い方だし。
『自転車でおいで』っていう名曲も、
もしいま矢野さんと糸井さんが「作ろうよ」って
同じもの作ってもウケなかったかもしれない。
誰にも伝わらなかったかもしれない。
自分も、去年流れてきた歌は
全く違う歌に聴こえたし、
震災を経て、自分の歌ですら
「こんな歌だったのか」って。

それは糸井さんがさっきおっしゃったことだと
思うんですよ。
言葉っていうのは別にいい悪いもなくて、
誰にとっても同じもので、
聴こえ方がかわったりとか、
受け取る側の問題でもあったり。
投げかける温度だったりもあるし。

ものすごくそこを、カチッと決めたくなる。
責任も取らなきゃいけいないし、
この言葉はこうだよ、って言いたくなる。
けれども、そんな小さいものじゃないんだな、
っていうことを今日、気づきました。
糸井 ぼくら、よくこんなややこしいこと話してるね。
宮沢 ふふふ(笑)。
糸井 スタイル(文体)っていうのも
最近気付いたことでね。
スタイルを持っていない人は
どんな経験しても語れないや、とか、
色んなこと思うんですよ。
宮沢 ぼくは谷川俊太郎さんが大好きで、
昔から憧れの人なんですけど、
『女に』という詩集があるんです。
佐野洋子さんというイラストレーターと
パートナーになったとき、
その喜びを表現した詩集なんですね。
彼女に対する詩。ラブメッセージ。
こんな年になっても、人を愛せるんだ。
あなたとセックスもこの年になったって
笑いながらできるんだなぁ。
そんなふうに、もうほんとに出ちゃう喜びを
書いているんですね。
その詩集、大好きなんですけど、
そんなものを見せられちゃうと、
自分は、何作っていいかよく分かんなくなりますよ。

ほかにも、老いた詩人が窓の外に
木が揺れてるような風景を見て、
「あの景色はもう何年か前に書いたなぁ」
「あ、これも書いたなぁ。書くことがなくなった」
というものがあるんです。
で、そのあとほんとに一時書かなくなった。
そんなふうなすごいことを言う人がいるんで、
俺はどこへ行こうかなー、って。
自分はそういう言葉を操る人が好きっていうことも、
一つの物差しにしているんだと思います。
糸井 さっきスタイルって言ったけれど、
「ぼくは偶数ばっかりの数字で何かを描きます」
っていうのもスタイル。
「赤ばっかりで描きます」っていうのもスタイル。
そのときには
「他の絵の具がいっぱいあっても赤だけ使います」
っていう人と
「他の絵の具持ってなくて、赤だけなんです」
の人がいると、やっぱり描くものが違っちゃう。
使わなかった絵の具とか、
使わなかった数字とかっていうものを、
どう考えるかっていうこととの、
今度はまた色んなお楽しみな格闘があって。

777っていう数字はみんな大好きですよね。
でも、776には何の意味もないって思ってる。
でも、776についてもうちょっと語り合いませんか、
って、ぼくがいま気仙沼でやりたいことは
そういうことなんですよ。
775も123も
何か意味がありそうで選んでもらえる。
でも、122は選らんでもらえなそうだ。
みたいなことの、
選んでもらえない数字について語り合いたい。

なんていうんだろう、
それを人は邪険に扱ってきた。
人間もそうですよ。
777っていう人ばっかりがやっぱり、
“キャー”って言われるんですよ。
でも、ほとんど歩いてるのは
読みようのない数字の人が歩いてるわけで。
宝くじの番号みたいな番号っていうのを
みんな抱えて歩いてると思ったら、
この番号全部を肯定するような何かがしたい。
宮沢 もっと言っちゃえば、
777っていう人も、
いま、いなくなって来てますね。
昔はいたけれど。
糸井 そうですね(笑)。
隠したりしてますよね(笑)。
777を目立たないようにしましょう、みたいな。

この、全部が価値っていう仕事は
“芸術”だと思ってるんですよ、
歌とかは、くだらない歌も含めて、
比べようのないもんだって思うんですよね。
「これ、分かって欲しい」と思って作ったものは
みんな価値があるものなんです。
生意気な言い方をすれば、
自分たちのこれからの仕事の仕方も
そういうふうになっていくといいな、
と思っている。
それが気仙沼から出発できないかなと
思ってるんですよね。
ずいぶん観念的な言い方になるんですけどね。

歌はね、ほんとうは比べようがない。
どっちの歌が好きってみんな言うけど、
どっちのとか言う必要ないんですよ。
ほんとはね。

(つづきます)
2012-05-31-THU
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