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宮沢 |
即興、ぼくは得意じゃないんです。
どちらかと言えばある程度準備したい人間なんです。
スピーチなんて最たるもので、
よく言うじゃないですか
「書かれたものを読むと3分の2ぐらいは
伝達能力が下がる」って。
言葉って“いい言葉”も“悪い言葉”もなくって、
平等で、使い方だし。
『自転車でおいで』っていう名曲も、
もしいま矢野さんと糸井さんが「作ろうよ」って
同じもの作ってもウケなかったかもしれない。
誰にも伝わらなかったかもしれない。
自分も、去年流れてきた歌は
全く違う歌に聴こえたし、
震災を経て、自分の歌ですら
「こんな歌だったのか」って。
それは糸井さんがさっきおっしゃったことだと
思うんですよ。
言葉っていうのは別にいい悪いもなくて、
誰にとっても同じもので、
聴こえ方がかわったりとか、
受け取る側の問題でもあったり。
投げかける温度だったりもあるし。
ものすごくそこを、カチッと決めたくなる。
責任も取らなきゃいけいないし、
この言葉はこうだよ、って言いたくなる。
けれども、そんな小さいものじゃないんだな、
っていうことを今日、気づきました。
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糸井 |
ぼくら、よくこんなややこしいこと話してるね。
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宮沢 |
ふふふ(笑)。
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糸井 |
スタイル(文体)っていうのも
最近気付いたことでね。
スタイルを持っていない人は
どんな経験しても語れないや、とか、
色んなこと思うんですよ。
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宮沢 |
ぼくは谷川俊太郎さんが大好きで、
昔から憧れの人なんですけど、
『女に』という詩集があるんです。
佐野洋子さんというイラストレーターと
パートナーになったとき、
その喜びを表現した詩集なんですね。
彼女に対する詩。ラブメッセージ。
こんな年になっても、人を愛せるんだ。
あなたとセックスもこの年になったって
笑いながらできるんだなぁ。
そんなふうに、もうほんとに出ちゃう喜びを
書いているんですね。
その詩集、大好きなんですけど、
そんなものを見せられちゃうと、
自分は、何作っていいかよく分かんなくなりますよ。
ほかにも、老いた詩人が窓の外に
木が揺れてるような風景を見て、
「あの景色はもう何年か前に書いたなぁ」
「あ、これも書いたなぁ。書くことがなくなった」
というものがあるんです。
で、そのあとほんとに一時書かなくなった。
そんなふうなすごいことを言う人がいるんで、
俺はどこへ行こうかなー、って。
自分はそういう言葉を操る人が好きっていうことも、
一つの物差しにしているんだと思います。
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糸井 |
さっきスタイルって言ったけれど、
「ぼくは偶数ばっかりの数字で何かを描きます」
っていうのもスタイル。
「赤ばっかりで描きます」っていうのもスタイル。
そのときには
「他の絵の具がいっぱいあっても赤だけ使います」
っていう人と
「他の絵の具持ってなくて、赤だけなんです」
の人がいると、やっぱり描くものが違っちゃう。
使わなかった絵の具とか、
使わなかった数字とかっていうものを、
どう考えるかっていうこととの、
今度はまた色んなお楽しみな格闘があって。
777っていう数字はみんな大好きですよね。
でも、776には何の意味もないって思ってる。
でも、776についてもうちょっと語り合いませんか、
って、ぼくがいま気仙沼でやりたいことは
そういうことなんですよ。
775も123も
何か意味がありそうで選んでもらえる。
でも、122は選らんでもらえなそうだ。
みたいなことの、
選んでもらえない数字について語り合いたい。
なんていうんだろう、
それを人は邪険に扱ってきた。
人間もそうですよ。
777っていう人ばっかりがやっぱり、
“キャー”って言われるんですよ。
でも、ほとんど歩いてるのは
読みようのない数字の人が歩いてるわけで。
宝くじの番号みたいな番号っていうのを
みんな抱えて歩いてると思ったら、
この番号全部を肯定するような何かがしたい。
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宮沢 |
もっと言っちゃえば、
777っていう人も、
いま、いなくなって来てますね。
昔はいたけれど。
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糸井 |
そうですね(笑)。
隠したりしてますよね(笑)。
777を目立たないようにしましょう、みたいな。
この、全部が価値っていう仕事は
“芸術”だと思ってるんですよ、
歌とかは、くだらない歌も含めて、
比べようのないもんだって思うんですよね。
「これ、分かって欲しい」と思って作ったものは
みんな価値があるものなんです。
生意気な言い方をすれば、
自分たちのこれからの仕事の仕方も
そういうふうになっていくといいな、
と思っている。
それが気仙沼から出発できないかなと
思ってるんですよね。
ずいぶん観念的な言い方になるんですけどね。
歌はね、ほんとうは比べようがない。
どっちの歌が好きってみんな言うけど、
どっちのとか言う必要ないんですよ。
ほんとはね。
(つづきます) |