「元気でいよう。」 ──これから、うたができること。── 宮沢和史さん×糸井重里対談
 
その11 元気でいよう。
宮沢 ワクワクしたり、ドキドキしたりするものって、
それがあれば生きていけるじゃないですか。
ほかにいくら満たされてても、それが無いと
「俺どうしちゃったんだろう」みたいになる。

ぼくはひとりひとりに料理を作ることはできないけれど、
ぼくとかかわることによって、ちょっと元気になって、
「またあいつの話聞きてぇなぁ」とか、
「近くに歌いに来るんだったら
 ちょっと見に行こうかな」
ぐらいなことができたら最高だな、って。
糸井 「あんたに頼んだ!」って
宮沢くんは言われてるんだよ、もう。きっと。
頼むよ、って。
ただ、音楽って、バンドを動かすと
雇う人だとか運び賃だとか、
泊まってどうとかでこんだけお金がいります、
だから、お客さん何人入れなきゃなんないです、
みたいな話に必ずなる。
音楽のそのあたりをどうクリアするのかなってのは、
もっと考えたいところなんですよね。
宮沢 近頃、ローリング・ストーンズも、
舞台にやっぱりお金かけてないですもん。
スティングもそうです。
今回のコンサートツアーでは、
ストリングスは全部現地調達です。
ロック界の最高峰の人たちだってそういう状況です。
じゃ、俺達どうすんだ、って。

ぼくは、その話とはちょっと関係ないんですけど、
今年はギターだけで
全都道府県回るっていうのをとにかくやって、
2012年日本ってこうだったんだ、っていうのを見ます。
糸井 何ヵ所ぐらい?
宮沢 全都道府県プラスいくつですから、
50いくつじゃないですかね。
糸井 やったほうがいいね!
宮沢 元気な姿を、見せる。
糸井 自分のためにやったほうがいいね。
宮沢 自分のためにもですけどね。
糸井さんとぼくの違うところっていうか、
糸井さんのすごいとこは、最前列にいるのに、
糸井さんの活動で“糸井重里”っていう名前は
もちろんぼくらは見るけれども、見えないっていうか。
糸井さんにかかわってたり賛同してる人たちが行って、
ほんと一番前に行ってるのに、
糸井さんの姿がうっすら後ろにいるのがすごい。
糸井 ぼくは、やりたいことがやりたいだけで、
自分じゃなくてもいいと
思ってるからじゃないですかね。
やりたいことがやりたいんです。
あと、ま、特に被災地は、
主役お前らだぞって、
意地悪な意味でも、言わなきゃね。
ぼくがいっくら頑張ってもダメなんです。
ただ、出なきゃなんないときの
自分の部分ってのは出さなきゃなんないし。
なかなか、加減は難しいですよね。

それも文体でしょうね。
軽やかな文体で描けば、
おなじことでも辛そうにはなんないですよね。
宮沢 文体としては、
これだけ苦労して俺はここまで来た、
っていうストーリーなんて
いくらでも書けるわけですから。

ぼくは、結構悲観的な人間なんですよ。
だから、正月に地震が起きれば、
「これはメッセージだ」と思っちゃうし
「忘れるなよ」って言ってるんだろうなって
捉えちゃうんですよ。
でも、俺はそれでいいと思ってる。
ある意味物理的な惰性があるのと一緒で、
我々のこの営みは
「もう今止めてもその惰性で
 線路を越えて落ちちゃうよ」
っていうとこに来てるって思ってるんですよ。
でも、そこをちょっと頑張って燃えてるぞ、
乗り越えようとしてるぞ、ということをテーマにして。
「あいつなんか鼻息荒いし、年も取ったなぁ」
なんて言われながら、バタバタしている。
頑張ろうっていうことなんですけど、
ひと言で言うと。
糸井さんはまたぼくとは
まったく全然違うタイプですよね。
糸井 ぼくとはまた違うけれど、
宮沢くんのその気持ちは分かります。

自分は何を大事にするかな、っていうのを
みんなが考えればいいだけなんじゃないか、
誰もお前に文句言わないよ、ってぼくは思ってる。
だから、ぼくはぼくでやるし、宮沢くんにも、
「おお元気でやれそうだ。ああよかったよかった」。
そういうことなんです。

最後に「元気にやらないです」って終わったら、
それはちょっと勘弁してくれって思うけれど、
だけど、何を思ってても、
「元気にやれるんです」っていう結論が出るってことは、
何かジャンプしてるんですよね。心で。
そのジャンプが人間てものだと思うんだ。
宮沢 そうですね。
糸井 こんなに話して結論は
「元気でやる」かい?! っていうのは、
ほんとはすごいジャンプがあるんだけど、
ロジックじゃないところに人間っているんでね。
それは歌ですよね。
で、やっぱり、人が機嫌がいいっていうのは、
いちばん、いいですよね。
それの手伝いをしたい。
自分もそういうところの人だからね。
宮沢 ぼく、世界で2曲、歌詞が好きな曲があるんです。
1曲は、ジョン・レノンの“イマジン”です。
想像すればいいだけだから、「簡単じゃん」って。
「想像すればいいんだ」って、
「みんな未来はこうなるんだよ」って。
「こうなりたいよね、って思えば、
 みんなでフワッと行くかもよ」っていう。
それはロックの究極のメッセージなので。

もう1曲は、ブラジルの曲で、
日本語のタイトル言うと、
“世界の全てが君のようだったら”
というアントニオ・カルロス・ジョビンの詩です。
「世界の全ての人が君のようだったら、
 この世界はなんて美しいんだろう」っていう
ベタベタのラブソングなんだけど、
すごいメッセージだと思って。
糸井 いいね。
宮沢 自分の愛する人のようにみんながなってくれたら。
ほんと、そうだなって思う。
だって、一人一人できることなんか
もうほとんどないと言ってもいいし、
一人一人がフワッと、
なんでもない人が幸せそうにしてるっていうのが
いちばんいいと思う。
そうなるには一人一人が元気だったり、
夢があってワクワクしてたりドキドキしてたり、
願いがあったり、っていうことなんじゃないかなと
ぼくは思うんです。
(おわります)
2012-06-04-MON
前へ このコンテンツのトップへ  
 
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN