糸井 |
ぼく、平日に動物園に行ってきたんです。
平日の動物園って
人があんまりいないので
見るほうも、自由なんですよ。
サル類の檻が室内にあって、
順番にサルに面会したんだけれど、
サルって好奇心が強いから、
人が来るとやっぱり、見るんだ。こっちをね。
完全に一対一なんです。
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宮沢 |
ふふふふ(笑)。
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糸井 |
彼らにはぼくの言葉が通じないわけです。
だけど、人もいないから恥ずかしくないし、
「ま、ゆっくり語ろうじゃないか」と思って、
しゃがんで、チンパンジーに向かって、
「こっちおいで」って
子どもに言うみたいに言った。
そうしたら‥‥ちゃんと来るんだ!
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宮沢 |
うーん!
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糸井 |
英語であろうが中国語であろうが
人間の言葉であろうがサルだろうが、
しゃべればオッケーなんだと思った。
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宮沢 |
うーん!!
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糸井 |
理屈で言うと、
飼育係が「ご飯だよ」って
言いながら呼んだら来るのと同じように、
人間がしゃべってるときって、
好意を持ってるとか、
悪いことじゃないんだなってこと
知ってるから来て聞いているんだと思う。
それは仕組みとして分かっていたんだけれど、
「じゃぁ写真を撮っていいかな」なんて訊いても、
全然気を悪くしてない。
けれどもぼくはもしかしたら
ゴリラだけはちょっと怒るかもしれないと思ってて。
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宮沢 |
あはははは(笑)。
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糸井 |
やっぱ怖いですよ。デカいって怖い。だから
「俺はお前に対してちょっと怖いと思ってる。
しかし、あの、怒ったら困るんだよ。
それにしても、顔がでかいよね」
なんてしゃべってみた。
すると、そうでもないんですよね。
ゴリラも「そぉお?」みたいなふうで。
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宮沢 |
そうですか(笑)、うんうん。
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糸井 |
歌の話から
ずいぶん離れちゃったかもしれないんだけれど、
ぼくが言いたいのはそういうことなんです。
お客さんが「ウワッ!」と嬉しいところの、
たましいの部分って、
そういうところなんだと思う。
ゴリラと話をした自分と同じなんだよ(笑)。
俺は特に宮沢くんの歌を
知ってるからそう言うけれど。
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宮沢 |
なのに、キャリアを積むと。
どうしても言葉に頼ってく部分が
出てくるんですよね。
やっと自分もこんなに言葉を
操れるようになってきた、みたいな。
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糸井 |
ああ、そうか。
言葉には機能があるからね。
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宮沢 |
「あ、つかめたじゃん」って。
「ああ、やっぱり色々経験積んだし、
色んな人の話も聞いたから、
こういう言い方ができるのかな」と思いつつ、
糸井さんがいま
言ってるようなことにも気づくんですよ。
時々言葉に裏切られたりして。
見捨てられちゃったりして。
それで「言葉なんてただの記号」というような
詞を書いてみたりするんです。
だけど、どっかでやっぱり、
言葉を操ったりいじったりしてるのが
好きなものですから。
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糸井 |
好きですよね。
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宮沢 |
好きで、やるんですけど、
「あ、でも違うな。これ誰にも伝わんないな」
っていうことも分かるようになってきた。
糸井さんがさっきおっしゃった、
ジョアン・ジルベルトの『イパネマの娘』という、
とても有名な曲がありますけど、
たぶん聴いてる人のほとんどは
“イパネマ”っていう単語くらいしかわからない。
でも、イパネマの景色が、
全員の目にたぶん浮かぶんですよ。
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糸井 |
そうだね。「何か私にとっていいことがある」
と思ってそっちを向くんだね(笑)。
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宮沢 |
そうそう、そうそう(笑)!
「なんか好意を持ってくれてて、
いい世界を見せてくれるんだろうな」
って。
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糸井 |
ぼくたち、サルと同じだよね。
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宮沢 |
それはすごい話ですよ。
そこに行きたいな、といつも思います。
でもやっぱり‥‥。
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糸井 |
できてますよ、それ。
宮沢くん、できてます。
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宮沢 |
あの、こんな話しても始まらないんですけども、
音楽を始めた頃ってなんにも考えてないっていうか、
いま思うと意外にそういう曲って“ある”なぁ、
と思ったりして。
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糸井 |
若いとき、
ものを知らないときじゃないと
できないことってあるんです。
ぼくも、昔書いたものとか見ると、
「俺はこれ、今は、書けない」
って思うことがある。
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宮沢 |
糸井さんでも、ありますか。
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糸井 |
うん。「荒削りなんだよな」と思うと、
意外とちゃんとしてたり。
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宮沢 |
そう、意外と、荒削りじゃないんですよ。
すんごい考えたんだろうな、とか。
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糸井 |
そこまで分かるよね。
いまのほうが荒削りですよ、ある意味。
変にちょこちょこやって、
パワーなくしたら困るから、
いまのほうが荒っぽいことも
できるようになっているし。
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宮沢 |
ええ、ええ。それもそうなんですよ。うん。
(つづきます) |