糸井 |
歌詞、憶えてないんですね。 |
中島 |
そうなんです、ツアー中でも毎日忘れる。
一回、口に出すと出て行っちゃって、
次また覚えて、口に出したら忘れて。
よし、覚えた! って思ったころには
ツアーが終わってるんだもん(笑)。
クラシックの演奏のかたがたなんか、
常に何十曲も持っていて、
次のコンサートはこの曲にします、
って言ったら、
いくつかの中からパッとできるわけでしょ。
役者さんも、一回覚えた役を
またやれるんですものね。 |
糸井 |
でも自分が作ったことさえ
忘れてるってことはないでしょう? |
中島 |
作ったことは覚えてる。
ていうか、なんにも予備知識なく、
自分の曲がポンと流れてきたら、
「オレの」ってことはわかるけど、
じゃあ、そこから先、
歌ってくださいって言われても、
歌えないな。
むしろお客さんのほうがわかるんだよね。
コアな人になると、その曲が、
どのアルバムの何曲め、
ってこともわかるでしょ。
私はわかんないですもん。 |
糸井 |
種類が違うんだね。 |
中島 |
今ね、ツアーで歌う
曲決めをしてる段階なんです。
それで、音楽プロデューサーと話していて、
「この曲は‥‥どんな歌だっけ?」って、
そこからですもの、私。
時間かかる、かかる。 |
糸井 |
いや、素晴らしい。 |
中島 |
「じゃあ、CDかけてみよっか」と(笑)。 |
糸井 |
で、ちょっと聴けば、
「あ、知ってる」って? |
中島 |
「知ってる、聴いたことある」って。 |
糸井 |
そういう人のことだから、
きっと自分の曲を知らず知らずに聴いたら、
「いい曲作るなぁ、こいつは」って思うでしょ。 |
中島 |
思うし、昔歌ったのを聴くと
「うまいなぁ」って。 |
糸井 |
わかる! わかるわー、その気持ち!
俺、その感覚大好き。 |
中島 |
あはははは。 |
糸井 |
でも俺はみゆきさんよりもっとひどい。
自分で書いたことさえ忘れてて、
すっごい真面目な顔して
「これはすっごくいい!」
って言ったりするんです。
すると「これ、糸井さんのですよ」って。
「あ、そうか‥‥、そうだな」と。 |
中島 |
自画自賛って、そういう意味の解釈も
ひとつ付けておいたほうがいいんじゃない?
自分で描いた絵を自分で自慢するんじゃなくて、
自分で描いた絵を忘れて、
うっかり褒めるっていうのも、
広辞苑に載せたほうが。 |
糸井 |
その意味でぼくとみゆきさんは
平等なんです。
自分をも勘定に入れている。 |
中島 |
ああ、ですよね、ですよね。 |
糸井 |
客観的に良いの悪いのという時に、
自分の作ったものだからって除外しない。
で「これもいい」と言う。
あと自分の作ったものでも
悪いものは悪いって言う。
言うでしょう? |
中島 |
(笑)ありますよ。
好き嫌いは日に日に変わりますしね。 |
糸井 |
あと「ここ、できてないんだよな」
ってことは、一生憶えてる。
ほんとは、もっといいのがあるはずだ、
と思って探したんだけど、探しきれなくて、
このまま行っちゃったんだ、
っていうようなところはよく憶えてる。
でも、かえってそのほうが
好きだと言う人がいるんだよね。 |
中島 |
それと、時期。
アルバムで出したときには
ボロッカスにしか言われなかったのが、
なんかの世の中の流れで、
ポーンとはまっちゃうときってあるのね。
突然、いいって言う評が出てくる。
でも前は、ボロカスに言ったじゃなーい、って。
これ、わかんないよ。 |
糸井 |
それはつまり、
自分ひとりで作っていない、
っていうことですよ。 |
中島 |
だね。 |
糸井 |
一緒に語るのはちょっと生意気ですけれども、
ひとりで作っているわけじゃないのよ、モノって。
なにか訳のわからないものと
一緒に歩いて作っている。
だから「俺が考えた!」って言うには、
ちょっと申し訳ないところがあるの。
降ってきているとまでは言わないけど、
できちゃうんだから。
だから忘れるし。 |
中島 |
忘れるし、そうそう。 |
糸井 |
みゆきさんのも、ぼくはそうだと思うな。
1番の歌詞があったおかげで、
2番の歌詞が
自然にできちゃったのってあるでしょう。 |
中島 |
ありますね。 |
糸井 |
それは自分で作ったんじゃなくて、
1番が作ったんですよ。 |
中島 |
うんうんうんうん。 |
糸井 |
実感を込めて言えますよね。 |
中島 |
そうですね。机の上でさあ書くぞって、
設計図を作って一行目二行目三行目って
やってないですもん。
順不同だったりもするし、
どうして書いたのかわからないうちに
書いてることもあるし、
なんでこうなるのかなあって
20年経ってわかる歌もありますものね。 |
糸井 |
特にみゆきさんはたたみかける作詞家なので、
Aと言ったら、Aダッシュ、
Aツーダッシュ、Aスリーダッシュ、
Aフォーダッシュって入れていく人だから。
嫌っていうほど、同様のたとえで
攻めてきますからね。
2番め以降なんていうのは神様の業ですよ。
秀才には作れない。
秀才は一所懸命考えるから、
整合性とかを考えて、
このたとえと、このたとえは、
本当は同じじゃないななんていうのに
気付いちゃうけど、みゆきさんは、
そんなの知りませんって。 |
中島 |
辻褄が合わないことが、えてしてね。
違うところに行っちゃったけど、
まあ、いいやと(笑)。 |
糸井 |
違うところに行っちゃったけど、
いい気持ちだ! とかね、
かっこいいですよ。 |
中島 |
言葉の師匠にそう言っていただけると! |
糸井 |
いえいえ、ぼくはただ単に、
他の人のものを見ては
難癖付ける仕事ですから(笑)。
(つづきます) |