ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞 共同企画 中島みゆきさんとの、遊び時間。 『真夜中の動物園』をめぐる120分。
その4 今あるひとつのほほえみの中に。
糸井 ぼく、いつでも歌は好きなんですけど、
みんなが言葉の意味とか機能とかを、
強く言い過ぎるようになっちゃって。
世の中全体が、単純に言うと
せちがらくなってきて、
「意味はないんだけどいいな」とか、
「言っていることはしょうもないんだけど
 感心したなー」とか、
そういうものが、
ないことにされ始めたんですよ。
それに対して歌っていうのはいつでも、
なんであるんだかわからないけれども、
いいじゃない、っていうところを、
みんなで手を握り合って確かめる、
みたいなところがあって。
そっち側の空気を送りたいなっていう気分が、
自分に対してもあって。
理屈っぽい人とやりとりしていたりすると、
理屈で勝たなきゃならないっていうときが
あったりするんだけど、
そんなことをしていても不毛ですよね。
その答えがわかるまでに、
67年ぐらいかかっていたりね。
中島 あはははは。
糸井 そんなことを一所懸命やっているんだったら、
今あるひとつのほほえみの中に、
ふたりで歩んでいったほうがいい、
みたいなところがあるじゃないですか。
そういうのを、
ちょっと余計に言ってみたいなと思っていて。
「面白いよね、歌は」、
「この遊び方もできるよ」
ってことをやりたいなと。
で、この人たち(「ダ・ヴィンチ」&
「ほぼ日」のめんめん)は、
カラオケで中島みゆきを歌う会とかが
どうもあるらしいんだけど、
なんで俺、呼んでもらえないんだろう(笑)。
中島 糸井さん、カラオケで歌います?
糸井 歌いますよ。
ぼくは「かもめはかもめ」とか
「窓ガラス」ですね。
「窓ガラス」なんか、も、ヤよね(笑)。
中島 「窓ガラス」のギターは
アルフィーですよ。
糸井 ああ! あの、
♪チャララチャッチャッチャチャチャ〜、
軽くて切ない。
中島 スタジオミュージシャンを
やってくれたんです。
糸井 坂本(龍一)くんもやっていますよね。
中島 そうなんです、信じられないような。
糸井 坂本くんが、
「中島みゆきはスタジオで
 本当に泣くんだぜ」って
言ったのを覚えてる。
中島 あれっ、そうでしたっけ?
糸井 「ほんとに泣くよ、あれは。
 ああいうことがありうるんだと思うとさ」
って。
あの人、もともと勉強していた人だから、
そんなことありえないと
思ったらしいんだよね。
中島 ありゃ。
そんなふうにして聴いていらしたのね。
糸井 そういう歌の遊び方みたいなこと、
自分が今まで楽しんできたのを
小分けしてバラまこうと思って、
ラジオも引き受けたというか。
みゆきさんもそうだし、
あとiPod以降なんですけど、
イヤホンで聴いたら、
今まではそんなでもないと思っていた歌が
よく聴こえたりすることがでてきたんですよ。
特に歌謡曲がね。
それでチケット取って
前川清さんのコンサートに
久しぶりに行ったんです。
そしたら静かにしてたのに
見つかっちゃって。
中島 見つかっちゃったの(笑)。
糸井 うん(笑)。
それで終演後に楽屋へ挨拶に行ったら
「嬉しいなあ!」と言ってもらえて。
久しぶりに会った前川さんは、
相変わらずやっぱりいいんですよ。
でも彼は歌が大っ嫌いなんですって。
中島 へっ?!
糸井 「ぼくは大嫌いなんです。
 演歌も大嫌いなんです」とかって。
なのに人は彼の歌を聴いて、
「いい」と言うわけ。
そこにも歌の秘密みたいなのがあって、
テーマとか内容を超えて、
なにかとなにかが通じ合っているんですよね。
そういうようなことをみんなで
味わいっこして遊ぼうと思って、
今は主に、訳のわからない歌のよさを
ばらまきたいなと思っているんです。
それが自分を楽にすることだからね、
ぼくのいい加減さとかを。
だから今日のお話なんかも、
みゆきさんの新しいアルバムが出た話とか、
「おお、歌の話だ」と思うと、
嬉しくなっちゃう。
中島 よかった。つらくなくってよかった(笑)。
糸井 いや、あとでまた言いますけど、
面白いですよね。
── 今言ってください(笑)。
中島 取材が終わってから言いますって(笑)?
── そんな。
中島 で、言うのを忘れて帰っちゃったりして。
糸井 合間、合間にさ、寸鉄のように、
言うかもしれませんよ。
言わないかもしれないし(笑)。
中島 さあ、探せるかな。ははははは。

(つづきます)
2010-10-18-MON
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