ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞 共同企画 中島みゆきさんとの、遊び時間。 『真夜中の動物園』をめぐる120分。
その6 言葉しかない命どもが。
── 歌は、シンガーの声というのが
ものすごく大きな要素ですよね。
糸井 言うならば、声ですらないっていうかね。
声ですらないエネルギーっていうか、
発しているなにかみたいな。
『真夜中の動物園』のなかにも
「♪Dadada‥‥」とか
歌詞のない部分がたくさんあるんですけど、
その、歌詞のない部分ができる時の物語を、
もし訊けるものなら訊いてみたかったんです。
中島 ありましたかね。
糸井 「まるで高速電車のように
 あたしたちは擦れ違う」
のスキャットとか。
── 「真夜中の動物園」のラストと、
あとケチャみたいなのも‥‥
糸井 ケチャみたいなのもありましたねえ!
中島 そんなんありましたかね?
糸井 あるんですよ。確かラストの歌も‥‥
中島 「負けんもんね」?
糸井 「負けんもんね」や「サメの歌」もね、
音にしか過ぎないぐらい
壊しちゃって歌ってる。
── 「夢だもの」でも、
普通は「ゆ・め」って2音なのに
「ん」が入ってるから
2文字を3音で歌ってるというような。
中島 コーラスさんたちが
重ねる時苦労してました。
「サメの歌」でも、
「みんな揃って“サんメ”って
 歌うんでしょうか」と(笑)。
いいですから、サメって言ってください、
みたいなね。
糸井 苦労するでしょうね。
方言を真似ているみたいなもんだもんね。
言葉がないんだけど、
メロディがあって歌があるっていう
状態のところって、
やっぱりぼく、けっこう興味あって。
‥‥言葉が出ないから
そうしたんじゃないんだよね?
中島 はははは!
糸井 いや、ぼくはね、職業作詞家の時期に
「まあいいや、ここは」って、
「出ないから」にギリギリ近いような
ところがあったんですよ。
「ここはもうラララ‥‥でいいや」って。
それで間(ま)を取っといて
2コーラスに行ったほうが楽だわとか
みんなのためになる、みたいな。
中島 いや、でも、それが正解のときって、
けっこうあるでしょう。
やっぱりそこ、文字が入るべきじゃない
ところなんですよ、きっと。
だからなんぼ考えても入らないんですよ。
糸井 文字は入らないんだけど、
時間は欲しいんだよね。
一緒にいたいんですよ。
中島 そういう、時間のほうで、
「喋るな」っていう間(ま)が、
なんかあるんじゃないですかね。
糸井 破裂音みたいな「ダ」みたいなので
言いたいときもあるし、
「ラ」みたいなので言いたいときもあるし。
そこは歌ならではじゃないですか?
詞にはそんなものないもん。
中島 表記はなかなか難しいでしょうね。
この「真夜中の動物園」も、
「Da」と表記していますけれども、
コーラスさん達に歌ってもらうときに、
ダとラの間でお願いしますって言ってるんです。
糸井 指示出してるんだ。
中島 はい。「ダ」ではないんですね。
「ラ」でもないし、その間ぐらい。
どっちとも聴こえるぐらいの。
「ダ」も「ラ」も字に書けちゃうでしょう。
糸井 書けないんだよね。
中島 書けないんだよね。
糸井 彫刻を作っているみたいなものだよね、
かたちに名前の付かない。
中島 そうですね。「これはなに?」って、
「いや、なにって言われても」っていうふうな。
糸井 アブストラクト。
中島 うはははは、そうかぁ。
糸井 そうか、スキャットはアブストラクトなのか!
中島 そうなのね、たとえようがないんだもの。
糸井 でも、明らかにそれが作りたいわけだよ。
中島 ないのとは違うのね。
糸井 そこもいいんだよなあ。
さっき言ったように
言葉がどんどん機能になっちゃって、
「言いたいことがあるんだったら
 言ってごらん」とか
「ちゃんと意見を出し合って
 ぶつけて解決を」とか。
もちろんその考えはあっていい。
だけどこの、確か歌詞の中にもあった、
「言葉持たない命よりも
 言葉しかない命どもが
 そんなに偉いか」っていう話(*)、
そこなんだよ。

*『真夜中の動物園』収録の
 「小さき負傷者たちの為に」

中島 泣いてちゃわかんないから、
泣かないでちゃんと言いなさいって言うけれど、
その鳴き声の調子からわかんないかなあ?
っていうこともあるのね。
糸井 お前だって赤ん坊だったとき、
そうだったろうって。
「うんこ!」とか。
中島 あはははは、言ったつもり(笑)。
糸井 「ふにー」とか。
だからそこを代弁できちゃうんですよ、歌は。
スキャットどころじゃなくて他の場所でも、
それは言葉で言っているフリをしているけど、
言葉以上の、なにか‥‥
中島 赤ん坊返りか。赤ん坊って鳴るよね。
糸井 鳴ってる。
中島 あんなちっちゃい身体でさ、
大人以上のボリュームが。
身体が鳴ってるもんね。
糸井 だから振り向かせるわけだよ。
中島 振り向かせなきゃならないんだもんね。
糸井 必死ですよね、魂の音色ですよね。
その赤ん坊の鳴っているものと、
歌っていうのは、本当は一緒で。
中島 はい、切なる思いを込めて。うーん、そうかあ。

(つづきます)
2010-10-20-WED
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