糸井 |
今でも1枚のアルバムの中に、
少なくとも3種類ぐらいの歌い方があって、
みゆきさん、曲によって、変えていますよね。
そんな歌手っていうのも、
あんがい珍しいと思うんですよ。
力強く歌う「ハァーッ!」
というのがあるじゃないですか、
都はるみ型みたいな。 |
中島 |
ははははは。がなり型? |
糸井 |
すごみ型? それと、朗々と、
歌として聴いてくださーいって、
いい声をちゃんと、
精一杯出しましょうっていう歌い方。
それから「なんとかだもんね〜」っていう、
日常会話みたいな歌い方。
こんなに3つ、
歌い方を変えているアルバムなんて、
世の中には、ないよ。 |
中島 |
いやいやいや。 |
糸井 |
ひとり三役だもん。
自分で決めてなかったら、プロデューサーに
「君さ、さっきと歌い方違わない?」って
言われるところだよ。
ライブでももちろんそうだしね。 |
── |
歌い方で言うと、「ファイト!」って歌が
本当にすごいのは、
登場人物と関係ない人格が
サビを歌っているっていう、
そこがすごいところだと思うんですよね。
誰も継承もしないけれど、
大発明だったような気がするんです。(*)
*「ファイト!」1983年のアルバム『予感』収録。
2007年のコンサート『歌旅』でも歌われた。 |
中島 |
あれが、さっき言った、
出たころはボロクソに言われた曲です。
「この曲は自分がいない」って。 |
糸井 |
あれ、発明ですよ。
魯山人の器に
南京豆を盛るようなことでしょう。 |
中島 |
ははははは! |
糸井 |
ものすごい、益荒男ぶりみたいな、
でっかい器があって、
「ファーイト!」ってやるじゃない。
で、「私なんとかで」っていうところは
南京豆じゃないですか、
少女達じゃないですか。
あれはなんていうか、
このかたの総合性というか。 |
中島 |
ははははは、ないんすよ、
もともと、確たるものが。
まだね、模索中なんですの(笑)。 |
糸井 |
よろしいですね(笑)。 |
中島 |
はいー。試行錯誤の途中なの。 |
糸井 |
ぼくが同じようなことを言われたら、
「苦し紛れです」って言うよ。 |
中島 |
苦し紛れ、いいですね。 |
糸井 |
自分で投げかけた質問に対して、
答えが出せなくなって(笑)、
苦し紛れで、こうしたら、
それはそれでできたんじゃないかみたいな。
確かに「自分がいない」って
言われたときのことを想像しても、
「だって、ほかの人に、この歌作れないもん」
っていうやり方ですよね。
みゆきさんじゃない人が歌うと、
歌の中の人格と歌い手の人格が
同じになってしまうんですよね。
みゆきさんほど歌から外に出られないから。 |
中島 |
だから当時、メチャクチャ言われたんですよ。
特にあれが出たころって、
まだフォークソングから
ニューミュージックにどうたらこうたらって
時期だったから、
本人の生活から歌まで一貫して、
人格を丸出しみたいなふうに
曲が成立する感じがあったでしょう。
けれど「ファイト!」は
自分の言いたいことをなにも言ってないで、
人の言葉を借りて、
ただ歌っているだけじゃないか、
オールナイトニッポンに来たハガキとか、
あれをそのままパクって
書いているだけじゃないのかと。
言っちゃなんだけど、
パクリは一個もありませんよーって(笑)。 |
── |
それをパクリと思わせるのが
作家なんだということですよね。 |
糸井 |
素晴らしいですよ。
前奏がドラムだけみたいな、
あの排除した感じも、胸騒ぎするもんね。
あの気持ちは、なんにも変わっとらんね。 |
中島 |
解決していないですものね。 |
糸井 |
歳を取ってもね。 |
中島 |
解決しないもんですね、いろんなことってね。 |
糸井 |
そういうことなんだよね。
今回のアルバムにも、
箸休めみたいに使ってもいいですよっていう、
可愛い歌も入ってる。
いい加減、ゆるくしましょう、
って言っているけど、
ゆるんじゃいないよね。
テンションはちゃんと守ってますよね。
みゆきさん、これは、
多くの候補曲の中から選んで
アルバムにしたんですか、
それともこの数の歌が
最初からあったんですか? |
中島 |
レコーディングする段階では
絞っていますけど、
その前の段階では、
何年にも渡って散らばっている
ものの中からですわね。 |
糸井 |
やっぱり。
ちょっと、その匂いがしたんですよ。 |
中島 |
一応動物系ということで、
あっちの動物、こっちの動物。 |
糸井 |
動物の着ぐるみですよね、これ。
「鳥獣戯画」だし、
耳を付けたり、毛を付けたりすると、
生々しくならないっていうか。
真っぱだかの話がしたいのに、
真っぱだかのまんまだとちょっときついから、
シロクマを着せてみましたとか(笑)。 |
中島 |
だははははは。でも満月になると
時々ヒゲ生えたりもする(笑)。 |
糸井 |
きっつい気持ちになったときって、
動物の着ぐるみを、
人は着るような気がするな。
だからけっこう意地悪なというか、
鋭いことをしたい時期かなと、
ぼくは思ったんですけどね。
いやみなことというか。
もっと穏やかな時期だったら、
はだかで、毛のない男と女とか出せたんだけど、
毛を付けておかないと角が立つっていうか。 |
中島 |
京都人みたいだわね。 |
糸井 |
歳取ると京都人になるんだよ、人って。
歳取ると意地悪になります? やっぱり。 |
中島 |
そうね、歳取ると、
当たりは柔らかくなるぶん、
底意地が悪くなってくるんでしょうかね。 |
糸井 |
切っ先はとんがりますよ、少なくとも。
でも、これ、刺しても、
誰も痛いって言わはらしまへんねん(笑)。
みゆきさんもこんなに深く刺してるのに、
誰も痛いって言わない。
三年殺しみたいなことをして。 |
中島 |
はははは、刺さってるのに気が付かない。 |
糸井 |
若いときには、もっと太いやつでさ、
「ガーン、イタタタ!」って言わせると、
「ほら」って言うんだけど。
歳取ると、だんだんズルくなって、
誰も痛いって言わないのに、
みんなちょっと落ち込んで帰ったわ、みたいな。 |
中島 |
家に帰って横になったときに、
効きますよ〜、みたいな(笑)。 |
糸井 |
そうそう、立てない! みたいな。
昔、みゆきさんのコンサートで、
ジョークのひとつなんだけど、
ペアのカップルが来ると憎らしいから、
一枚ずつ切符を売りますとか、
そういうようなことを言って笑いを取ったり、
本当にそうだったりしていたじゃない。
今はあんなことをする必要なんか全然なくて。
カップルでも、家族連れも、
みんないらっしゃいって言っていて。
そしてそのカップル同士がちょっとなにか、
いいんだろうかみたいな気持ちになるような
歌を歌っちゃったりして(笑)。 |
中島 |
おー、ふたりで並んでるのに。
いいですねえ(笑)。 |
糸井 |
でも本当は意地悪じゃないんですよね。
意地悪なところは、もともと本当はないんじゃ?
意地悪に終わらせたりしたことって、
今まであまりないでしょう? |
中島 |
うん、昔は多少、
男イジメな詞を書きましたけどね。
だんだん、男の人も色々大変なんだなと思うと、
一応表立っては、バッサリはないですね、最近は。
(つづきます) |