糸井 |
みゆきさんがこうだろうなっていうふうに
ぼくが思っていることが、
割と当たっていることが多いのは、
自分から類推しやすいタイプと、
類推しにくいタイプの人がいて、
みゆきさんは、
類推しやすいタイプなんですよね。
ふざけていないんですよ、意外と。
あんがいふざけていないんですよ。 |
中島 |
意外とね。
人からはそう見えるんだけど。 |
糸井 |
見えるんだけど(笑)。
細かいっていうのとは違うんだけど、
ふざけていないんですよね。
そこで解決していないよって言うと、
部屋の隅のゴミでも、
あとで拾うって言ったものは、
あとで拾うんですよ。 |
中島 |
そうなのね、そうなんだね。
誰か、糸井さんのことを、
そういうふうに言っていた人がいたもん。
「あれね、ヘラヘラしているように
見えるけど、実はねー」って。 |
糸井 |
あとで拾うんだよって。
気にかけているんですよね。ゴミとしてね。 |
中島 |
昔、本当に遠くで、
作品をお見かけした時点で、
ものすっごくこの人って、
ちゃらんぽらんな人なのかも
しれないって思って(笑)。
でも、ある時期から、ものすっごく、
この人って落とし前付ける人なのかもしれない、
って思うようになったんです。 |
糸井 |
ちゃらんぽらんですよ(笑)。
でも、終わっちゃうんだよなあ、
ちゃらんぽらんじゃないと。
いろんな面白いことがあるのに、
コレだって決めると楽になるんですよ。
その楽になり方で、せっかく生まれた人生が、
そこに閉じこもっちゃう。
それが嫌で、ぼくは置きっぱなしにしておいたり。 |
中島 |
落とし前を付けたところで、
そこにうまく居場所を作って、
スイートスポットを見つけると、
ずっとそこにいられるんですよね。
なのに糸井さんって、
まーた、あちゃこちゃ散らかしちゃって、
ほんとに忙しい人だこと(笑)。 |
糸井 |
でも、モノを作るって、だいたいそうでしょ。 |
中島 |
そうね、うん。 |
糸井 |
誰が見ても絶対文句を言わない
一個の完成された詞を
作ってやろうと思っていたら、
一生かかってもできないですよね。 |
中島 |
できないですねえ。 |
糸井 |
だからどこかで、今の俺は
これ以上やっちゃいけないんだろうなって思う、
ジャッジがいるんですよ。
それがものすごく早く、
実はわかっているんですよ。
2年余計に考えても同じなんです。
つまらなくなるだけなんです。
そのときには、
本当に早くわかったことに従って、
次の、飴を買いに行くでも、
プールに遊びに行くでも、
なんでもしているほうが、
自分は育つんですよ。
足りないところに目がいっちゃったら
人間はおしまい(笑)。
つらいもん。
だからコンサートをやっていて、
5000人見ているとするじゃない。
そこに3人ぐらい、鼻ほじったり、
寝ているやつがいたとするじゃない。
もしそいつが目に入って、
そいつが気になったら、
もうコンサートできないですよね、
おおぜいの、喜んでいる人のほうに
歌わなきゃいけないのに、
寝てる人のこととか、
イヤーな目でこっちを見ている人が目に入って、
そいつとも勝ち負けになったら、
歌のサイズを変えなきゃならないんですよ。
それはね、往々にしてやりがちなんですよ。 |
中島 |
そうですね。 |
糸井 |
落とし前を付けろ! とかっていうのを、
人にばっかりガミガミ言う人は、
そういうことばっかり言うんですよ。
自分がいないじゃないかとか言うんです。 |
中島 |
ははははは。 |
糸井 |
でも、説明はできないけど、
できたってわかったときに出しちゃって、
ちゃんと歌も、アレンジもできて、
トラックダウンして、
まだ引っ込めなかったっていうのは、
やっぱりどこかで、
その人が決意して出したものですから。
中島みゆきが決意して出したんだよっていうのは、
ちょこちょこ文句言っている人が
ピーチクパーチクさえずってるサイズと、
そこまでどれだけ考えてきたかっていうサイズと、
話にならないくらい違うんですよ。
代わりに言ってあげていますけど(笑)。 |
中島 |
親のようでございましょう?(笑)。 |
糸井 |
「馬鹿野郎、サイズが違う!」って。 |
中島 |
親と呼びましょう、今度から。 |
糸井 |
ぼくは、2秒で考えたことなんかも、
平気で「お前らの1年と俺の2秒は違う!」
みたいに押しちゃうから、
ちょっとちゃらんぽらんに見えるんですよ、
ちょっとね。
でも、その2秒だって、
俺ひとりで作ったんじゃなくて、
天と俺との共作だから、
天をナメるなよ、という言い訳をしながらね。
‥‥ひたすら長生きしたくなったのは、
そういう理由ですよ。
とにかく散らかしたものが多すぎるから、
全部見たいなぁ、拾っていきたいなぁ、
もっと見たいなぁと。
そうなると早死にはできなくなったなぁ。 |
中島 |
ねぇ。ヘタなとこで死んだら、
化けて出てでも
片付けたくなっちゃいますよね(笑)。 |
糸井 |
みゆきさんも思いますか? |
中島 |
思いますよ、ええ、はい。 |
糸井 |
思いますよね。
悔しいけどね、有限なんだよねー。 |
── |
みゆきさんも、5000人の中に3人、
つまらない顔をしている人がいると、
それは目に入るものなんですか? |
中島 |
なんか気が逸れてる人がいるっていうのは
気配でわかりますよね。
そうすると、昔はなんとか力技で
その人を取り込もうとして、
それこそ、いらんところへ集中しちゃって、
他の人を置き去りにしちゃうような失敗を
よくやったんですけれどもね。 |
糸井 |
自分のサイズを変えているんだよね。 |
中島 |
でも、別にその人の気が逸れていたのは、
これが気に入らなくてじゃなくて、
たまたま、蚊に食われたところが痒かったとか、
全然関係ない別のことだったりするわけですよね。
そうすると、「あ、その人はその人の
事情があるんだろう」ぐらいに、
最近は思うようになりましたねえ。 |
糸井 |
そこまで含めて技術って言うんじゃないですか。
そのことを思えるようになるっていう技術が、
修練によって。 |
中島 |
修練によってね。
自分にとって気に入らない空気を
誰かが発したからといって、
その人を無理やりこっちに向かせようって、
ビンタ張ってこっちに向かせるのは、
それは違うんですね。 |
糸井 |
何回か試しているんですよ、きっと(笑)。
何回か、ビンタを張っているわけですね。 |
中島 |
張っているんですよね。
張る必要のない人にまで、
ビンタ張っちゃったりしてるんですよね。
(つづきます) |