ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞 共同企画 中島みゆきさんとの、遊び時間。 『真夜中の動物園』をめぐる120分。
「中島みゆきさん、おひさしぶり。」から3年。 糸井重里が、ふたたび、みゆきさんと会いました。 新作オリジナルアルバム『真夜中の動物園』を軸に、 「歌をつくるということ」そして 「歌を歌うということ」について、 そして「中島みゆきという仕事」について、 かるーい話題から、ずっしり重いテーマまで、 たっぷり話した2時間です。
その11 中島みゆきという愉快な仕事。
糸井 必ずしも力を入れているばかりなのって
気持ちよくないから、
このアルバムの中でも、
とんとんと抜いているっぽく
見せているのがあるじゃないですか、
「ごまめの歯ぎしり」とか、
「夢だもの」とかさ。
中島 「トイレ行ってもいいですよ」
みたいな時間が? あはは。
糸井 だけど、これを挟んでおいたおかげで、
「ああ、よかった、よかった」って、
笑いながら楽しめるみたいな。
闘っている人が露骨にやっちゃったら
見えなくなりますからね。
中島 やっぱり、おべんとばこを考えたときに、
甘いもんも、ちょこっと入っていて欲しいし。
人によっては、最初から最後までビッチリ、
ステーキが乗っていてほしいっていう人も
いるかもしれないけど(笑)、
いろいろ入ってたほうが
嬉しい場合もあるわけでね。
糸井 ウディ・アレンの小話みたいなので、
ふたりのご婦人がランチを食べていて、
「本当にこんなに安っぽくてまずいランチ、
 信じられないわ」
って、ひとりの女が言うと、もうひとりの女が
「そう! それに、こんなにちょっぴり」って。
中島 あははははは。
糸井 けっこうそれ、よくあるケースだよね。
そういう人も会場にいるし、道歩いてるし、
その中で生きていくっていうときの、
“生き方の技術”なんですよ。
腹が据わってるとか人の大きさじゃないんですよ、
技術なんですよ、たぶん。
中島 ある意味、人を尊敬しないと、
人に敬意を払わないと、
自分が寸詰まりますよね。
糸井 もう、いい歳の人の会話だね。
若い人同士がこんなこと言ったら、
少年隊とかでもまだ無理だね。
中島 次回の対談は、
お寺かどっかの場所を設定しましょうか(笑)。
糸井 こういうことが言えるようになったのって
知らず知らずだよね。
「ありがとう」とかって言葉では使ってたけど、
ほんとうに言えるようになったのって
最近ですよね。
中島 もう30年ぐらいすると、
もっといろんな意味を込めて、
「ありがとう」が言えるだろうなと思うと
楽しみねえ。
素敵ね。
糸井 みゆきさんって、生活の中で
側にいる人を悩ませたりしますか?
わがまま放題はできますか?
中島 自分で知らないうちに、
いっぱい迷惑かけていると思いますよ、
ややこしいと思います、たぶんね。
糸井 意識としては、あんまり
迷惑かけないようにしてる?
中島 大人しくしてるつもりなんですけどね。
けっこうお金もかかるし(笑)。
大変だと思いますよ、周りは。
親も大変だっただろうなぁって。
糸井 でも、こういう人を活かすって、
やっぱりそこまで含まないと。
遠慮がちに、人様に絶対迷惑を
かけないようにしていたら、
こんなことできないでしょ。
中島 ある意味そのへん、私、すっぽ抜けて、
無神経になっているところがあると思います。
自分で気が付いていないだけだから。
糸井 中島みゆきっていう人は、
「中島みゆきシステム」の総体だからさ。
ふざけたことを言っていて
迷惑をかけているみたいなのも含めて、
中島みゆきっていう環境、
富士山みたいなもんでさ。
中島 これではいかんなと、ときどきね、
自分でも気にはするんですよ。
糸井 その反省がないと、
きっと行き詰るでしょうね、
行ったり来たりをしないと。
「富士山なんだけど、友達になりたいんだよ」
とかっていう気持ちがないと。
昔、ぼく、そういうコマーシャルを
作ったことがある。
富士山がアルバイトしに来るんだけど、
「人間だったらよかったんだけどねえ」
って言って断られるの。
中島 あはははは。深いですね、なかなか。
糸井 わがままかけ放題ぐらいにしないと、
「中島みゆきシステム」は機能しないよ、
っていうのもほんと。
でも、それでいいんだって言って、
俺はそこに突っ走るぜっていうと、
なんのためにやっているかも、
なんにもわかんなくなっちゃうというか。
マイケル・ジャクソンが、
やっぱりちょっと悲劇的じゃないですか。
「いいよ、君は好きなようにやりたまえ」
っていう場所にいた人だよね、たぶん。
あれは根っこを失うよね。
慈善をするにしても、
根っこのないことになるよね。
みゆきさんなんかは、
普通の人がやっていることに
普通にうらやましがったり、
ここは自分もちゃんとやらなきゃいけないな、
と思っているところに、
チラッと反省したりする。
それを捨てちゃうと、
この我がままシステムっていうものの
意味がなくなっちゃうんじゃないかな。
中島 うんうん。
糸井 かみさんが若尾文子さんと
一緒の時間が何回かできて、
「なんかいいのよねー」って言うんですよ。
天然なおかしさもあるし、素敵な感じもある。
それはやっぱり普通の奥さんの暮らしを
可愛がられながらやってきたから
いいんだろうなぁ、と。
黒川紀章さんは何でもやってくれたけど、
若尾さん、奥さん役はしてたんだって。
それがよかったんだろうなあと。
ずっとトップクラスで走ってきた女優だから
壊れちゃってもおかしくないじゃないですか。
中島 珍しいぐらいですよ、
そういうところに行ける人って。
糸井 うん、そんなことってできるんだなと思うと、
ちょっと希望だなぁって。
みゆきさんの普段の格好はなんですか、
みたいなのも、けっこう関係ある話です。
さっきの撮影の衣装みたいにさ、
画廊のママみたいにもいられるわけでさ。
中島 あはははははは。
糸井 その、地面と行ったり来たりっていう
感覚がありながら、
砂上の楼閣をどんどん作っていくというのが
なかなか愉快な仕事ですよね。
歌手だけならそれはやらなくて
済むんですよね。きっとね。
中島 もしかするとね。

(つづきます)
2010-10-27-WED
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