糸井 |
必ずしも力を入れているばかりなのって
気持ちよくないから、
このアルバムの中でも、
とんとんと抜いているっぽく
見せているのがあるじゃないですか、
「ごまめの歯ぎしり」とか、
「夢だもの」とかさ。 |
中島 |
「トイレ行ってもいいですよ」
みたいな時間が? あはは。 |
糸井 |
だけど、これを挟んでおいたおかげで、
「ああ、よかった、よかった」って、
笑いながら楽しめるみたいな。
闘っている人が露骨にやっちゃったら
見えなくなりますからね。 |
中島 |
やっぱり、おべんとばこを考えたときに、
甘いもんも、ちょこっと入っていて欲しいし。
人によっては、最初から最後までビッチリ、
ステーキが乗っていてほしいっていう人も
いるかもしれないけど(笑)、
いろいろ入ってたほうが
嬉しい場合もあるわけでね。 |
糸井 |
ウディ・アレンの小話みたいなので、
ふたりのご婦人がランチを食べていて、
「本当にこんなに安っぽくてまずいランチ、
信じられないわ」
って、ひとりの女が言うと、もうひとりの女が
「そう! それに、こんなにちょっぴり」って。 |
中島 |
あははははは。 |
糸井 |
けっこうそれ、よくあるケースだよね。
そういう人も会場にいるし、道歩いてるし、
その中で生きていくっていうときの、
“生き方の技術”なんですよ。
腹が据わってるとか人の大きさじゃないんですよ、
技術なんですよ、たぶん。 |
中島 |
ある意味、人を尊敬しないと、
人に敬意を払わないと、
自分が寸詰まりますよね。 |
糸井 |
もう、いい歳の人の会話だね。
若い人同士がこんなこと言ったら、
少年隊とかでもまだ無理だね。 |
中島 |
次回の対談は、
お寺かどっかの場所を設定しましょうか(笑)。 |
糸井 |
こういうことが言えるようになったのって
知らず知らずだよね。
「ありがとう」とかって言葉では使ってたけど、
ほんとうに言えるようになったのって
最近ですよね。 |
中島 |
もう30年ぐらいすると、
もっといろんな意味を込めて、
「ありがとう」が言えるだろうなと思うと
楽しみねえ。
素敵ね。 |
糸井 |
みゆきさんって、生活の中で
側にいる人を悩ませたりしますか?
わがまま放題はできますか? |
中島 |
自分で知らないうちに、
いっぱい迷惑かけていると思いますよ、
ややこしいと思います、たぶんね。 |
糸井 |
意識としては、あんまり
迷惑かけないようにしてる? |
中島 |
大人しくしてるつもりなんですけどね。
けっこうお金もかかるし(笑)。
大変だと思いますよ、周りは。
親も大変だっただろうなぁって。 |
糸井 |
でも、こういう人を活かすって、
やっぱりそこまで含まないと。
遠慮がちに、人様に絶対迷惑を
かけないようにしていたら、
こんなことできないでしょ。 |
中島 |
ある意味そのへん、私、すっぽ抜けて、
無神経になっているところがあると思います。
自分で気が付いていないだけだから。 |
糸井 |
中島みゆきっていう人は、
「中島みゆきシステム」の総体だからさ。
ふざけたことを言っていて
迷惑をかけているみたいなのも含めて、
中島みゆきっていう環境、
富士山みたいなもんでさ。 |
中島 |
これではいかんなと、ときどきね、
自分でも気にはするんですよ。 |
糸井 |
その反省がないと、
きっと行き詰るでしょうね、
行ったり来たりをしないと。
「富士山なんだけど、友達になりたいんだよ」
とかっていう気持ちがないと。
昔、ぼく、そういうコマーシャルを
作ったことがある。
富士山がアルバイトしに来るんだけど、
「人間だったらよかったんだけどねえ」
って言って断られるの。 |
中島 |
あはははは。深いですね、なかなか。 |
糸井 |
わがままかけ放題ぐらいにしないと、
「中島みゆきシステム」は機能しないよ、
っていうのもほんと。
でも、それでいいんだって言って、
俺はそこに突っ走るぜっていうと、
なんのためにやっているかも、
なんにもわかんなくなっちゃうというか。
マイケル・ジャクソンが、
やっぱりちょっと悲劇的じゃないですか。
「いいよ、君は好きなようにやりたまえ」
っていう場所にいた人だよね、たぶん。
あれは根っこを失うよね。
慈善をするにしても、
根っこのないことになるよね。
みゆきさんなんかは、
普通の人がやっていることに
普通にうらやましがったり、
ここは自分もちゃんとやらなきゃいけないな、
と思っているところに、
チラッと反省したりする。
それを捨てちゃうと、
この我がままシステムっていうものの
意味がなくなっちゃうんじゃないかな。 |
中島 |
うんうん。 |
糸井 |
かみさんが若尾文子さんと
一緒の時間が何回かできて、
「なんかいいのよねー」って言うんですよ。
天然なおかしさもあるし、素敵な感じもある。
それはやっぱり普通の奥さんの暮らしを
可愛がられながらやってきたから
いいんだろうなぁ、と。
黒川紀章さんは何でもやってくれたけど、
若尾さん、奥さん役はしてたんだって。
それがよかったんだろうなあと。
ずっとトップクラスで走ってきた女優だから
壊れちゃってもおかしくないじゃないですか。 |
中島 |
珍しいぐらいですよ、
そういうところに行ける人って。 |
糸井 |
うん、そんなことってできるんだなと思うと、
ちょっと希望だなぁって。
みゆきさんの普段の格好はなんですか、
みたいなのも、けっこう関係ある話です。
さっきの撮影の衣装みたいにさ、
画廊のママみたいにもいられるわけでさ。 |
中島 |
あはははははは。 |
糸井 |
その、地面と行ったり来たりっていう
感覚がありながら、
砂上の楼閣をどんどん作っていくというのが
なかなか愉快な仕事ですよね。
歌手だけならそれはやらなくて
済むんですよね。きっとね。 |
中島 |
もしかするとね。
(つづきます) |