中島 |
歌手の方や役者さんの方にも
いろんなタイプの方が
いらっしゃると思いますけれどもね、
ものを書く立場にあるなら、
温室純粋培養というのはできないんじゃないかな。
無菌室で一生いて一生作品を続けるというのって、
私は、それはかなり難しい。
生活がないと書くということが
できないんじゃないかしら。
その生活っていう部分が、
私ってもしかして生身じゃなくて
人形かもしれないと思ったら、
歌、書けないですよね。 |
糸井 |
人間じゃなくなるってことか。
つまり、生活っていうのを引き算しちゃうと、
人間である要件を満たせなくなっちゃうんだ。 |
中島 |
そうなんですね。
まあ、美しいでしょうけれどもね、
そりゃ、生活したら、
美しいだけじゃ済まないですものね。
でも、人から見ると、
ただ美しいところだけしか見たくない人も
いるかもしれないから。
生活をわざわざ見せる必要も
ないかもしれないけど、
書くっていう作業を考えたら、
生活がないと、
かなり難しいんじゃないかなぁって。 |
糸井 |
飯食ってうんこして、みたいなさ、
ミもフタもない言い方をしちゃえば、
そこのところはどんなに
人形化したって、あるじゃない。
飯食っての前に、
茶碗を持つ左手があったりさ、
お箸を持つ右手があったりさ、
おいしいとか、噛んでいるとか、
どんどん延長していって。
ここまでは誰でもやってるよなっていう
線の引き方は、
やっぱり知的に守っていかないと。 |
中島 |
民衆がお腹を空かせてますって言ったときに、
「じゃあ、お菓子を食べたらいいじゃない」
とおっしゃった、
とあるかたのところへ行っちゃうか、
食べるものがなくて絶食状態でいるところに
食べるおかゆってなんておいしいんだろうって
思うところへ行くかだと、
私、おかゆのおいしさのほうを取りたいな。 |
糸井 |
それはいつまでも繰り返せる楽しさだしね。
人体さえあれば。
さっき、技術だねっていう言い方をしたけど、
お菓子を食べればって言っている人は、
あまりにも下手ですよね。 |
中島 |
美しいところへ行き過ぎちゃったんですね。 |
糸井 |
面白いことや、豊かさの質って、
おかゆの側にある。
そっちのほうがすそ野が広いというか、
毛細血管みたいに根っこを張っているというか、
みゆきさんは、あんまり私生活は
言わないように生きているけど、
恐らく言わないことの背景には、
同じですよっていう気持ちがあるんでしょう。 |
中島 |
そう、変わったことって別にないし。
そんなにドラマチックに、
山あり谷ありっていうわけでもなし。
なんということもなし。
渋谷の街の中をネギ持って歩いてて、
ガッカリしたって思われるケースも
あるかもしれないでしょ、イメージとしては。
でも、私はそれもありだよなって思われたいのね。
別に盗んできたわけじゃなし、
盗んできたなら、
それは人目を忍びますけどね(笑)。 |
糸井 |
ここでさ、たとえがネギっていうところが、
詩人として、ぼくがみゆきさんを好きな部分で。
ネギ以外だと、たとえにならない。
チクワとか出すわけいかないじゃない。 |
中島 |
ははははは!
やっぱり荷物からビョーッて出てないと。 |
糸井 |
コマーシャルでスタイリストが
セッティングするじゃないですか。
そのときに、買い物かごから
絶対出しちゃいけないもののひとつが
ネギなんですよ。
より葉ネギじゃないほうね。
セロリだったらガッカリされないんです。 |
中島 |
あはははは!
セロリはおしゃれなのね。 |
糸井 |
で、ネギについて、みゆきさんは、
「ネギはきつい」って
考えたことがあるんだよ。 |
中島 |
あるんですよ。ネギを持つ人になっては、
私は皆様に嫌われるんだろうか、
みたいなね(笑)。 |
糸井 |
このあたりがね、この作家の、
ぼくのごひいきな部分なんです。
うちの子はね、ネギのことを
いつも考えてるんです(笑)。 |
中島 |
ありがとうございます。
親がそのように申しております。 |
糸井 |
「ネギ、アウトなんだな、渋谷で」って、
疑問を持ったときが詩なんです。
だから作品って、実は、
インプットされる直前の
吸い込む瞬間にあるんですよ。
出る瞬間じゃなくて。
あとで出すだけで。
蕎麦屋でふたりで喋っている
歌詞があるじゃないですか(*)。
そういうのって、思ったら、
もうできる前からできてるわけです。
*「蕎麦屋」1980年発表のアルバム
『生きていてもいいですか』収録。 |
中島 |
あ、それは言える。できる前からできてる。 |
糸井 |
できてますよね。 |
中島 |
それを書き写させて、
筆記させていただいているだけ。 |
糸井 |
だからみんながみゆきさんの歌をわかるのは、
そこに“ある”からですよね。
みゆきさんが搾り出したんじゃなくて、
レンズで光を集めてこっち側に拡大してるってこと。
だから、ああわかるわかるみたいになる。
集める力はみんななかなか持てないから。 |
中島 |
うんうん。 |
糸井 |
うちの子はそうやってるんですよ。 |
中島 |
父もそうやってるんです(笑)。
(つづきます) |