糸井 |
自分の中にきっとある
「できてない部分」を言っちゃったら、
なんか数式みたいになっちゃうけれど、
数式じゃないんだよね、
みゆきさんの歌は、 |
中島 |
なんか違うのねえ。 |
糸井 |
生身の人が四苦八苦して
作っているもの、なんだよね。
だって、愛こそすべてって言ったら、
あらゆる詩が
終わりになっちゃうじゃないですか。
下手したら。 |
中島 |
ははははは。 |
糸井 |
そこにあって欲しいなにかのことを、
愛と名付けているわけでしょう。
そうしたら、「愛こそすべて」って言ったら、
宇宙が充満してしまいますよね。
それじゃ言えてないよと思うから。
若い子達は、それを早く言いたいんですよね。
「感動したー!」って言うしね。
それは、そんなに小さく世界を埋めないでくれよ、
みたいな気持ちがあって、
とんがらしを出してみたり、
ハリネズミを出してみたり、
ごまめを出してみたりしてるんですよね、
うちの子は。 |
中島 |
でも、書ききれてない。
年に何曲かしか出してないのに。
そう考えると、糸井さんはものすごい数でしょう、
文字というかたちに出しているものって。
そうすると、出来上がっていない感も
どんどんいっぱいあって、
すっごい散らかし方ですよ、うちの親は(笑)。
ほんとに、膨大ですよ、この散らかし方は。 |
糸井 |
5月以降、ツイッターを始めちゃったから、
もっとですよ。 |
中島 |
あらまあ。 |
糸井 |
あれはでもね、癇癪玉みたいな、
キュッキュッとしたちっちゃいものを、
とにかく投げておくと
音が聴こえだすのね。
その音の響き方みたいなので、
一回済んだみたいな気持ちになるんですよね。
そんな本質的なところに行かなくていいから、
破裂音だとか、ギャーだとか、
ワーだとか言ってくれたら、
活性化するじゃないですか。
それはそういう場所。
だから、ぼくのやり方と、みゆきさんのやり方は、
やっぱりまたちょっと違う。
ぼくのほうが軽さで、愛撫をするように、こう。 |
中島 |
一見、軽く見えるんです。 |
糸井 |
わからなくても、結局いいですからね。
どうせ無料だしね、だいたいやってることは。 |
中島 |
ははは、タダほど高いものはないんですよ〜(笑)。 |
糸井 |
だね。そうですね。
昔さ、ザビエルとか来たじゃん。 |
中島 |
来たじゃん? へぇ、そうなんだ〜(笑)。 |
糸井 |
ザビエルとか来たじゃん。
通訳とかが、確かインドネシアあたりで
拾った日本人なんですよね。
そいつとザビエルで来て、
よく布教とかできたよね。
ほんとに辻説法とか。 |
中島 |
そこんとこ不思議。 |
糸井 |
で、お土産持って、天球儀とか持って、
なんとか藩に
「アイタイデース」って行ったりして、
そんなことの積み重ねで、
あんなになっちゃうってすごいね。
だから捨てたもんじゃない。
癇癪玉程度のことを
俺らはやっている。
歌もそうなんだけど、
捨てたもんじゃないね。 |
中島 |
はははは、やっぱり言葉以外のものが、
なんかあるんですねえ。 |
糸井 |
だってさ、自分がジャバラして、
どっかの国へ行って、
「オシャカサマハイイマシター」とか、
広められると思う?
歌はいいですよ。
「なんやわからんけど、
わしゃ、もう泣けてきたわ」とかっていう、
そういう人もいるじゃないですか。
でも、ザビエルは俺、
歌ったとは思えないんだよね。
それを考えるとね、俺、
自分のやってることとか甘いと思うね。
ちょっと信心が足りないのかもしれないけど。
でも、どっちにしてもすごいなぁ、ザビエル。 |
中島 |
世界中に散っていっている日本の商社マン、
あの人達もそうでしょう、今ね。 |
糸井 |
そうですよね! |
中島 |
それぞれ、ひとりぽっちでさ、
暑い国に行くんでも背広姿で、
荷物を後ろに背負って行くんでしょう、
「弊社と取引を」って。
言葉、全然通じないところへ。
すごいもんですね、心細かろなぁって。 |
── |
ボリビアに古タイヤを売りに行っていた
商社マンを知っています。 |
中島 |
ボリビア!
どうやって話付けるんだろう。 |
糸井 |
その人にとっては古タイヤっていう現物が、
歌であり、言葉であり、愛であり、
古タイヤという名の、すべてなわけじゃん。
それもなかった場合には、もっと困るわけよね。
古タイヤ、あってよかったねって気持ちが、
俺にはちょっとあるんだよ。 |
中島 |
目に見えるものがなかったらどうするんだと。 |
糸井 |
新しいタイヤでもいいけどさ。
そういう、なんだろう、
名付けようもないものをめぐってやりとりしてさ、
人と人とが。すごいね。
急にザビエルを出したんで、
ちょっと驚かれたかもしれませんけど。 |
中島 |
いえいえ(笑)。 |
糸井 |
なんの話だかわからなくなっちゃいましたね。 |
中島 |
訳わかんなくなってきました。 |
糸井 |
言葉の背景の熱情というか、
思いと思いというか、
うちの娘のお言葉の背景を、
私はわかって欲しいという気持ちが
あったんじゃないでしょうかね。 |
中島 |
やっぱり生身ですからね。 |
糸井 |
生身ですから、洗濯もします、ネギも持ちます。
おならのひとつもしないわけではございません、
するとは言いませんが。 |
中島 |
どんなに世の中、便利になったってね。 |
糸井 |
どんなに便利な世の中でも。
(つづきます) |