ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞 共同企画 中島みゆきさんとの、遊び時間。 『真夜中の動物園』をめぐる120分。
その14 名付けようのないものを愛と呼ぶならば。
糸井 自分の中にきっとある
「できてない部分」を言っちゃったら、
なんか数式みたいになっちゃうけれど、
数式じゃないんだよね、
みゆきさんの歌は、
中島 なんか違うのねえ。
糸井 生身の人が四苦八苦して
作っているもの、なんだよね。
だって、愛こそすべてって言ったら、
あらゆる詩が
終わりになっちゃうじゃないですか。
下手したら。
中島 ははははは。
糸井 そこにあって欲しいなにかのことを、
愛と名付けているわけでしょう。
そうしたら、「愛こそすべて」って言ったら、
宇宙が充満してしまいますよね。
それじゃ言えてないよと思うから。
若い子達は、それを早く言いたいんですよね。
「感動したー!」って言うしね。
それは、そんなに小さく世界を埋めないでくれよ、
みたいな気持ちがあって、
とんがらしを出してみたり、
ハリネズミを出してみたり、
ごまめを出してみたりしてるんですよね、
うちの子は。
中島 でも、書ききれてない。
年に何曲かしか出してないのに。
そう考えると、糸井さんはものすごい数でしょう、
文字というかたちに出しているものって。
そうすると、出来上がっていない感も
どんどんいっぱいあって、
すっごい散らかし方ですよ、うちの親は(笑)。
ほんとに、膨大ですよ、この散らかし方は。
糸井 5月以降、ツイッターを始めちゃったから、
もっとですよ。
中島 あらまあ。
糸井 あれはでもね、癇癪玉みたいな、
キュッキュッとしたちっちゃいものを、
とにかく投げておくと
音が聴こえだすのね。
その音の響き方みたいなので、
一回済んだみたいな気持ちになるんですよね。
そんな本質的なところに行かなくていいから、
破裂音だとか、ギャーだとか、
ワーだとか言ってくれたら、
活性化するじゃないですか。
それはそういう場所。
だから、ぼくのやり方と、みゆきさんのやり方は、
やっぱりまたちょっと違う。
ぼくのほうが軽さで、愛撫をするように、こう。
中島 一見、軽く見えるんです。
糸井 わからなくても、結局いいですからね。
どうせ無料だしね、だいたいやってることは。
中島 ははは、タダほど高いものはないんですよ〜(笑)。
糸井 だね。そうですね。
昔さ、ザビエルとか来たじゃん。
中島 来たじゃん? へぇ、そうなんだ〜(笑)。
糸井 ザビエルとか来たじゃん。
通訳とかが、確かインドネシアあたりで
拾った日本人なんですよね。
そいつとザビエルで来て、
よく布教とかできたよね。
ほんとに辻説法とか。
中島 そこんとこ不思議。
糸井 で、お土産持って、天球儀とか持って、
なんとか藩に
「アイタイデース」って行ったりして、
そんなことの積み重ねで、
あんなになっちゃうってすごいね。
だから捨てたもんじゃない。
癇癪玉程度のことを
俺らはやっている。
歌もそうなんだけど、
捨てたもんじゃないね。
中島 はははは、やっぱり言葉以外のものが、
なんかあるんですねえ。
糸井 だってさ、自分がジャバラして、
どっかの国へ行って、
「オシャカサマハイイマシター」とか、
広められると思う?
歌はいいですよ。
「なんやわからんけど、
 わしゃ、もう泣けてきたわ」とかっていう、
そういう人もいるじゃないですか。
でも、ザビエルは俺、
歌ったとは思えないんだよね。
それを考えるとね、俺、
自分のやってることとか甘いと思うね。
ちょっと信心が足りないのかもしれないけど。
でも、どっちにしてもすごいなぁ、ザビエル。
中島 世界中に散っていっている日本の商社マン、
あの人達もそうでしょう、今ね。
糸井 そうですよね!
中島 それぞれ、ひとりぽっちでさ、
暑い国に行くんでも背広姿で、
荷物を後ろに背負って行くんでしょう、
「弊社と取引を」って。
言葉、全然通じないところへ。
すごいもんですね、心細かろなぁって。
── ボリビアに古タイヤを売りに行っていた
商社マンを知っています。
中島 ボリビア!
どうやって話付けるんだろう。
糸井 その人にとっては古タイヤっていう現物が、
歌であり、言葉であり、愛であり、
古タイヤという名の、すべてなわけじゃん。
それもなかった場合には、もっと困るわけよね。
古タイヤ、あってよかったねって気持ちが、
俺にはちょっとあるんだよ。
中島 目に見えるものがなかったらどうするんだと。
糸井 新しいタイヤでもいいけどさ。
そういう、なんだろう、
名付けようもないものをめぐってやりとりしてさ、
人と人とが。すごいね。
急にザビエルを出したんで、
ちょっと驚かれたかもしれませんけど。
中島 いえいえ(笑)。
糸井 なんの話だかわからなくなっちゃいましたね。
中島 訳わかんなくなってきました。
糸井 言葉の背景の熱情というか、
思いと思いというか、
うちの娘のお言葉の背景を、
私はわかって欲しいという気持ちが
あったんじゃないでしょうかね。
中島 やっぱり生身ですからね。
糸井 生身ですから、洗濯もします、ネギも持ちます。
おならのひとつもしないわけではございません、
するとは言いませんが。
中島 どんなに世の中、便利になったってね。
糸井 どんなに便利な世の中でも。

(つづきます)
2010-11-01-MON
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