MOOMIN LOVE
重松清×『ダ・ヴィンチ』横里隆+「ほぼ日」武井 おじさん3人、ムーミンを語る。

第1回  いきなりだけど、結論から言うよ?

    武井 重松さん、横里さん、
お越しいいただいてありがとうございます。
   
       
    重松 (ムーミンクッションを抱いて)
ほら、俺たちは、3人とも、
ムーミンみたいな体形だから。
そんな3人が揃ったということで、
ムーミン体型座談会だね。
   
    横里 その通りだと思います。
   
       
    武井 じつは平成版ムーミンの
5万円もするDVDスペシャルボックスが
ついに出る! というのを聞きまして、
ムーミン世代として、応援できたらと。
   
5万円のすごさに、
思わず365日で割ってしまいました。
あ、毎日ちょっと工夫すればいい?
そんな感じ?
でもじっくり考えたい、
そんなときにこんな応援企画が!
ありがとうございます。
  重松 ほう!
   
  横里 すごーい。
   
  武井 それをきっかけに
ムーミンの話がしたいなと思い、
ムーミン好きのおふたりを
お招きいたしました。
   
  重松 武井さんがフィンランドやムーミンを
好きだってことは知ってたんだけど、
横里さんも好きだと思わなかったよ。
   
    横里 僕、スナフキンがすごく好きで、
『ダ・ヴィンチ』でスナフキン特集を
やったこともあるんです。
重松さん、覚えてらっしゃらないかな、
この号の『ダ・ヴィンチ』のプラチナ本
(編集部のイチ押し本)が‥‥
   
       
スナフキン Snufkin
自由と孤独とを愛する旅人。
川のほとりにテントを張って暮らしている。
ハーモニカで作曲するのが好き。
人に指図されるのを嫌い、
公園に立てられた禁止事項の立て札を
一つ残らず引き抜いたほど。
(ムーミン公式サイトより)
  重松 あ、『その日のまえに』
(重松さんの著書)だ!
何? じゃあ、俺、
スナフキンと共演したんだ?!
   
  武井 そうです、共演ですよ。
 
  重松 スナフキンはね、もう、
結論だけ言っちゃうとね。
 
作者トーベ・ヤンソンの
すぐ下の弟さんもおっしゃっていました、
自分の中にいるけど
自分の憧れでもあるという感じで!
  武井 もう結論が?!
 
  重松 おじさんの心の中には必ず、
1人のスナフキンがいるんだよ。
 
  ふたり ‥‥!
 
  横里 います。いますね!
 
  武井 憧れですよね‥‥!
 
    重松 スナフキンを飼ってるんだよ、俺たち。
普段はいないんだけども、
時々ね、酔ったときに顔を出すんだ。
しらふの時は、奥の方にいるんだ。
1人で酒を飲んでるときにふっと現れてね、
ギターを弾きながら歌うんだ。
僕ね、弾けるんです、あのギターが。
チャンチャーチャチャーンチャチャチャーン♪
 
これは!
    横里 あっ、初代ムーミンの、
おさびし山の歌ですね!
井上ひさしさんの作詞なんですよね。
   
ムーミントロール Moomintroll
ムーミンシリーズの中心的キャラクター。
やさしい両親の愛情をいっぱい受けて
ムーミン屋敷に暮らす男の子。
好奇心が強く、思い込んだら
周囲のことを考えずつっ走るところもあるが、
やさしくて勇気がある。
スナフキンのように孤独に旅をすることに
憧れている。
(ムーミン公式サイトより)
  重松 時々酔っぱらってるときに1人で、
ギター弾きながらさ、
スナフキンをやり、
ムーミンをやり、ひとり二役で、
悩みを打ち明けたりするんだよ。
 
     
  ふたり おおおーっ!
   
  横里 たしかに自分の中に、
ムーミンとスナフキンがいます。
   
  重松 両方いるよね。
   
  武井 ムーミンにとってスナフキンて
もうほんとに憧れですよね。
   
  重松 永遠の憧れのお兄さん。
   
  横里 いろんなことを教えてくれますし、
自由で、ヒッピーです。
   
    武井 春にならないと帰ってこないんです。
 
ここでちょっと真面目な話、
しちゃっていいですか。
実はスナフキンがムーミン屋敷で
ばっちり冬眠してる話もあるんです。
トーベ・ヤンソンという芸術家は
何かが完成しかけると、
自分でそれを壊していくところが
あったように思うのです。
どこかで自分の先入観とか
辻褄あわせがちらつくと、
それを壊す。
その瞬間に忠実であれ、そんな風に
キャラクターも生きているように思います。
だからこそ皆、
複雑で未熟(未完成)で魅力的で
リアルなんじゃないでしょうか。
どうかしら。
冬眠しないスナフキンもあり、
でもふと冬眠してみるスナフキンもあり!
みたいな。
    重松 そうー!
 
    武井 冬のムーミン谷では、
ムーミンたち、冬眠しちゃうから。
スナフキンは冬眠しないムムリクなんですよ。
だから、旅に出ちゃうんですよね。
 
    重松 どっか行っちゃうんだよね。
 
    横里 ムーミンが、子ども心の自分とか、
何かいたらないところが
いっぱいある自分だとすると、
スナフキンは、
導いてくれる存在‥‥なんだけど、
そのスナフキンも大人にはならずに、
ずーっと放浪してる。
何かこう永遠の
モラトリアムみたいなところがあって。
 
    重松 そう、モラトリアムなんだね。
 
    横里 はい、それが、憧れなんです。
ムーミンパパになると、
冒険を卒業して社会に順応してる。
 
ムーミンパパ Moominpappa
シルクハットをかぶり、パイプをくわえ
ステッキを持っている。
若いころは仲間たちと
さまざまな冒険を体験しており、
ムーミン谷に落ち着いた今でも
時々昔の冒険家の血がさわぎ、
ふらりと家を出ていったりする。
ムーミン谷にいる時は
若かりしころの
冒険の回顧録を執筆している。
(ムーミン公式サイトより)
パパ‥‥。
  武井 ん? ムーミンパパが
冒険を卒業して社会に順応してるか
どうかは疑問です(笑)。
 
  横里 そっか、パパも、
永遠の冒険家だからね。
 
    武井 冒険家‥‥を自称してる(笑)。
 
スニフ Sniff
ムーミンの遊び仲間で、
ムーミン屋敷の常連。
父親はムーミンパパが若いころの冒険仲間。
好奇心おう盛だが
臆病でわがままなところもある。
めずらしいもの、
きれいなものを目ざとく見つけ、
すぐにそれをひとりじめしようと必死になる。
自分より弱いものにやさしい。
(ムーミン公式サイトより)
  重松 そう、ムーミンパパだってさ、
原作では孤児(みなしご)なんだよね。
それで夏の終わりになるとさ、
冒険したくなるんだよ。
旅に出たくなるんだよ。
だからパパの中にだって、
スナフキンはいるんだよね。
で、普段は、スニフだったりするわけ。
 
  武井 スニフ! ちょっとずるいキャラクター。
 
フローレン(スノークのおじょうさん) Floren (Snorkmaiden)
Floren (Snorkmaiden)
ムーミンのガールフレンド。
兄のスノークと住んでいるが、
ムーミン屋敷によく出入りしている。
ふわふわした毛皮におおわれた体、
かわいらしい前髪、
左足には金のアンクレットと、
とてもおしゃれ。
やさしく愛情にあふれた女の子。
(ムーミン公式サイトより)
  重松 でね、うちのかみさんなんかは、
基本、フローレンなんだけども、
時々、ミイ(リトルミイ)が(笑)。
 
  武井 あー!
 
  横里 僕は子どものころ、ミイのことが、
好きじゃなかったんです。
今思うと、ミイってほんとに
かわいいなと思うんですけど。
 
リトルミイ Little My
小さな小さな体に
髪の毛を頭のてっぺんで
たまねぎ型にキリリと結い上げた女の子。
あまりに小さくて裁縫用の小カゴに
すっぽり体がはいるほど。
こわいもの知らずでだれに対しても
思ったことをずばずば言う。
怒るとかみつくこともある。
(ムーミン公式サイトより)
  武井 どこで好きに?
 
  横里 やっぱり自分が
大人になったからじゃないかな。
ミイ的な人のことを
暖かい目で見られるようになった。
 
  重松 なるほどね。
 
子供のころはフローレンになって
遊ぶのがとっても楽しかったけれど、
少し大きくなって
自分の中のミイに気づいて
ミイが好きになる‥‥っていう
フィンランドの女性、
けっこういるんですよ。
  横里 子どものときは女の子って、
好きだけど敵だったじゃないですか。
 
  重松 うん、うん、うん。
 
  横里 男子、女子に分かれて。
そのときはミイがだめだったんですよ。
でもだんだん女の子のことが好きになったり、
大人になっていくにしたがって
受け入れられるようになった。
同時にミイのことも
受け入れられるようになりました。
 
    重松 俺はね、娘2人を育てて、
だんだんミイが分かってきたっていうか。
どんな女の子にも、
ミイはいるなぁ、と思ってさ(笑)。
   
    横里 いた、いました。
   
    重松 きっと何か思い出して嫌になってたんだね。
いじわるな女の子とか。
   
    横里 男子がやってることのバカさ加減を
女の子って分かるんで。
   
    重松 そうそうそうそう。
バカなんじゃなーいとかって言われてね。
ミイは、水を差すというか、
冷水ぶっかけるというかさ。
せっかくムーミンとスニフが
楽しくやってるところに、
みもふたもない正論を言って、
へこませるというね。
 
ムーミンとスニフが一緒のときって
ほんっとうにアホらしくて、
そして誰もが羨みそうなくらいに
楽しそうなんですよね。
怖い場面なのにおかしさ満載だもの。
あ、私はこのシーン
「よくぞ言った!」と思ってました。
で、自分の中のムーミンの部分が
チクリとするんだけど、
すごく気持ちよかったです。
ひどいだなんて
これっぽっちも感じなかった‥‥
これが私(女)の中のミイ?
  武井 あ、ミイがひどいと思ったことはあります。
ムーミンが大事にしてる場所が
アリにやられちゃった時、
そこに灯油をかけて全滅させちゃうんです。
   
  重松 殺しちゃうんだ(笑)。
   
  横里 あった(笑)。あった。
   
  武井 「あんたがじゃまだって言うから、
 あたし、片付けてやったのよ」って。
   
  重松 そうそうそうそう。
   
    久保 やるときは徹底してますよね。
   
    武井 そう、で、
逆にムーミンが反省しちゃう。
   
    横里 そう。
   
    重松 中途半端な優しさとかっていうものをさ、
絶対嫌うんだよね。
本質をつくんだよ。ミイって。
   
    武井 フィンランドでとても
人気があるキャラクターだそうですね、ミイは。
   
    横里 子ども心にこのミイがかわいいって言うとしたら、
相当、成熟してる文化ですね。
うーん。
そうか、僕はきっと「いい子」に、
なろうとしてたんだなー。
   
    武井 あれ、反省してる(笑)。
   
    重松 ミイは、かっこいいよ。
ミイって、男前なんだ、
言ってみれば。
   
    武井 ミイの言うこととスナフキンの言うことって
ちょっと共通してたりするんですよ。
   
    横里 血がつながってるしね。
   
    武井 あ、そうなんですよね。
きょうだい。
 
この部分はパパが言うことなので
真実かどうかはちょっと謎。
でもそうだったら面白いですよね、
ここから勝手に妄想ストーリーを
ふくらませても楽しい。
    横里 父親が違う。
 
    武井 お母さんがいろんなパパの子を産んでる。
なかなか深い背景です。
 
     
    重松 ムーミン谷のそういう怖さってあるね。
考えてみたら「ムーミン谷」とか、
「おさびし山」とかさ、
あの名前に惹かれたよね。
   
    横里 惹かれましたねー。
せつない名前ですよね。
   
    重松 おさびし山なんて、普通付けないよ。    


2011-12-26-MON

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