森川幸人さんの 「カルシノの贈り物」奇妙なガンの話 「ほぼ日」立ち読み版
ゲームをつくり、人工知能の本を書き、 イラストレーターでもあり、 遺伝子や昆虫の性をテーマにした絵本をつくり、 なぜか断食もして‥‥と、 なんだかとっても忙しそうな森川幸人さんが、 iPodやiPadで読める電子書籍をつくりはじめました。 総合テーマは科学。予定しているタイトルは、 DNA、宇宙、ウイルスと免疫、肥満、進化、脳、 量子、時間、ゲノム、などなど! 最先端の話を、森川さんのかわいいイラストで 「動く紙しばい」のように編集した電子の絵本です。
森川幸人さんのプロフィールはこちら。
ゲーム作りにいたる道のりのこと。 本業、そして「在野の研究」のこと。 立ち読み絵本【1】カルシノの贈り物 立ち読み絵本【2】破壊の子供たち
立ち読み絵本【3】五体の人形 立ち読み絵本【4】監視官と死に神 立ち読み絵本【5】三人の警官 立ち読み絵本【6】殺し屋警官
森川幸人さんインタビュー【前編】 ゲーム作りにいたる道のりのこと。
ほぼ日 森川さん、こんにちは。
『テロメアの帽子』
『ヌカカの結婚』の2冊が、
書籍から、iPhone、iPad用の
電子書籍になって、
とても評判がいいとききました。
森川 どうもありがとうございます。
ほぼ日 おどろいたのは、書籍とくらべたときの
違和感のなさというか。
森川 iPhoneとかiPad自体に
物(ブツ)感がありますものね。
パソコンのモニターの前で
見てるのとも違って、
1つのデバイスとして完結してる。
そのモノ感が助けてくれたと思います。
印刷物と同じような感じがあるのも、
マウスでクリックするのとは違って、
「手でめくる」「手に持つ」でしょう。
そういう感覚は、パソコンはもう
太刀打ちできないと思います。
ほぼ日 それでこんどは、
書き下ろしっていうのかな、
新作を、iPhoneとiPad用の
アプリとして、発売されるんですね。
そのうちの数編を
「ほぼ日」で立ち読み版として
掲載させていただくことになりました。
ありがとうございます!
森川 いえいえ、おおぜいの人に
読んでいただけるかもしれない
機会ができて、とてもうれしいです。
ほぼ日 これから週1回の連載が
はじまるんですけど、
その前に森川さんのことと
このアプリの内容について
お聞きしておきたいと思って。
あの、森川さんって、
研究所にいるわけではないんだけれど、
在野の学者、みたいな印象があります。
しかも、絵を描く、文系的なところと、
こうして科学をつきつめていく
理系なところが同時にあるというか。
森川 人ってわりと、
「私は理科系です」とか、
「私は文科系です」とか言うけれど、
僕の場合はまったく
同じぐらいのウェイトなんです。
学生時代もね、高校は理系の進学コースで
大学は物理系に進もうとおもっていたのに、
急ブレーキをかけるように
芸術系に行ったんです。
油絵の学科なんだけれど、
受験で描いたデッサン、
人生4枚目でしたもん。
ほぼ日 えっ‥‥?
森川 練りゴムっていう専用の消しゴムとか
木炭とか、絵の道具まったく知らずに
ふつうの消しゴムとエンピツで受験しました。
かろうじて受かったからよかったけど、
今考えるとゾッとします。
もうちょっと準備しようよって。
ほぼ日 なんでそんなふうに思ったんですか、急に?
理系止めて芸術系に行こうって?
森川 新聞読んでたら、
「これからはスペシャリストの時代だ」
っていう記事があってね(笑)。
いかにも高校生が感化されやすいような内容で
「引かれたレールの上を歩いていっていいのか?」
とかいうようなことが書いてあって。
それでなぜか芸術だ!
と思ったんだけれど、
芸術にどんなジャンルがあるのかも知らないから、
唯一知っていた油絵を受験したんです。
それで入ったのはいいんだけれど、
油絵があんなに
乾かないものだとは知らなくて。
いやぁ、本当にびっくりするくらい乾かないの。
1日かかるの、乾くの。
で、待ってられないから描くと、
色が混ざっちゃう。
もうこの世界は無理だと思って転部しました。
ほぼ日 転部。
森川 1年で鞍替えして、
エディトリアル・デザインに。
そして6年かかって卒業したんです。
ほぼ日 そこで就職なさったんですか。
森川 ぼく、就職は一回もしてないです。
ほぼ日 えっ、えっ。
じゃあ、なにを?
森川 ずっと映画を見てました。
というのはね、エディトリアルを出ると
すぐに雑誌のレイアウトのバイトが
できたんですよ。
先輩が出版社にいっぱいいたんで、
レイアウトの下請けをしたんですよ。
ページいくらで、指示通りに線を引く。
で、絵も描けるから、
スペース勝手に空けて、イラスト描いて、
レイアウトとイラスト、
両方のお金もらって稼いでたの。
バイトとしては、すごくいい。
だから徹夜して稼いで、
好きな時間に映画見てたんです。
ほぼ日 ふつうならそのまま
エディトリアルデザインの道に
すすみそうなものですけれど。
森川 とんでもない、
ぼくは、そんな大したことできないわけ。
グラフィック・デザイナーになれるような
才能もないし、テンションもない。
全然興味がなかったんですね。
ほぼ日 その森川さんがどうして
コンピューターゲームをつくることに
なっていったんですか。
森川 あるときに、今ポケモンの社長の
石原恒和さんに会ったんですね。
そのころアミーガ(Amiga)ってマシンが出て、
石原さんが持っているというので
遊びに行きました。
ぼくはパソコンもそのとき初めて触るんだけど、
それは、アニメーションがすごい得意な、
グラフィックに特化したマシンで、
これはおもしろいと思ったんです。
それで自分も始めてみた。
そしてちょうどその頃、
テレビで深夜番組が始まった。
深夜番組って予算がないから、
タイトル作るだけで2千万ぐらいかかる
CGは使えない。でも、やっぱり使いたい、
そんなふうに作り手が考えていたんですね。
そこにアミーガという安くつくれるCGがあって、
需要が出てきたんですよ。
そして石原さんが、その後、
『ウゴウゴルーガ』をつくることになる
福原伸治さん
プロデューサーと知り合いで、
「手伝わない?」って声をかけてくれたんですね。
それで『さんまのまんま』のタイトルロゴを
つくったのが、最初の仕事です。
ほぼ日 ほ、ほう‥‥。
森川 その後、『IQエンジン』とか、
『アインシュタイン』とか
フルCGをアミーガでつくってました。
アミーガ使えるのが、当時、東京に、
5、6人だったかな、
だからぼくでも仕事になったんです。
そしてその後『ウゴウゴルーガ』に参加します。
当時、新鋭のプロデューサーや
ディレクターたちが、
深夜から早朝の枠を担当していたんですね。
『カノッサの屈辱』とか、
『やっぱり猫が好き』とか、あの当時、
深夜枠って結構おもしろい番組が
いっぱい出てきたんですけど、
その頃ですよ。
画期的なこともバンバンやっていた。
ほぼ日 たのしかったでしょうねー!
森川 ところがね、僕は僕で、
6〜7年やっていたら、
飽きてしまって。
ほぼ日 ありゃ。
森川 そしたらこんどはソニーが
ゲーム機を出すというんです。

(後編につづきます)
2010-10-04-MON
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