ハマケン | なんかすっかり星野源の話になっちゃって。 これ、『モテキ』の座談会ですよね? |
糸井 | いや、けっこう同じ話をしてるんだと思うんです。 |
久保 | はい。 |
糸井 | じゃあマンガの話に戻ると、 やっぱり久保さんは、 こういうマンガがほかにないから 自分で描いたっていうことなんでしょうか。 |
久保 | そうですね。 さっきもその話になりましたけど、 歌を聴いても結局、決まった相手がいて、 会いたいよ、切ないよ、みたいなのばっかりで。 とくに男側からの歌がいちばん腹立つんです。 決まった女がパスタ作ってくれる、みたいな。 |
糸井 | うん。 |
久保 | 一生おまえを幸せにしてやるっていう、 相手ありきの歌を聴くと、 蚊帳のそとに追い出された感じがして。 |
ハマケン | なるほどねぇ。 |
久保 | それを喜々として カラオケで歌ってる男を見るとまた腹が立って。 この感情をどうにか再利用して マンガが描けないものかと。 |
ハマケン | ははははは。 |
久保 | だからこのマンガは、 愛にちょっと足りないどころか、 「愛がないんだよ」なのかもしれない。 |
ハマケン | 愛がゼロ‥‥。 |
久保 | 「幸世くんは誰からも愛されてないですよね?」 って取材で訊かれて、 「わたしが愛されてないからね、 そのことをマンガにしたんですよ」 というのを取材のたびに言うのが、 恥ずかしくてしょうがないんですよ。 |
糸井 | ああー。 |
久保 | 「わたしモテませんから」って言われたら、 やっぱりみんな引くじゃないですか。 自分をさらしているのに、 かたっぱしから相手の心を閉めてしまうみたいな。 この不自由さをどうにか マンガのエンターテイメントに変えられないかと。 |
糸井 | 成功しましたよね。 どうしてこんなにうまくいったんでしょう。 |
久保 | それはやっぱり、 わたしが長く少年誌でもやってきたからかも。 |
森山 | あ、なるほど。 |
糸井 | 少年誌をやってるときには、 そんなこと描けないですもんね。 |
久保 | 描けないです。 少年に夢を与えなきゃいけないので、 こうしたらおもしろくなるとか、 画面的にこう盛り込むとおもしろいとか、 そういう技術が身についたから 『モテキ』ができたんだと思います。 もしデビュー作でこれを描いたら、 すごくつまらなかったと思うんですよ。 閉じすぎたマンガになってたと思う。 |
糸井 | そういう危険がある内容ですよね。 |
久保 | 作家活動を10年以上続けてきたんで、 そろそろわたしも ぜったいに描きたくないと思っていた 恋愛マンガを描いてみようかと。 これが変化球なのか、直球なのか‥‥。 わたしにとっては直球なんですけど。 |
森山 | 曲がってないですよ。 |
糸井 | 直球ですよね。 |
ハマケン | うん。 きったねぇ‥‥きったねぇマンガだなと。 |
一同 | (笑) |
糸井 | いや、その通りだと思う。 きたないくらいに、すごい直球。 |
森山 | そうそう。 |
糸井 | 直球って変化球ですからね。 |
久保 | はっ! |
ハマケン | そうか。 |
糸井 | 急に野球の話になっちゃいますけど。 ボールは自然落下するんですよ。 だから、まっすぐに見えるものっていうのは、 あれは浮くって力がないと真っ直ぐには見えない。 |
久保 | なるほど。 |
糸井 | ストレートっていうのは変化球なんです。 これはだから自然落下。 |
ハマケン | すごいなぁ。 歌で、こういうのはできないですよ、きっと。 |
森山 | どんな歌でもマンガでも、 好き、嫌いっていうのは あるていどはっきりしてますよね。 でもこのマンガは、 人に対して好き嫌いがないんですよ。 |
糸井 | そうだね。 |
森山 | 愛と言うには足りないっていうのは、 そういうことなのかなぁと。 |
久保 | うん。 |
森山 | 「嫌い」は、ぜんぜん愛のかたちだし。 好きも嫌いもないっていう状況が、 いちばんつらいと思うんです。 このマンガには 好き嫌いの感情が見あたらないんですよ。 |
糸井 | ああー、そうだ。 |
森山 | だからきついんです(笑)。 |
糸井 | 森山さん、それは演じててわかったんですか、 それともマンガを読んでわかったんですか。 |
森山 | いや、いまそう思ったんです。 「愛に足りないもの」っていうテーマで、 「そもそも愛ってなんだっけ?」 って考えてるうちに、結局そういうことかぁと。 |
糸井 | うん。 愛って判子ですよね。 |
森山 | 判子? |
糸井 | 「いまから次の局面に行くにあたって、 あなたはどうするの?」って言われたときの、 「愛してます!」(判子を押す仕草)。 |
一同 | (笑) |
ハマケン | 「好きです!」(判子を押す仕草)みたいな。 |
森山 | あはははは。 |
久保 | その判子を出さずに、 「愛してる」っていう言葉以外で、 どう人間がつながるかを描きたかったんですよ。 |
糸井 | なるほどね。 愛という言葉をなくしても、 人間は生きていくじゃないですか。 ──落語の中に有名なセリフがあるんです。 夫婦喧嘩をしたおかみさんが、 亭主の悪口を言ってるんですよ。 で、悪口を聞かされてる人が、 「だったらおまえさんはどうして その男と一緒になったんだい」って訊くんです。 すると、おかみさんの答えが、 「だって寒かったんだもん」 |
久保 | (笑) |
糸井 | これは名セリフで。 |
ハマケン | うーーん。 |
久保 | そっかぁー。 「だって寒かったんだもん」‥‥。 |
糸井 | ‥‥いま、なんかちょっとだけ、 久保さんのお城に 入れてもらっていてるような気がする。 |
一同 | (笑) |
森山 | ほんとだ、すこしずつ(笑)。 |
ハマケン | あははは。 |
久保 | ‥‥‥‥バンッ(扉を閉める仕草)。 |
一同 | ああーーー(笑)。 |
(つづきます!) |
(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社 |