糸井 | まあ、久保さん、 お城の扉の隙間からでもけっこうなので、 引き続きよろしくお願いします(笑)。 どうでしょう、作家さんから逆に質問とか。 |
久保 | ‥‥じゃあ、 『モテキ』を途中まで読んだときに、 どんな終わり方になると思いました? |
糸井 | あー、その想像が難しかったんです。 ハマケンはどう思った? |
ハマケン | うーん、主人公の幸世が、 どんどん幸せになるとは思いませんでした。 |
久保 | ですよね。 |
ハマケン | おまえなんか全員からフラれちまえ って思ったんですけど。 |
一同 | (笑) |
ハマケン | 甘えて、フラれて、だれもいなくなれ! って思いました。 |
久保 | あはははは。 |
ハマケン | これで幸世が誰かと幸せになったら、 ちょっとウソっぽい感じというか。 |
糸井 | 森山さんはどうですか、最後の想像は。 |
森山 | そうですね、 うまくいくはずはないと思ってました。 |
糸井 | おおー、そうですか。 |
久保 | うん。 |
糸井 | そっかぁ。 いやね、ぼくだけは、そこがちがうんですよ。 おさめちゃっていいやと思った。 平凡な幸せみたいなところに、 いっちゃえばいいと思ってた。 |
ハマケン | へえー、そうですか。 |
糸井 | いろいろありますけどこれにしときますか! って感じで、最後は白い家かなんかに住んでて。 |
久保 | あはははは。 |
糸井 | 幸せになりやがれ! |
久保 | なりやがれ(笑)。 なるほど。 |
糸井 | おれはもう、そっちでいいから、 一発ほんとによかったぁって 思わせてくれみたいな。 |
久保 | すみません、思わせませんでした(笑)。 |
糸井 | うん。 だからもしも4巻で終わらなかったら、 おれみたいな読者は寸止めの状態で 6巻、7巻、8巻って ずーっと読み続けるんだと思った。 |
久保 | いつか白い家がたつまで(笑)。 |
糸井 | そういう平凡な結末でいいやって思ったのは、 いわば、お見合いなんですよ。 |
久保 | お見合い。 |
糸井 | お見合いでいっしょに暮らす異性に出会うって、 それはそれであるじゃないですか。 |
久保 | はい、ありますね。 |
糸井 | それに近いような終わり方もあるのかなぁ っていうふうに思ったんです、おれは。 きっと大人だからね、 「そういうもんだよ」 という言い方が自分にあったりするんですよ。 |
久保 | わかります。 |
糸井 | おやじの見方なんだ、きっと。 |
久保 | (笑) |
糸井 | 極端に言うと、 「誰といっしょになろうが、そこからだよ」 みたいなところもあるじゃないですか。 |
久保 | はい。 |
糸井 | で、これは見つけるまでの物語。 |
久保 | そうですね。 わたしが描ける、 全力の疾走の物語はここまでだったんです。 |
糸井 | それをエンターテイメントにできたっていうのが、 やっぱりすごいんですよ。 |
森山 | ほんと、全体的に、 前振りのないお見合いをしてるような、 そういう作品ですよね。 |
久保 | 前振りのない(笑)。 |
森山 | ぼくはいままで、 「森山さんの好みのタイプは?」って訊かれて、 ちゃんと答えられたためしがないんです。 でも、この幸世は、 どんな女性が好きかはわからないにせよ、 こんなにざっくばらんな女性たちと関わることを 前向きに望んでいますよね。 それってある意味、素直な感情だなあと思って。 |
糸井 | ざっくばらんな女性たち(笑)。 |
森山 | 幸世はすごく素直で正直だと思います。 結局、好みのタイプなんて関係ないんですよね。 |
ハマケン | そうそう、そうだ。 |
森山 | もう、スパーンと障子を開けたら 相手が鎮座してた、みたいな。 |
久保 | はははは。 |
森山 | だから、前振りのない、 お見合い写真を見てないお見合いですよ。 飛び込んだら女性がいる、っていう。 それでも幸世は相手と関わることを 求めてますよね。 |
糸井 | うん。 |
久保 | とくに最後は、自分からいってほしかったんです。 最終回を描いていて、けっこう悩んだんですよ。 ここまで舟を漕いできたけど、 自分はどこに向かってるんだろう? だいたいの方向はこっちだけど、 ほんとにたどり着くのはどこなんだろう? 誰かに何かを言われないと 幸世は次へ行けないのか? いや、わたしが幸世にがんばってもらいたいのは、 そういうことじゃない。 誰かに大事なセリフなんかを言われなくても、 自分はこういくんだ、 っていうものを見つけてもらいたくて。 |
ハマケン | うん、うん。 |
久保 | 誰に何を言われても、 誰にも何にも言われなくても、 幸世の人生は 変わらないものであってもらいたいっていう。 助言してくれる人もたくさんいるし、 やさしくしてくれる人もいるけど、 そうじゃないところで、 幸世が動いていくことが大事だなぁって。 |
糸井 | あの、それは、 久保さんの人生決意表明みたいなものですか。 |
久保 | え。 |
糸井 | 主人公の話じゃなくて、 ご自分の話をしてるように聞こえたんで。 |
久保 | ‥‥描きながら、 自分のカウンセリングでもありました(笑)。 |
一同 | (笑) |
久保 | バンッ(扉を閉める仕草)。 |
一同 | ああーーー(笑)。 |
糸井 | いや、それは新しいっていうか、 描きにくいところにちゃんとつっこめましたねぇ。 (つづきます!) |
(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社 |