愛と言うには  ちょっと足りない。  『モテキ』をめぐる、とても自由な座談会。

第10回 モテキってこんなにつらいんだ‥‥。

糸井 「愛と言うにはちょっと足りないもの」
って言った場合の、
その「愛」という文字は
いわゆる大げさな万全の愛を言ってるんだけど、
そんなものはウソですよね。
でも一方で、
夢としてはやっぱりあると思うんですよ。
ファンタジーとして。
──お年寄り同士の旅行とか、
あるじゃないですか。
久保 はい。
糸井 旅行先とかで、
ほんとにいい感じで仲のいいふたりを
見かけたりしますよね。
久保 ああー。
糸井 あれを見て、
ウソだとは言いたくないんですよ。
久保 たしかに。
森山 だから、きっと愛っていうのは
ファンタジーを感じるかどうかなんですよね。
糸井 あ、そうです。
その通りだと思います。
森山 ハマケンは
林田尚子にファンタジーを感じてるから
そこにグッとくるわけでしょ。
ハマケン あー、そうか。
久保 うん、あのシーンはやっぱり、
ファンタジーなのかもしれない。
ハマケン だってなんか、ジャージの‥‥。
森山 ジャージ?
ハマケン ジャージの質まで、
なんか触り心地まで
感じそうな気がしちゃって。
糸井 それは、ファンタジーだねぇ(笑)。
久保 ジャージがファンタジー(笑)。
糸井 ああいうところは、
久保さん、うまいですよね。
ハマケン そうそう、うまいし、
女の子は全員かわいいし。
糸井 かわいいです。
久保 そこいらへんについては、そうですね、
「おまえらの好みは
 手に取るようにぜんぶお見通しだよ」
ってことを、ここで言わせていただきます。
ハマケン はははは。
久保 「こういうところが、
 おまえら感じるんだろ?
 わかるよ、それはわたしもだよ」っていう。
ハマケン すごいっすね(笑)。
糸井 それをさ、
男にも「おまえら」って言ってるし、
女にも「おまえら」って言ってるでしょ。
久保 そうですね。
糸井 その、女への「おまえら」を、
こんなによくマンガで教えてくれたっていうのは、
ありがたかったねぇ。
ハマケン そうっすねぇ。
男も女もない感じですもんね。
森山 ということは、女性の読者が
幸世の目線で読んだりすることも、多い。
久保 多いですね。
糸井 あ、そうか、
なるほど、そうでしょうね。
久保 幸世に強く感情移入する人もいれば、
最初から最後まで
誰にも感情移入できなかったって人も
それはそれでやっぱりいました。
糸井 そうですか、物語として。
久保 それはまあ、
いろんなかたがいらっしゃるので。
糸井 うーん。
物語としては、あれですよね、
『モテキ』に邪魔者は登場しませんよね。
久保 あ、そうですね。
糸井 本人たちが「いまからゴー!」ってなったら、
邪魔するものは何もないんですよね。
久保 そう。
だから言い訳がきかないんですよ。
誰かの邪魔が入ったとか、
そういう言い訳がきかない。
森山 それ、きついですよね(笑)。
糸井 そうだね(笑)。
久保 あと、わたし「誤解」が好きじゃないんですよ。
誤解で話をひっぱるのが苦手で。
ハマケン ありますよね、
誤解をとくまでの物語って。
糸井 苦手なのは読者としてですか?
作家としても?
久保 どちらも苦手です。
だから『モテキ』は比較的明解に、
サクサクと話を進めていったつもりなんです。
糸井 なるほど。
──しかしまぁ、
こんなにややこしいものを
エンターテイメントとして
多くの人々が読んでくれてるって、
すごい時代になったもんだね。
久保 そうですねぇ、
こんなにたくさん読んでもらえて。
ほんとに自分と作品を切り離さないと、
『モテキ』の評価イコール
わたしがモテてるって
勘違いしてしまいそうです(笑)。
ハマケン はははは。
久保 あと、キャラクターについても
切り離して考えるようにしています。
なにしろすごく、
主人公に自分を投影して描いたんで、
幸世に対するバッシングを
自分へのバッシングだと思ってしまうと
やっぱりきついわけですよ。
「幸世はダメだよね」とか言われるたびに
あー、わたしは‥‥って落ち込んでしまう。
だから、いまはだいぶ客観的に、
他人事な感じで受け止めるようにしています。
糸井 もう慣れたんですね。
久保 そうですね、やっと慣れました。
森山 だってぼくも、
主役を演じるにあたって思いますよ。
モテキってこんなにつらいんだ‥‥って。
一同 ああー(笑)。

(つづきます!)

2010-07-28-WED


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(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社