糸井 | 「愛と言うにはちょっと足りないもの」 って言った場合の、 その「愛」という文字は いわゆる大げさな万全の愛を言ってるんだけど、 そんなものはウソですよね。 でも一方で、 夢としてはやっぱりあると思うんですよ。 ファンタジーとして。 ──お年寄り同士の旅行とか、 あるじゃないですか。 |
久保 | はい。 |
糸井 | 旅行先とかで、 ほんとにいい感じで仲のいいふたりを 見かけたりしますよね。 |
久保 | ああー。 |
糸井 | あれを見て、 ウソだとは言いたくないんですよ。 |
久保 | たしかに。 |
森山 | だから、きっと愛っていうのは ファンタジーを感じるかどうかなんですよね。 |
糸井 | あ、そうです。 その通りだと思います。 |
森山 | ハマケンは 林田尚子にファンタジーを感じてるから そこにグッとくるわけでしょ。 |
ハマケン | あー、そうか。 |
久保 | うん、あのシーンはやっぱり、 ファンタジーなのかもしれない。 |
ハマケン | だってなんか、ジャージの‥‥。 |
森山 | ジャージ? |
ハマケン | ジャージの質まで、 なんか触り心地まで 感じそうな気がしちゃって。 |
糸井 | それは、ファンタジーだねぇ(笑)。 |
久保 | ジャージがファンタジー(笑)。 |
糸井 | ああいうところは、 久保さん、うまいですよね。 |
ハマケン | そうそう、うまいし、 女の子は全員かわいいし。 |
糸井 | かわいいです。 |
久保 | そこいらへんについては、そうですね、 「おまえらの好みは 手に取るようにぜんぶお見通しだよ」 ってことを、ここで言わせていただきます。 |
ハマケン | はははは。 |
久保 | 「こういうところが、 おまえら感じるんだろ? わかるよ、それはわたしもだよ」っていう。 |
ハマケン | すごいっすね(笑)。 |
糸井 | それをさ、 男にも「おまえら」って言ってるし、 女にも「おまえら」って言ってるでしょ。 |
久保 | そうですね。 |
糸井 | その、女への「おまえら」を、 こんなによくマンガで教えてくれたっていうのは、 ありがたかったねぇ。 |
ハマケン | そうっすねぇ。 男も女もない感じですもんね。 |
森山 | ということは、女性の読者が 幸世の目線で読んだりすることも、多い。 |
久保 | 多いですね。 |
糸井 | あ、そうか、 なるほど、そうでしょうね。 |
久保 | 幸世に強く感情移入する人もいれば、 最初から最後まで 誰にも感情移入できなかったって人も それはそれでやっぱりいました。 |
糸井 | そうですか、物語として。 |
久保 | それはまあ、 いろんなかたがいらっしゃるので。 |
糸井 | うーん。 物語としては、あれですよね、 『モテキ』に邪魔者は登場しませんよね。 |
久保 | あ、そうですね。 |
糸井 | 本人たちが「いまからゴー!」ってなったら、 邪魔するものは何もないんですよね。 |
久保 | そう。 だから言い訳がきかないんですよ。 誰かの邪魔が入ったとか、 そういう言い訳がきかない。 |
森山 | それ、きついですよね(笑)。 |
糸井 | そうだね(笑)。 |
久保 | あと、わたし「誤解」が好きじゃないんですよ。 誤解で話をひっぱるのが苦手で。 |
ハマケン | ありますよね、 誤解をとくまでの物語って。 |
糸井 | 苦手なのは読者としてですか? 作家としても? |
久保 | どちらも苦手です。 だから『モテキ』は比較的明解に、 サクサクと話を進めていったつもりなんです。 |
糸井 | なるほど。 ──しかしまぁ、 こんなにややこしいものを エンターテイメントとして 多くの人々が読んでくれてるって、 すごい時代になったもんだね。 |
久保 | そうですねぇ、 こんなにたくさん読んでもらえて。 ほんとに自分と作品を切り離さないと、 『モテキ』の評価イコール わたしがモテてるって 勘違いしてしまいそうです(笑)。 |
ハマケン | はははは。 |
久保 | あと、キャラクターについても 切り離して考えるようにしています。 なにしろすごく、 主人公に自分を投影して描いたんで、 幸世に対するバッシングを 自分へのバッシングだと思ってしまうと やっぱりきついわけですよ。 「幸世はダメだよね」とか言われるたびに あー、わたしは‥‥って落ち込んでしまう。 だから、いまはだいぶ客観的に、 他人事な感じで受け止めるようにしています。 |
糸井 | もう慣れたんですね。 |
久保 | そうですね、やっと慣れました。 |
森山 | だってぼくも、 主役を演じるにあたって思いますよ。 モテキってこんなにつらいんだ‥‥って。 |
一同 | ああー(笑)。 (つづきます!) |
(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社 |