愛と言うには  ちょっと足りない。  『モテキ』をめぐる、とても自由な座談会。

第11回 精子の数って2億匹なんで。

糸井 おおげさな言い方かもしれないけど、
昔だったらきっとこれは、
マンガ家じゃなくて
文学者がやってたような仕事なんですよね。
ハマケン ああー、そうですね。
久保 いやいや、そこまで高尚なものでは(笑)。
糸井 あとね、
もしもこのマンガが男の作者だったら、
やっぱりここまで自信を持って
描けなかったと思うんですよ。
森山 そうかもしれないですね。
久保 でも、わたしは男の人の気持ちを
正しく描いてるつもりはないんですよ。
というか、自分が女だから想像でしか描けない。
糸井 なるほど。
ということは、
そこはちょっと、はずれてる可能性があるよね。
いや、はずれてるのがだめなんじゃなくて、
このマンガで描かれている男が
「男そのもの」かどうかというのは、
また別の問題ということで。
森山 そう、リアリティでいけば、
男はこんなに本能的に動けないですよ。
久保 はははは。
糸井 そうだね、そうです。
森山 男が本能的にバーって動くのは、
この作品の魅力で、
すごく正しいと思うし好きなんだけど、
往々にして男は
そんなふうには動けない気がする。
糸井 たしかにこの主人公は
すごくストレートですね。
森山 はい。
糸井 行くし、逃げるし(笑)。
久保 うん。
糸井 なるほどぉ。
‥‥久保さんという女性の作家が
男性を描いたマンガで成功したわけですけど、
歌に関しては、その逆というか。
ハマケン 歌ですか。
糸井 最近、歌の歌詞について
考えることがあったんですよ。
で、男の歌はつくりにくいなぁ、
時代的につくれないなぁと、思ったんです。
ところが女歌の形にすると、いいんですよ。
久保 ああー。
糸井 たとえば男の願望を書いてもだめだけど、
その願望を裏切る女歌にすると、
急におもしろくなるんです。
久保 そうでしょうね。
糸井 いまの時代は、それしかないんじゃないかと。
ハマケン 女歌しか。
糸井 うん。
久保 女の人側の歌って、
要求が強い歌が多くなってますよね。
糸井 ええ、そうですね。
久保 椎名林檎とか、aikoを聴いてても、
ここでキスしてとか。
糸井 イニシアチブが自分なんですよ。
久保 そうそうそう。
わたしがカラオケでよく歌うのが
そういう歌なんです(笑)。
「あなたが選ぶのは
 ぜんぶ女の要求が強い歌ばっかだよね」
って友だちから言われたりしてます。
糸井 精子の数って2億匹なんで。
一同 (笑)
糸井 卵子はひとつですから。
立候補者は2億人、ジャッジするのはひとり。
その関係っていうのは永遠だと思うんですよ。
久保 ああー。
いや、でもね糸井さん、
男のほうが結婚したり彼女いる人が多いって、
わたしの実感としてはありますよ。
結婚できないのは女性のほうが多いし。
糸井 そうですか、実感として。
まあ、社会として考えると、
男のほうが生きるのに恵まれてますよね。
森山 ぼくは、男性が女性にかなうわけないって
ずっと思ってるんですよ。
かなわないから、男は体を鍛えたり、
ウソついたり、見栄はったりして、
バランス保とうとするじゃないですか。
だけど、女性がどんどん力をもってきたら、
ほんとにやることがない男が増えちゃって、
そのあふれた人が、
いわゆる「草食系」ってことになったのかなって。
糸井 草食系の形をとってたほうが
選ばれるチャンスが大きい時代なんですよね。
「ぼくやさしいよ」
っていうキャンペーンが効くんです。
だから音楽でも‥‥
まあサケロックはどうかわかんないけど、
か細いような声の歌がモテるじゃないですか。
久保 はいはい。
糸井 「ぼくは、帰り道に考えたんだ」(か細い声で)
みたいな。
久保 ははははは。
糸井 それって、ほんとは、
「アンドちんこ」じゃないですか。
一同 (笑)
久保 帰り道に考えたんだ、アンド、ちんこ(笑)。
糸井 裏声っぽいような、
あまり抑揚のないような、
「いくぜ!」じゃない歌を歌ってる人たちは
そっちのほうがモテるから
そっちにいってるわけですよ。
ハマケン そうかもしれないですね。
糸井 別にね、ぼくはそういうミュージシャンが
悪いとは言ってないんですよ。
ハマケン はははは。
糸井 おれらの時代だと、
「少年ぽい」って言葉があったんだよ。
で、おれが言いたいのは、
「その少年は毛はえてるぞ!」
ってことなんです。
久保 あははは。
ボーボーですよね。
糸井 もうボーボーですよ。
その、半ズボン性みたいなもので見えにくいけど。
ハマケン 半ズボン性! わかります。
糸井 そこをさぁ、わかれよ、女性たち!
っていうことは、前から思ってたんですよ。
ハマケン すごい力説(笑)。
糸井 このマンガに描かれてるようなことが、
ほんとなんだからさ。
ハマケン あ、そうっすね。
それはほんと、そうだと思います。

(つづきます!)

2010-07-29-THU


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(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社