糸井 | おおげさな言い方かもしれないけど、 昔だったらきっとこれは、 マンガ家じゃなくて 文学者がやってたような仕事なんですよね。 |
ハマケン | ああー、そうですね。 |
久保 | いやいや、そこまで高尚なものでは(笑)。 |
糸井 | あとね、 もしもこのマンガが男の作者だったら、 やっぱりここまで自信を持って 描けなかったと思うんですよ。 |
森山 | そうかもしれないですね。 |
久保 | でも、わたしは男の人の気持ちを 正しく描いてるつもりはないんですよ。 というか、自分が女だから想像でしか描けない。 |
糸井 | なるほど。 ということは、 そこはちょっと、はずれてる可能性があるよね。 いや、はずれてるのがだめなんじゃなくて、 このマンガで描かれている男が 「男そのもの」かどうかというのは、 また別の問題ということで。 |
森山 | そう、リアリティでいけば、 男はこんなに本能的に動けないですよ。 |
久保 | はははは。 |
糸井 | そうだね、そうです。 |
森山 | 男が本能的にバーって動くのは、 この作品の魅力で、 すごく正しいと思うし好きなんだけど、 往々にして男は そんなふうには動けない気がする。 |
糸井 | たしかにこの主人公は すごくストレートですね。 |
森山 | はい。 |
糸井 | 行くし、逃げるし(笑)。 |
久保 | うん。 |
糸井 | なるほどぉ。 ‥‥久保さんという女性の作家が 男性を描いたマンガで成功したわけですけど、 歌に関しては、その逆というか。 |
ハマケン | 歌ですか。 |
糸井 | 最近、歌の歌詞について 考えることがあったんですよ。 で、男の歌はつくりにくいなぁ、 時代的につくれないなぁと、思ったんです。 ところが女歌の形にすると、いいんですよ。 |
久保 | ああー。 |
糸井 | たとえば男の願望を書いてもだめだけど、 その願望を裏切る女歌にすると、 急におもしろくなるんです。 |
久保 | そうでしょうね。 |
糸井 | いまの時代は、それしかないんじゃないかと。 |
ハマケン | 女歌しか。 |
糸井 | うん。 |
久保 | 女の人側の歌って、 要求が強い歌が多くなってますよね。 |
糸井 | ええ、そうですね。 |
久保 | 椎名林檎とか、aikoを聴いてても、 ここでキスしてとか。 |
糸井 | イニシアチブが自分なんですよ。 |
久保 | そうそうそう。 わたしがカラオケでよく歌うのが そういう歌なんです(笑)。 「あなたが選ぶのは ぜんぶ女の要求が強い歌ばっかだよね」 って友だちから言われたりしてます。 |
糸井 | 精子の数って2億匹なんで。 |
一同 | (笑) |
糸井 | 卵子はひとつですから。 立候補者は2億人、ジャッジするのはひとり。 その関係っていうのは永遠だと思うんですよ。 |
久保 | ああー。 いや、でもね糸井さん、 男のほうが結婚したり彼女いる人が多いって、 わたしの実感としてはありますよ。 結婚できないのは女性のほうが多いし。 |
糸井 | そうですか、実感として。 まあ、社会として考えると、 男のほうが生きるのに恵まれてますよね。 |
森山 | ぼくは、男性が女性にかなうわけないって ずっと思ってるんですよ。 かなわないから、男は体を鍛えたり、 ウソついたり、見栄はったりして、 バランス保とうとするじゃないですか。 だけど、女性がどんどん力をもってきたら、 ほんとにやることがない男が増えちゃって、 そのあふれた人が、 いわゆる「草食系」ってことになったのかなって。 |
糸井 | 草食系の形をとってたほうが 選ばれるチャンスが大きい時代なんですよね。 「ぼくやさしいよ」 っていうキャンペーンが効くんです。 だから音楽でも‥‥ まあサケロックはどうかわかんないけど、 か細いような声の歌がモテるじゃないですか。 |
久保 | はいはい。 |
糸井 | 「ぼくは、帰り道に考えたんだ」(か細い声で) みたいな。 |
久保 | ははははは。 |
糸井 | それって、ほんとは、 「アンドちんこ」じゃないですか。 |
一同 | (笑) |
久保 | 帰り道に考えたんだ、アンド、ちんこ(笑)。 |
糸井 | 裏声っぽいような、 あまり抑揚のないような、 「いくぜ!」じゃない歌を歌ってる人たちは そっちのほうがモテるから そっちにいってるわけですよ。 |
ハマケン | そうかもしれないですね。 |
糸井 | 別にね、ぼくはそういうミュージシャンが 悪いとは言ってないんですよ。 |
ハマケン | はははは。 |
糸井 | おれらの時代だと、 「少年ぽい」って言葉があったんだよ。 で、おれが言いたいのは、 「その少年は毛はえてるぞ!」 ってことなんです。 |
久保 | あははは。 ボーボーですよね。 |
糸井 | もうボーボーですよ。 その、半ズボン性みたいなもので見えにくいけど。 |
ハマケン | 半ズボン性! わかります。 |
糸井 | そこをさぁ、わかれよ、女性たち! っていうことは、前から思ってたんですよ。 |
ハマケン | すごい力説(笑)。 |
糸井 | このマンガに描かれてるようなことが、 ほんとなんだからさ。 |
ハマケン | あ、そうっすね。 それはほんと、そうだと思います。 (つづきます!) |
(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社 |