糸井 | いやぁ、けっこう掘りさげた話になりました。 すごいなぁと思うのは、 みなさん、ほんとによく考えてますよね。 |
ハマケン | ん? どういうことですか? |
糸井 | この座談会の最初に久保さんから、 「糸井さんなんかにわかるんですか」 って言われましたけど。 |
久保 | はははは。 |
糸井 | 「糸井さんなんかに」って言われる資格が ちょっとぼくにはあるかもしれない。 ぼくはものすごくどこかで、 バンバン断ち切っちゃうもん。 |
久保 | 断ち切る。 |
糸井 | 考えるのやめることの訓練を積んできた気がする。 |
久保 | そうか、そこはプロですよね。 |
ハマケン | なるほどね。 |
糸井 | 答えが出ないことを考えるのを どうやめるかについて、 練習してきた気がするんですよ。 |
森山 | それはすごくわかります。 |
糸井 | 60くらいになってだよ、言えるのは。 |
森山 | いま糸井さんおいくつなんですか? |
糸井 | 61。 |
森山 | え! |
久保 | え! そっかぁ。 |
糸井 | なんだきみたち、失礼だな! |
一同 | (笑) |
糸井 | だってさっき、団塊の世代って言ったじゃん。 |
ハマケン | ああ、そうですよね。 |
糸井 | あの、なんだろう、 やっぱり長く生きてるあいだに、 生理としてそっち行って落っこちたとかさ、 そっち行ってえらいめにあったとかさ、 火傷をしていくうちに、 「そこは考えない」ってことが だんだんこう積み重なっていくんです。 |
森山 | でも、糸井さんが断ち切るっていうのは、 捨てるとか妥協することではないんですよね? |
糸井 | ではないんです、うん。 このマンガをおもしろがれるってことは まだ心としては残ってる。 |
森山 | それ、ぼくも近い気持ちがあります。 これを「経たな」って感じがすごくある。 |
糸井 | おおー、そうですか。 |
森山 | すごく感情移入できるし おもしろいと思えるんだけど、 ここにはもういきたくない、っていう。 |
糸井 | 森山さんは、何歳ですか。 |
森山 | 今年26です。 |
糸井 | わあ、早いね。 26だと、ぼくはもう真っ最中でしたよ。 ハマケンはいくつ? |
ハマケン | ぼく28。 |
糸井 | 20代のお二方は、すごいね。 昔はやっぱり練習問題が足りなかったのかなぁ。 |
森山 | 練習問題。 それはあるかもしれない。 |
糸井 | 練習問題が多いですよね、いま。 |
森山 | たしかに、たくさんあるかもしれませんね。 |
糸井 | 他人の恋愛まで練習問題になるしね。 |
ハマケン | そうですね。 |
糸井 | こんな漫画は少なくともなかったもん。 |
ハマケン | うーん、やー、でも、 何年も前はもっとシンプルで、 みんないまみたいに 悩まなかったんじゃないですか? |
糸井 | いや、ハマケン、ちがうのよ、 昔はもっとひどかったの。 |
ハマケン | あ、そうなんですか。 |
糸井 | もっとひどかったと思う。 男は要求されてる水準がもっと高かったから。 すくなくとも、 自分から「草食系です」だなんて言えなかった。 |
ハマケン | はあー、そうか。 |
糸井 | 「ぼくは酒飲めません」っていうのを 言えない地方だってあったわけだし。 「そんなことで女を守れるのか!」 って親父から言われたときに、 「守れない」とは言えなかったんだよ。 |
森山 | なるほど。 |
糸井 | だから、おれが若いとき、 20代のほとんどの男は、 「おれはオナニーしてない」って言ってた。 |
ハマケン | ほんとですか(笑)。 |
久保 | ははは。 |
糸井 | そんな社会はどうかしてると思ったよ。 |
ハマケン | どうかしてますね。 |
糸井 | そんなに遅れてたんです、世界は。 |
ハマケン | そうですかぁ。 |
糸井 | よかったよ、おれは。 「してる!」って言い続けてきて。 |
一同 | (笑) |
糸井 | いまはさ、「してません」って誰かが言ってたら、 「なにそれ? あれは誰?」 ってなりますよね。 |
ハマケン | はははは、なりますね。 |
糸井 | 良くなってるんですよ。 このマンガみたいな複雑さまで、 やっとたどり着けたんですよ。 |
森山 | そうですね。 |
糸井 | ‥‥それにしても、 おふたりが大人だったのに驚いたね。 練習問題が多かったにせよ。 |
ハマケン | ほんとですか。 |
糸井 | うん。 いまの子はほんとに、 研究熱心というか‥‥すごいね。 |
ハマケン | (森山さんを指さし)役者ですから。 |
久保 | ああー。 |
森山 | (ハマケンを指さし)ミュージシャンですから。 |
一同 | (笑) (最終回に、つづきます!) |
(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社 |