『MOTHER』と、『MOTHER2』が、
『MOTHER1+2』という
1本のソフトになって、
ゲームボーイアドバンスで出ます。
それで、ほぼ日では、特別な連載を用意していました。
ほぼ日を主宰する糸井重里ではなく、
『MOTHER』を作った糸井重里という人に、
『MOTHER』というゲームについて
インタビューしてみようというものです。
先日、数時間をかけて、その取材を行いました。
そこで語られた言葉は、驚くほど濃いものでした。
当の糸井重里も、そんなつもりはなかったのだと思います。
けれど、そこで、だんだんと語られていった言葉は、
ずいぶんと糸井重里の深い場所にあったものでした。
そうして、そのインタビューの最後に、
何かに押し出されるようにして、
糸井重里は『MOTHER3』について語りました。
たぶん、そういう話の順番でしか、
糸井重里は『MOTHER3』について
語ることができなかったではないかと思います。
私たちは、そのインタビューを、
語られた順番でもって掲載し、
最後に、『MOTHER3』について
お知らせするつもりでいました。
けれど、『MOTHER1+2』の発表にあわせて、
多くの人が、『MOTHER3』の情報を求めて
ここを訪れることが予想されます。
それで、もう一度、緊急に糸井重里を取材しました。
それを今日から始まる特別な連載のはじまりとして、
まず、掲載いたします。
~はじめに、
『MOTHER3』について~
『MOTHER3』が制作中、ということですが。
- 糸井
- はい。ただ、まあ、僕は
ゲームの制作については「前科者」ですから、
こういう発表することに対して、
同じことをくり返してしまうんじゃないかという
怖さのようなものを感じてしまうんです。
ものすごく慎重になってます。
本当は、完成してから発表したいくらいなんです。
でも、『MOTHER1+2』が出るというときに、
当然、「『MOTHER3』は出ないんですか?」
という声が上がることになるでしょう。
そこで、制作しているのに、「出ません」と、
いちいちうそをつくのはいやだったんで。
それで、まずは「作っています」ということを、
お知らせすることにしました。
いったん開発中止になった
『MOTHER3』が出るということについて、
率直な気持ちを教えてください。
- 糸井
- たくさんの人をがっかりさせてしまった自分が、
こんなふうに言うと怒られるのかもしれませんが
出るということは、ぼく個人にとっては、
とてもうれしいことです。
出したくて、本当に、出したくて、
作っていたものですから、
出るということ自体は、個人的に、
とってもうれしいことです。
一度、出せなかったという事実がなければ、
もっと気持ちよくお知らせするんですけど、
まあ、なんていうんでしょう、
どうしても、遠慮があるというのが、
正直なところです。
純粋に、待っていた人にとっては、
うれしいニュースだとも思うんですが。
- 糸井
- ありがたいことですし、励みになります。
でも、まあ、笛や太鼓をどんどこ鳴らして、
にぎやかにお知らせすることは、
やっぱりしないつもりです。
本当は、連載の中で、『MOTHER』の話と、
『MOTHER2』の話を読んでもらったあとで、
『MOTHER3』について知ってもらうほうが
いいと思ったんですけど、やはり、この話を、
先に一度しなくちゃいけないですよね。
順々に聞きますが、まず、プラットホームが
ゲームボーイアドバンスになりました。
- 糸井
- はい。たぶん、
あきらめずに待ってくださっている多くの方は、
はたして『MOTHER3』が
ゲームボーイアドバンスというサイズの中に
収まるのだろうかとお思いになるでしょう。
たしかに、ぼくの最初の構想としては、
そういうサイズで発想したものではなかったです。
だから、「シナリオを本にしませんか」とか、
「映画にしてみたい」という話もあったんですけど、
検討していくうちに、無理だということがわかった。
やっぱり、サイズというか、
大きさのようなものが違うと思ったので、
けっきょく、どれもあきらめたんです。
それが、なぜ? というのが、
いちばん気になるところです。
- 糸井
- もっとも端的に言うと、あるとき、
「ゲームボーイアドバンスで出すという方法は
ありえないのですか?」という提案を受けました。
それで、ぼくには、思いもつかないことだったので、
その場では「わからない」と答えたんです。
ほんとにわからなかったんで。
それから、じっくりと考えてみたんです。
そこで感じたことは、自分が知らず知らずのうちに、
大作主義に陥っていたということです。
当時のぼくは、
すごく肩に力の入った作りかたをしていて、
なんていうか、極端にいえば、
「世界をびっくりさせてやろう」みたいな、
「自分が想像できる全部を入れ込もう」
みたいな感じで、それこそ大作を出そうとしていた。
大作を出してやろうとして、挫折したわけです。
でも、もっと、違う求められかたが
ほかにあるんじゃないかとやっと思えてきた。
そういうふうに思えたということが、
まあ、すべてとはいいませんけど、
『MOTHER3』がゲームボーイアドバンスで
出ることになった、理由のひとつだと思います。
そういうふうに考えかたが変わった
きっかけのようなものはありますか。
- 糸井
- いろいろあるとは思いますが、
そのうちのひとつを挙げるとすると、
『MOTHER1+2』が
ゲームボーイアドバンスで出ることになって、
テストプレイをしてみたことです。
3Dのキャラクターが動かなくても、
こってり描き込まれた絵が続々と出てこなくても、
ぼくの考えたものっていうのを
味わっていただけるんじゃないかっていうふうに
思えるようになったんです。
だから、ゲームボーイアドバンスという
ハードの力も影響しているといえるし、
もっと大きな枠でいうと、
ゲームというものを取り巻く
時代の気分みたいなものが変わったことも
影響していると思います。
仕事を放り出してでもプレイしようとか、
徹夜を続けてでもゲームにかじりつこうとか、
そういう時代ではなくなっていると思うんです。
なにせ、自分も含めて、いまいちばん難しいのは、
他の人の「時間をもらうこと」ですから。
だから、ゲームボーイアドバンスという
ハンディなハードを使って、
毎日ちょっとずつ楽しむような、
そういうゲームになればいいなと思って。
そういうふうに考え方を切り替えて、
『MOTHER3』を作り始めたということですね。
『MOTHER3』がどういうゲームになりそうか、
話せる範囲で教えてください。
- 糸井
- お話は、基本的には、
ぼくのシナリオに基づいて作られています。
開発自体は、着々と、進んでいるところです。
以前は日本シリーズの優勝決定戦のようなつもりで
作ってたんですけど、
いまは開幕第一戦に向かうみたいなつもりで
肩の力を抜いて取り組んでいこうと思っています。
「今日はここまでやったら寝よう」みたいな感じで
ちょっとずつ、休み休みプレイして、
「けっこうおもしろいよ?」って言ってもらえる、
そんなゲームにしたいと思いますので、
そういうものなんだという感じで
のんびり待ってていただけると幸いです。
あの、こんなふうに言うと、
「なぁ~んだ」って思う人もいると思いますけど、
思われちゃうことは、まあ、
しかたがないのかなとも思います。
けれど、そもそも、
『MOTHER』も、『MOTHER2』も、
そういう軽さを持っていたんじゃないかと思います。
だから、もしも『MOTHER3』ができたなら、
あえて「あんまり期待しないでね!」って、
笑いながら平気で言えるような、
そんな、楽しいゲームにしたいと思ってます。
「いつ出ますか!」、「どんなゲームですか!」
って聞きたいでしょうけど、作ってる最中なんで、
発表はこれくらいにさせてください。
もう少し詳しい経緯なんかは、
たぶん、このあとに掲載されることになる、
連載のほうで読めると思いますので、
そちらのほうも読んでもらえるとうれしいです。
とりあえず、『MOTHER3』について、
わかっていることは以上です。
遠慮しながら、恐縮しながら、
慎重に言葉を選んでいた糸井重里でしたが、
最後に長く考えたあと、こんなふうに言いました。
「大きい荷物を下ろして、自分の足取りで進むように、
がんばりますので、どうかよろしくお願いします」
さて、次回からは、当初の予定どおり、
糸井重里による『MOTHER』のお話を掲載します。
あの不思議なゲームに何が込められていたのか、
これまでまったく知られていなかったようなことが、
今回よりはずっとずっと軽快な調子で語られますので、
どうぞお楽しみに!