『MOTHER』とカミサン
太田さんが好きだったというのは
1作目の『MOTHER』ですか?
- 太田
- そうですね。
最初の『MOTHER』です。ファミコンの。
- 糸井
- そのころは、まだヒマだったころ?
- 太田
- うん、なんにもなかったですよ、仕事(笑)。
あー、でも、あってもやってましたね、徹夜して。
- 糸井
- あー、ぼくもやってたもんね。仕事あっても。
当時は、ゲームがそれくらい濃かったよね。
- 太田
- そうですね。
さらに、『MOTHER』がぼくにとって
最初のロールプレイングゲームだったから。
- 糸井
- 『ドラクエ』じゃなくて。
- 太田
- はい。『ドラクエ』とかが話題になってるのを、
ま、聞いてはいたんですけど、
そんな、ゲームにそこまで夢中になれないだろ、
っていう感じだったんですよ。
「そんな、徹夜してまでゲーム?」
って言ってたんですけど、
まあ、試しにやってみるか、
ってことでやったら、もう!
夢中でしたよ、ほんとに(笑)。
- 糸井
- あ、うれしいこと言うねぇ。
- 太田
- これは寝てらんないや、っていう感じでしたね。
ロールプレイングゲームって、こんなか、
っていう、カルチャーショックでした。
- 糸井
- なんか、あまりにもいいコメントで、
うそに聞こえる(笑)。
- 太田
- いやー、でも、ほんっと、ほんっとに、
いっしょに冒険しているような
感覚が味わえましたね。
- 糸井
- 困ったな(笑)。
こういう展開になると、何も言えないわ。
たとえば何が太田さんをひきつけたんでしょう?
- 太田
- そうですねえ。たとえば、
ひとつの街からべつの街に行くじゃないですか。
『MOTHER』以外のゲームって、
街と街の世界の感じっていうかね、
空間の感じがあまり変わらないんですよね。
でも『MOTHER』は、ほんっとに、
つぎの街が見てみたい、
どんな街なんだろうっていう感じだった。
街から街へ移動するときに流れる時間とかが、
家にいながら世界中を旅しているような感じで、
すーごい、ストレートに入れたんですよね。
- 糸井
- あああ、なるほどね。
その話を聞いて自分で思い当たるのは、
ぼくは一時、ハードボイルド小説を読んでいまして。
- 太田
- はいはい。
- 糸井
- で、あるとき、わかった。
ハードボイルドの小説っていうのは、
街が主人公なんだな、って思ったんです。
どういう街が舞台で、その街にどういう人がいて、
どんな日常が送られてるか、ってことが重要で、
登場人物は、それを見せるための
材料のように思えたんですよ。
だから、『MOTHER』をつくるときも、
「街が主人公なんだ」っていうことは、
そうとう意識してたんです。
それはかなり特殊なことだったんじゃないかな。
- 太田
- あー。
ぼくは最初に『MOTHER』をやったから、
ロールプレイングゲームっていうのは
ぜんぶこうなんだと思ったんですよ。
だけど、その後、
いくつかほかのゲームをプレイしたけど、
やっぱり『MOTHER』ほど
旅してる感じを味わえたゲームはないんですよ。
- 糸井
- ありがとうございます(笑)。
- 太田
- あと、『MOTHER』をプレイしたのって、
カミサンとつき合い始めてすぐだったんですよ。
というか、カミサンが買ってきたんです。
だから、ふたりとも初めて
ロールプレイングゲームをやるっていう
状態だったんですよ。
- 糸井
- え、ふたりでやったの?
- 太田
- ええ。つき合い始めだったから、
ほんとに、新婚旅行みたいな感じで(笑)。
ふたりで初めて旅行いく、みたいな感覚。
だから、ほんっとに、
ふたりで最初にやったイベントは
『MOTHER』なんですよ、うちの夫婦は。
- 糸井
- へーーーー!
うれしい。うれしすぎるくらい(笑)。
- 太田
- いや、もう、ほんとに。
で、当時のファミコンのゲームって、
子どもが楽しめるようにできているからこそ、
大人も楽しめるようにできてるじゃないですか。
いまは妙に大人向けになってて
逆にやれなくなってきたんですけど。
だから、当時って、きっと、
ゲームやってるときの大人は子どもなんですよ。
だから、『MOTHER』は、
すーごい、いい思い出なんですよ、
うちの夫婦にとって。
- 糸井
- 『MOTHER』が熱海になったみたいに(笑)。
- 太田
- そうですね(笑)。
なんか、旅行だっていう感じとか、
ほんと変わんないですよ。
ものすごく、いい思い出。
- 糸井
- じゃ、『MOTHER』で
ふたりの思い出話ができちゃうの?
- 太田
- ほんとそうですよ。
「あのころは」って感じですよ。
- 糸井
- うわぁーっ。冥利に尽きる、ってやつだね。