爆笑問題の太田光さんが
大の『MOTHER』ファンだということで
開発者・糸井重里との対談をセッティングしました。
休日の昼下がり、のびのび話すふたりの話題は、
『MOTHER』から始まってあちこちへ。
予告しておきますが、最後は落語の話になります。
最近、糸井重里に同行していて気づくことは、
対談相手と糸井重里の共通の話題が、
どうも、いつも落語になっているなぁということです。

第3回

続々・『MOTHER』とカミサン

糸井
みなさんがそれぞれに持っている
『MOTHER』の思い出を聞くたびに、
「オレはいったい何をつくったんだろう?」
っていう気分になるなあ。
そういうふうに遊ばれるといいな、って
思いながらつくったのはたしかなんだけど、
ほんとにそうだったと知ると
不思議な気分になるんですよ。

つくり手としては。

糸井
うん。
太田さんは、ゲームをつくりたいと
思ったことはなかったんですか?
太田
うーん、意外とぼくはないんですよね。
ゲームの世界っていうのは、
ある種、神聖なものとして、
自分が関係者として入らないものというか、
仕事じゃないところに置いておきたいんですよ。
糸井
ああ、それはぼくにとっては
「料理」みたいなもんかな。
美味しい料理をつくる人がいると
うれしいんだけど、
「オレもやりたい」とは、絶対に思わないから。
太田
そういう感じですね。
糸井
映画とかともまた違うんですか? ゲームは。
太田
うん、違いますね。
その、感動したり、好きだったりっていう部分では
同じだったりするんですけど、
やっぱりゲームっていうのは、
また夫婦の話になりますけど(笑)、
うちの場合、ふたりでやるものなんですね。
糸井
はぁー。
太田
たとえば、映画をふたりで見てるときって、
そのあいだに話したりしませんよね。
同じ小説を読むにしても、
読むときはひとりで感動するじゃないですか。
だけど、ゲームはひとりじゃないんですよね。
かならず夫婦で、なんか話しながらやってて、
ちょうどいいバランスでコミュニケーションを
とりながら楽しむ。
そういうものはほかにないですね。
糸井
そういわれるとほかにないね、そういうもの。
映画館でしゃべったら怒られるしね。
とくに、ロールプレイングゲームは、
自分の都合で止めておけるからね。
トイレにも行けるし、しゃべれるし。
太田
そうですね。とくにふたりで徹夜でやってると、
途中でお腹空いたり、
なんかお菓子買ってきて食べたり、
なにか作って食べたりとかするじゃないですか。
で、そういときの食事なんかも、
ふつうにふたりでご飯食べるより、
ずっと楽しいんですよね。
糸井
あああ~、楽しいよね。
太田
そういう周辺のことも楽しくなるっていうか。
なんか、飲みもの用意して、こう、
いろいろやったりしてることも楽しいっていう。
糸井
ピクニックだ(笑)!
太田
あ、ほんとに。そうですね。ええ。

しかも太田さんの場合、
セリフを読み合いながら進めてるわけだから、
かなり楽しいイベントですよね、それは。

太田
そうですねえ。やっぱり、
セリフを声に出しながらやってるから、
要するに、ゲーム全体が台本、みたいな
感覚になっていくんですよ。
「どう言ったらおもしろいか?」
とかっていうのも計算しつつやってるから、
ある種、自分のなかのものになっていく。
糸井
ああ、思えば、
『MOTHER』のセリフって、
声に出して言うことを
かなり意識してつくってるんですよ。
実際に、しゃべりながらつくって、
それを横で打ち込んでもらってたのは
『MOTHER2』のときなんだけど、
最初の『MOTHER』のときも、
原稿用紙に書きながら
声に出して確認してたし。
だから、ぜんぶ、ぼくの呼吸で、
セリフが出てくるんですね。
それをほんとうに
そのまま味わってる人が、いたわけだ(笑)。
太田
そうですね(笑)。
でも、「間がいいゲーム」と、
そうじゃないゲームっていうのはありますよ。
『MOTHER』だからこそ、
そういうことがうまくできたんだろうし。

最初に行ったピクニックの場所が
ひどいところだったら、
大げんかになってたかもしれないですよね。

太田
いや、ほんと、そうです。
しかも、つぎにどういうセリフが
来るかわからないまま読んでるから、
要するに、初見の台本と同じわけですよ。
初見でいきなり本番、みたいなことですから。
台本のできが悪いと、楽しめないですよね。
だから、演技力が試されるというか、
展開を予期しながら読み上げていって、
こっちの意図とつぎのセリフが
うまくかみ合うとすごく気持ちよかったり。
糸井
お客さんがいるわけじゃないのにね(笑)。
そういわれて気づいたのは、
『MOTHER』って、
いろんな人が出てくるんだよね。
いい人とか、悪い人とか、無責任な人とか。
それを描き分けたからこそ、
そういう遊びが成り立つんだね。
太田
ああ、そうですね。
糸井
「なんとかの街へようこそ」とか
「南へ進め」とか言うだけの、
ゲームの機能としての人しかいなかったら、
それをセリフで言う意味ないじゃないですか。
太田
うんうん。
糸井
「ガキ邪魔だ、どいてろ」みたいセリフが
あるからこそ演じる意味があるし、
いやなやつだと思わせたり、
ふつうにホロリとさせたりできる。
そのへんを、すごく丁寧にやったから、
その遊びができたんですね。
太田
そうですね。
だから、最初が『MOTHER』でよかったね、
っていう話は、よくしますよ、うちは。
糸井
うれしいなあ。
太田
まあ、その後、いろいろゲームやってみたけど、
はじまりが『MOTHER』じゃなかったら、
うちの夫婦はここまでゲームに
夢中にはなってないだろうね、っていう。
糸井
夫婦になってなかったかも(笑)。
太田
そうっすよねえ(笑)。
だから、ほんとに、うちの夫婦は、
『MOTHER』抜きには語れないんですよ。
糸井
申し訳ないような気さえしてきた(笑)。
でも、その、夫婦でやるっていうのは
はじめてプレイする人に勧めたいね。
太田
(笑)
糸井
『MOTHER』を好きな人のなかでも、
最初の『MOTHER』が好きっていう人と
『MOTHER2』が好きっていう人と
分かれるんですけど、そうなると、
太田さんはやっぱり‥‥。
太田
もう、最初の『MOTHER』ですね。

超えられないですよ、それは(笑)。

糸井
そうだよね。それは、
『MOTHER2』をいっくらよくつくっても
かなわないよねえ(笑)。
太田
そうですね。だから、もう、
ゲームのはじまりっていうか、
ぼくにとって、テレビゲームっていうものの、
大元が『MOTHER』ですから。
だから、なによりも『MOTHER』なんです。
糸井
ありがたくて、
どうしていいかわかんない(笑)。

(続きます!)

2003-06-18-WED