続々・『MOTHER』とカミサン
- 糸井
- みなさんがそれぞれに持っている
『MOTHER』の思い出を聞くたびに、
「オレはいったい何をつくったんだろう?」
っていう気分になるなあ。
そういうふうに遊ばれるといいな、って
思いながらつくったのはたしかなんだけど、
ほんとにそうだったと知ると
不思議な気分になるんですよ。
つくり手としては。
- 糸井
- うん。
太田さんは、ゲームをつくりたいと
思ったことはなかったんですか?
- 太田
- うーん、意外とぼくはないんですよね。
ゲームの世界っていうのは、
ある種、神聖なものとして、
自分が関係者として入らないものというか、
仕事じゃないところに置いておきたいんですよ。
- 糸井
- ああ、それはぼくにとっては
「料理」みたいなもんかな。
美味しい料理をつくる人がいると
うれしいんだけど、
「オレもやりたい」とは、絶対に思わないから。
- 太田
- そういう感じですね。
- 糸井
- 映画とかともまた違うんですか? ゲームは。
- 太田
- うん、違いますね。
その、感動したり、好きだったりっていう部分では
同じだったりするんですけど、
やっぱりゲームっていうのは、
また夫婦の話になりますけど(笑)、
うちの場合、ふたりでやるものなんですね。
- 糸井
- はぁー。
- 太田
- たとえば、映画をふたりで見てるときって、
そのあいだに話したりしませんよね。
同じ小説を読むにしても、
読むときはひとりで感動するじゃないですか。
だけど、ゲームはひとりじゃないんですよね。
かならず夫婦で、なんか話しながらやってて、
ちょうどいいバランスでコミュニケーションを
とりながら楽しむ。
そういうものはほかにないですね。
- 糸井
- そういわれるとほかにないね、そういうもの。
映画館でしゃべったら怒られるしね。
とくに、ロールプレイングゲームは、
自分の都合で止めておけるからね。
トイレにも行けるし、しゃべれるし。
- 太田
- そうですね。とくにふたりで徹夜でやってると、
途中でお腹空いたり、
なんかお菓子買ってきて食べたり、
なにか作って食べたりとかするじゃないですか。
で、そういときの食事なんかも、
ふつうにふたりでご飯食べるより、
ずっと楽しいんですよね。
- 糸井
- あああ~、楽しいよね。
- 太田
- そういう周辺のことも楽しくなるっていうか。
なんか、飲みもの用意して、こう、
いろいろやったりしてることも楽しいっていう。
- 糸井
- ピクニックだ(笑)!
- 太田
- あ、ほんとに。そうですね。ええ。
しかも太田さんの場合、
セリフを読み合いながら進めてるわけだから、
かなり楽しいイベントですよね、それは。
- 太田
- そうですねえ。やっぱり、
セリフを声に出しながらやってるから、
要するに、ゲーム全体が台本、みたいな
感覚になっていくんですよ。
「どう言ったらおもしろいか?」
とかっていうのも計算しつつやってるから、
ある種、自分のなかのものになっていく。
- 糸井
- ああ、思えば、
『MOTHER』のセリフって、
声に出して言うことを
かなり意識してつくってるんですよ。
実際に、しゃべりながらつくって、
それを横で打ち込んでもらってたのは
『MOTHER2』のときなんだけど、
最初の『MOTHER』のときも、
原稿用紙に書きながら
声に出して確認してたし。
だから、ぜんぶ、ぼくの呼吸で、
セリフが出てくるんですね。
それをほんとうに
そのまま味わってる人が、いたわけだ(笑)。
- 太田
- そうですね(笑)。
でも、「間がいいゲーム」と、
そうじゃないゲームっていうのはありますよ。
『MOTHER』だからこそ、
そういうことがうまくできたんだろうし。
最初に行ったピクニックの場所が
ひどいところだったら、
大げんかになってたかもしれないですよね。
- 太田
- いや、ほんと、そうです。
しかも、つぎにどういうセリフが
来るかわからないまま読んでるから、
要するに、初見の台本と同じわけですよ。
初見でいきなり本番、みたいなことですから。
台本のできが悪いと、楽しめないですよね。
だから、演技力が試されるというか、
展開を予期しながら読み上げていって、
こっちの意図とつぎのセリフが
うまくかみ合うとすごく気持ちよかったり。
- 糸井
- お客さんがいるわけじゃないのにね(笑)。
そういわれて気づいたのは、
『MOTHER』って、
いろんな人が出てくるんだよね。
いい人とか、悪い人とか、無責任な人とか。
それを描き分けたからこそ、
そういう遊びが成り立つんだね。
- 太田
- ああ、そうですね。
- 糸井
- 「なんとかの街へようこそ」とか
「南へ進め」とか言うだけの、
ゲームの機能としての人しかいなかったら、
それをセリフで言う意味ないじゃないですか。
- 太田
- うんうん。
- 糸井
- 「ガキ邪魔だ、どいてろ」みたいセリフが
あるからこそ演じる意味があるし、
いやなやつだと思わせたり、
ふつうにホロリとさせたりできる。
そのへんを、すごく丁寧にやったから、
その遊びができたんですね。
- 太田
- そうですね。
だから、最初が『MOTHER』でよかったね、
っていう話は、よくしますよ、うちは。
- 糸井
- うれしいなあ。
- 太田
- まあ、その後、いろいろゲームやってみたけど、
はじまりが『MOTHER』じゃなかったら、
うちの夫婦はここまでゲームに
夢中にはなってないだろうね、っていう。
- 糸井
- 夫婦になってなかったかも(笑)。
- 太田
- そうっすよねえ(笑)。
だから、ほんとに、うちの夫婦は、
『MOTHER』抜きには語れないんですよ。
- 糸井
- 申し訳ないような気さえしてきた(笑)。
でも、その、夫婦でやるっていうのは
はじめてプレイする人に勧めたいね。
- 太田
- (笑)
- 糸井
- 『MOTHER』を好きな人のなかでも、
最初の『MOTHER』が好きっていう人と
『MOTHER2』が好きっていう人と
分かれるんですけど、そうなると、
太田さんはやっぱり‥‥。
- 太田
- もう、最初の『MOTHER』ですね。
超えられないですよ、それは(笑)。
- 糸井
- そうだよね。それは、
『MOTHER2』をいっくらよくつくっても
かなわないよねえ(笑)。
- 太田
- そうですね。だから、もう、
ゲームのはじまりっていうか、
ぼくにとって、テレビゲームっていうものの、
大元が『MOTHER』ですから。
だから、なによりも『MOTHER』なんです。
- 糸井
- ありがたくて、
どうしていいかわかんない(笑)。