爆笑問題の太田光さんが
大の『MOTHER』ファンだということで
開発者・糸井重里との対談をセッティングしました。
休日の昼下がり、のびのび話すふたりの話題は、
『MOTHER』から始まってあちこちへ。
予告しておきますが、最後は落語の話になります。
最近、糸井重里に同行していて気づくことは、
対談相手と糸井重里の共通の話題が、
どうも、いつも落語になっているなぁということです。

最終回

国語、算数、理科、社会、「落語」。

糸井
じゃあ、太田さんの落語遍歴を。
太田
はい(笑)。あの、まず、
うちのオヤジが落語好きだったんです。
で、オヤジは「志ん朝だ」って言う人なんです。
「談志なんかダメだ!」っていう感じで。
で、まあ、オヤジに連れられて寄席に行って、
観るわけですけど、やっぱり影響があるので
「ああ、志ん朝師匠だ」って感じるんです。
いま思っても、やっぱり志ん朝って、
子どもからしてもこう、
キチッと観られるじゃないですか。
だから、志ん朝師匠はずっと好きで。
そこから自分でさかのぼっていったんですね。
やっぱり志ん生師匠にハマったり。
糸井
志ん生さんには、
1回ドップリいきますよねえ。
たけしさんのしゃべりかたって、
完全に志ん生さんの遺伝子だもんね。
何気ないあいづちなんかも、志ん生さんだよ。
太田
そうですね。だから、なんか、
そのへんを中心に、
好みはぐるぐる変わっていくんですね。
糸井
それでいま、円生さんって気分は、わかるわー。
でも、そういうことを言える落語家さんが、
だんだんいなくなるじゃないですか。
だから、寄席とか、ほんとはもっと行って、
もっとおもしろがりたいんだけど、
観たり語ったりすることが
財産になるような落語家さんっていうのが、
存在すること自体が難しくなってますよね。
あの、たとえば、
金馬っていう人を、どう扱うんですか?
太田
ああ、どうだろう。
僕の好みのなかでは、んー、ちょっとこう、
本道にはいない人なんですよ。いまのところ。
まあ、今後はわかんないですけども。
糸井
僕はね、子どものときに聞いて、
大好きだったんです。
で、あるとき、「あ、違う種類の人だな」
って思ったことがあった。
ところが、そのあとにもう1回、
「いいんだ、金馬って」って思えた。
あの人って、自分のなかでの位置づけが
しょっちゅう変わるんですよ。
まあ、落語家の好みって
ぼくはわりと変わっていくんだけど。
太田
ああ、ぼくも好みは変わりますね。
糸井
そもそも金馬さんっていうのは、
あまり寄席に出ない人なんですよね。
で、声の使いかたがものすごくうまくて、
最終的に人物の描き分けの部分へ行くんです。
その点、志ん朝さんは‥‥ついてきてる?

ちんぷんかんぷんです。

糸井
教養がないなあ(笑)。

もうしわけございませんが、
たとえば、入門編に1枚、
CDかなんかを挙げてもらうというのは
どうでしょうか?

糸井
あ、入門。入門ね。
いろいろなことを言う人がいるけど、
ぼく個人としては、
人に落語を勧めるときは
文楽の『寝床』を聞かせるんですよ。
これは入門としては最高だと思う。
ほかの人はほかのものを薦めると思いますよ。
「CDなんてとんでもない!」って言う人も
落語ファンには多いし。千差万別だから。

太田さんは、1枚挙げるとしたらなんですか?

太田
うーん、難しいなぁ。
ええと、そうですねえ‥‥。
糸井
知らない人に薦めるわけだからね。
いきなり『鰍沢(かじかざわ)』とか
聞かせても、「つまんない」って
言われそうだしねえ。「怖い話じゃん」って。
太田
そうですね。ただやっぱり、落語って、
まったく落語を知らない人は、
たぶん、「笑わしてくれる話なんだ」って
単純に思ってるじゃないですか。
でも、じつは落語って、
すべての気持ちがあるんですよね。
笑いたい人も、泣きたい人も受け入れる。
だから、誰にでもお勧めできる
娯楽だと思うんですよね。
だって、「落語好きなんです」っていう人は
いろんな分野にいるじゃないですか。
だから、ほんとに、いろんなタイプのものが
そろってるんですよ。

なるほど。

太田
だから、そういう意味では、
それこそ『鰍沢』なんて、
ぜんぜん笑える話じゃないけど、
楽しめる人は、最初からでも
楽しめると思うんですよね。
怖い話ですけど。
だからぼくは、逆にそういうものを
薦めてみたい気もしますね。
たとえば、談志師匠のやる『らくだ』とか。
あれも怖いんですけど(笑)。
糸井
怖いよねー(笑)。
太田
うん。でも、そういうのを、
いきなり聞いてみるっていうのも、
意外でいいんじゃないかと思うんですよね。
「あ、落語って、こんなのもありか」っていう。
糸井
ああ、なるほど、『らくだ』ねー。
『らくだ』かあ。うん。

初心者に『らくだ』は共感できますか。

糸井
いいと思いますよ。
つまり、『らくだ』は、
松田優作みたいなものなんです。

かんべんしてください。

糸井
円生さんは、入門にもいいですね。
太田
そうですね。

素朴な疑問ですけど、本来、
いろんな人にお勧めできる娯楽のはずなのに
テレビとかにはあんまり登場しないですね。

糸井
う~ん、これはまた、
ぼく個人の意見なんだけど、落語ってね、
音だけで聞くほうがよかったりするんだよ。
もちろん映像といっしょに味わうべきだ
っていう意見もあるんだけど。
そのへんは、どう?
太田
ああ、ぼくも音のほうがいいと思いますね。
糸井
うん。たとえば扇子一本でね、
蕎麦をすするところから、ノックする音から、
ぜんぶ演じ切るのが落語だ、とか言うけど、
ぼくの意見としては、ほんとにおもしろいのは
やっぱりテキストなんですよ。
だから、やっぱり目より耳なんです。
と、ぼくは思う。これ、特殊な意見だと
思ってくれてもかまわないけど。
太田
難しいですよね。ただ、そうっすね、
あの、落語って、ぼくが音で聞いちゃったから
そう思うのかもしれないですけど、
顔とかね、仕草とか、そういうのが、
ちょっと邪魔に感じるときがあるんですよ。
糸井
(パンと手を叩く)そうなんです。

さっきから仕草が落語めいてきてますね。

糸井
つまり、「おや、どうしたんだい?」
っていうような、ちょっとこう鼻にかかった、
キレイなおかみさんを演じてる
声なんかを聞いてると、十分なんですよね。
太田
そう。音で聞いてると、
動きとか仕草が、要らないっていうか。
糸井
そうそう。
ああ、こういう話ができてうれしいなあ。
若い人とかに、ぜひ読んでほしい。
あ、そうか。『MOTHER』をプレイして
おもしろく感じてくれた人から
「つぎにどのゲームをやればいいですか?」
って質問されたら、
「落語」って答えればいいんだ。
太田
(笑)
糸井
いっそ、学校でも教えてほしいですね。
国語、算数、理科、社会、「落語」。
大人はぜひ、CDを大人買いしてもらって。
談志さんのCDは、全部持ってます?
太田
そうですね。たぶん。
糸井
志ん朝さんのも、ダダーッと出ましたよね。
あれ、そろえました?
太田
はい、持ってます。
糸井
あれね、オレ、後悔してるんだけど、
CDにクーポン券がついてるんだよ。
「いろはにほへと」ってクーポン券集めると、
なんか、特典CDがもらえたんだよ‥‥。

ええと、
本日はどうもありがとうございました!

太田
ありがとうございました。
糸井
ところが、オレ、ぜんぶ集めたのに、
応募しないで、期限が来ちゃって‥‥。

(おわり)

2003-06-27-FRI