元ゲーム雑誌の編集者で、
テレコマンとしても活動している永田ソフトが
ここでは永田泰大さんとして
『MOTHER1+2』をプレイする日常をつづります。
ゲームの攻略にはまるで役に立たないと思うけど
のんびりじっくり書いていくそうなので
なんとなく気にしててください。

6月28日

ないと、ちょっと困る

親戚の結婚式があるので、
夏物のスーツに着替えて、どうしようかと思ったけど、
いちおうカバンに『MOTHER』を入れる。

プレイする場面なんてないかもしれない。
けど、いちおう、カバンに『MOTHER』を入れる。

ロールプレイングゲームは
ゲームのなかにある記号に対して
思い入れることによってより豊かになる。
そういう意味では集中力が必要だから
僕は、それを屋外でプレイすることに
少し不安を感じていた。

けれど、そんな心配は無駄だった。

ヘッドホンをして電源を入れ、
Aボタンを何回か押せば
僕はすぐにその小さな液晶画面に没頭することができた。
電車の中で、バス停の列で、ラーメン屋のカウンターで、
僕はすぐにその小さな液晶画面に没頭することができた。

いまいましい待ち時間のすべてが
僕にとって歓迎すべき時間に変わる。
そして、おかしなことに、
ゲームボーイアドバンスSPを持ち合わせていないことが
ちょっとだけ自分を不安にさせる。

といっても、たいしたことじゃない。
たかだか数分の暇な時間に対して
準備があるかないかということにすぎない。
そもそも僕は寸暇を惜しんで
『MOTHER』を一刻も早く終わらせようと
プレイしているわけではないのだ。

けれど、ないことはたしかに不安である。

深夜、少し小腹が空いて、
「たしかアレがあったな」と思って
台所を探すとそれがなかったりする。
するとますます腹が減ってくる。
俄然、腹が減ってくる。
たいして腹が減ってたわけでもないのに
食べるものがないとなると
ものすごく腹が減ってきたりする。
おかしなものだと思う。

駅まで急いで歩いていって、
そこでゲームボーイアドバンスSPを
忘れたことに気づいて、
家まで引き返したことがある。
どうしようかと迷うこともなく、
しまった忘れた! と思った瞬間に
すぐさま方向転換していた。

正直にいってしまえば、
いまの僕にとって『MOTHER』の不在は
わりと深刻な問題なのである。
ないと気づくと、少し不安になる。
ないと気づくと、少し困る。
あったところで数分間が
有意義になるというだけなのだけれど。
その小さな箱が荷物に入っているかどうかは
最近の僕にとって非常に重要なことなのである。

だから、夏物のスーツに着替えて、
けっきょくプレイしないかもしれないとは思ったけど、
カバンにゲームボーイアドバンスSPを放り込んだ。
祝儀袋を確認し、デジタルカメラがあることをたしかめ、
ハンカチと煙草とライターを入れて、
最後にゲームボーイアドバンスSPを放り込んだ。

けっきょくそれをプレイすることはなかった。
東京の午前中は雨模様で、
庭に出て記念撮影することはできなかったが、
雨に濡れる緑の庭園も趣があってとってもよかった。
新婦はとってもにこにこしていて、
新郎はみんなに冷やかされて照れ笑いしていた。
写真をたくさん撮った。

進行状況を曖昧に記しておくと、
甘くて小さな工場で
鉛筆型の宇宙っぽいものを入手し、
ゴミ箱の彼と上の方の工場に行ってドカーン!
といったところです。
あの工場、全部回った気がしないんだよなあ。

2003-06-29-SUN