熱砂の追跡劇
ほかの場所がどうだかわからないけれど、
とりあえず東京地方はここのところ暑い。
屋外へ出るとあっけなく汗が噴き出す。
梅雨のあいだどこかへ溜め込んでいた熱を
企んだ誰かがいっぺんに解放させたかのように
なんだかパチンと夏へ切り替わってしまった。
昼時、
食事へ出る僕のシャツの袖口を揺らすのは熱風であり、
南天から照りつける太陽はぎらぎらしている。
思えば、もう8月である。
時期を合わせたというわけではまったくないのだけれど、
ゲームのなかで僕がどこにいるかというと砂漠である。
なんとも暑苦しい場所に僕はいる。
なにしろ、砂漠を歩くことになった
いきさつがまず暑苦しい。
砂漠を突っ切るハイウェイがあって、
そのハイウェイが大渋滞しているのである。
──砂漠を突っ切るハイウェイが渋滞中。
これ以上暑苦しいことってあまりないような気がする。
砂漠にはサボテンが生えているし、
ラクダみたいなモンスターは歩き回っているし、
主人公のまわりにはわざわざ細かい汗まで飛び散っている。
そして砂漠は広い。
どこをどう歩いているのかわからなくなるほど広い。
しかも現れるモンスターがいちいち強いからやっかいだ。
適当に戦っていたら
あっという間に全滅しかかってしまった。
汗をかきかき、砂漠を少しずつ進む。
ときどき仲間たちは日射病にかかる。
なんだか近づいていくと逃げていくイモムシがいる。
明らかにほかのモンスターとは動きが違うから
気になって追いかけた。
サボテンの根元に追いつめてようやく戦闘になる。
戦いに勝ったあとで驚いた。
得られた経験値がほかのモンスターの10倍近い。
9年前にも登場していたのだと思うが、
僕はこのモンスターの存在を完全に忘れてしまっていた。
いわば『ドラゴンクエスト』におけるはぐれメタルである。
否、厳密にいうとメタルスライムくらいであろう。
この逃げまどう経験値のかたまりは
僕のなかにあるささやかな狩猟本能に火をつけた。
そいつを見つけて僕は灼熱の砂上を走る走る走る。
周囲にモンスターが集まろうと
僕の目にはそいつしか見えていない。
とにかく、いま、その、逃げるそいつを!
思い返してみると、
先に挙げた『ドラゴンクエスト』においても
僕はそうであった。
メタル系のニクいアンチクショウが登場するたびに、
中ボスそっちのけでそのあたりをウロウロした。
世界を救うよりも大量の経験値を、
というたいへん不謹慎な姿勢のまま、
すんでのところで逃げられては悔しがり、
ようやく倒したときは
連続するレベルアップのファンファーレの
喜びに打ち震えた。
我ながら、どうかと思う。
このたびの砂漠においても、
そうまですることはなかろうというほど僕は奔走した。
現在のレベルが極端に低いというわけでもないのに
走って走って走りまくった。
もちろん『MOTHER2』には
キャラクターを走らせる機能などない。
「走る」というのはあくまでも僕の心象風景である。
ともあれ僕は闇雲にそいつを追いかけ、
闇雲だったおかげで何度も全滅しかけた。
我ながら、どうかと思う。
そういうわけで、
暑い東京で熱い戦いをくり広げていた僕です。
みなさんの地方も暑いですか?