ホームシックとドライなお母さん
- 糸井
- 川上さんが、『MOTHER』を
やってくださっているっていうのを、
以前、座談会でお会いしたときにうかがって。
ぼくはもともと川上さんの書く文章が
好きだったものですから、
その人に褒められたっていうのが
そうとう、うれしかったんですよ。
- 川上
- ああ、ありがとうございます。
- 糸井
- つくってよかったぁって思いましたね。
ずいぶん昔につくったものだったので
当時は「川上弘美さんに褒められたぞ」って
伝えられる場所もなかったんですけど、
今回、『MOTHER1+2』が出るので
あらためてうれしがっているところです。
- 川上
- でもね、私は、『MOTHER』は
やってないんですよ。
スーパーファミコンのほうから入ったので、
『MOTHER2』のほうしかやってないです。
- 糸井
- そのころって何をしてた時期なんですか?
- 川上
- ふつうに専業主婦の時代で。
あ、そうだ。友だちから勧められたんですよ。
その人が最後のあたりで出てくるセリフが
「すごくいい!」ってみんなに言っていて。
- 糸井
- いい友だちですねえ(笑)。
- 川上
- いい友だちですね(笑)。
それで影響されて始めたんです。
あれは、何年前になりますか?
- 糸井
- 『MOTHER2』は9年前ですね。
- 川上
- 9年前‥‥。
あ、今日はね、訊きたいことを、
忘れないように書いてきたんですよ(笑)。
(メモ用紙を取り出す)
- 糸井
- あ、そんなことまで(笑)。恐縮です!
- 川上
- スーパーファミコンが家にないもので
ここ数年やってないんですけど。
でも思い出してみました!
ええと、まず「ホームシック」。
- 糸井
- はい(笑)。
- 川上
- 主人公がときどきホームシックになって、
なんか「虚しくなった」とかいって、
戦わないでボーッとしちゃうんですよね。
- 糸井
- そうですね。戦いの最中に(笑)。
- 川上
- そうですよね(笑)。あれが印象に残っていて。
で、お母さんに電話掛けると、治るんですよね。
あれがね、「え、こんなのがあるんだ」って、
最初、ビックリして。
だけど、お母さんはドライなんですよ。
- 糸井
- ドライです。
- 川上
- ね(笑)。ものすごいドライで。
あれは、糸井さんの
理想のお母さんなんですか?
- 糸井
- 理想というとちょっと違いますけど、
ああいうときって、
お母さんから優しくされると
かえってメゲるじゃないですか。
- 川上
- そうですね、旅の途中だとね。
- 糸井
- ええ。だから、あのお母さんは、
そこまで知ってるんじゃないかな、
っていう感じですね。
- 川上
- あ、じゃあ、ものすごく
よくできたお母さんなんですね。
- 糸井
- そう、だと思うんですけど。
で、あの人を、「ドライですね」のまんまで
とらえてくれても構わないし、
いや、ほんとは知ってるんじゃないのかな?
と思うと、またちょっとこう沁みますよねえ。
- 川上
- そうですよね。
で、あそこの家、お父さんがいないですよね。
それで、お母さんがあんなにドライで。
主人公はすごく、けなげじゃないですか。
- 糸井
- ああじゃないともたないですね、きっと。
- 川上
- ああ。いまの家庭なんですね。
- 糸井
- でしょうね。ああ、でも、
ホームシックについて深く言われたのは、
もしかしたら初めてかも知れない。
- 川上
- あ、そうですか。
- 糸井
- うん。喘息はよくね、よく言われるんですよ。
ぼく自身が喘息持ちだったというのもあるし。
ゲームをするのって
基本的には小っちゃい子なんですけど、
そういう子って、認められないんですよね。
それは、僕が自分の子どもを見ていて
思ったことなんですけど。
たとえば、ハンバーガーショップで
列ができてるとき、ふつうに並んでいると、
悪い大人が順番を飛ばしたりするんです。
つまり、カウンターより小さかったりすると、
店のほうからよく見えなかったりして。
- 川上
- ああ、そうですね。
- 糸井
- 「つぎのお客さんどうぞ」っていったときに、
私は並んでいたのに飛ばされた、とか、
悔しい思いを、小っちゃい子なりに、
いっぱい経験するわけですよね。
そういうのはわりと身近に見てたんで。
だから、小っちゃい子の冒険っていうのは、
認められない人のやる冒険なんですよね。
- 川上
- そうですねー。ほんとそうですね。
- 糸井
- だから、バカにしてばっかりいますね、
大人たちが主人公を。
- 川上
- そうですね。最初のほうなんか、
とくにそうですよね。
- 糸井
- ホームシックも、喘息も、そういった
「認められない子ども」の一環として
ゲームには入れてあるんです。
そういう仕掛けは、ほんとは
もっといっぱい入れたかったくらいなんだけど
あんまり意地悪しちゃうとね(笑)。
- 川上
- うん、つらいですよね(笑)。
- 糸井
- そう、ハンデ負わせると、
やっぱり負わせたぶんだけ、
ストレスになるから。
- 川上
- そうですね。あと、ストレスといえば、
『MOTHER』って、
敵が死んだりしませんよね。
それはもう、みなさんがすでに
おっしゃってることかもしれませんけど、
「死なない」ということが
すごくプレイヤーのストレスを
軽くしていると思うんです。
- 糸井
- そうですね。
あれはけっこう考えてやったことです。
基本的には、「わざわざ殺すことないだろう」
っていう思いなんですけど。
- 川上
- ああ、そうですか。
私はゲームをあまりやらないんですけど、
最近のゲームも、
そういう傾向にあるみたいですね。
だんだん「死なない」ようになっている。
- 糸井
- 原理は同じでしょうね。
やっぱり、人が何を喜ぶかって
きちんと考えればわかりますからね。
- 川上
- そうですよね。