『タイタニック』と柴門ふみ
- 糸井
- あの、それはもう、ギリシア神話の時代から、
ヤキモチの描き方ってずーっとあって。
『タイタニック』って、ご覧になりました?
- 川上
- いえ、観てないです。
- 糸井
- あのなかにも、ポーキー的な人物が
出てくるんですよ。ヒロインの婚約者で、
金と名誉と力と、ぜんぶ持っていて。
要するに、そういう男が、
労働者階級のディカプリオに負ける話なんです。
けど、ぼくは昔からずっと思ってるんですよ。
主人公が有利すぎるだろうって(笑)。
そのときに主人公が持っているものが
何かっていうと、たいてい、
「いい男」だったりするんですよ。
つまり、「金持ち対いい男」なんですよ。
それは、きったねーなって思う。
- 川上
- ああ、そうですね(笑)。
それ、負けるほうがかわいそう。
- 糸井
- でしょう?
「富山のダイヤモンドに目が眩み」って、
文学者は書くわけだけれども、
富山がダイヤモンドを買うのに
どれくらいたいへんな思いを
したのかっていうことは
書いていないわけですよね。
- 川上
- そうですよね(笑)。
そこを考えるのが、文学なんですよね、
ほんとの意味では。
- 糸井
- そうそうそうそうそう。
で、そっちを書くっていうのは、
めっちゃくちゃたいへんでしょう?
- 川上
- たいへんですね。
- 糸井
- でも、川上さんは書いてますよね。
- 川上
- そうですね。でも、そこまではね、
まだうまく書けない。やっぱりね、
様式化されたものからの
回避を最初にもってきて、
そこから持っていかないとうまくいかない。
- 糸井
- 両方貧乏にしちゃって、
そのバランスのなかで差を書くような。
- 川上
- そうそう(笑)。
だからその域ではできるんだけど、
やっぱりある絶対的な部分では、
「世間様はこっちのいい男を味方する」
っていうふうに感じたりして‥‥
あ、でも『先生の鞄』では、
ちょうどそれをしたんだなー。
- 糸井
- うん。
- 川上
- それでもね、先生はけっこう有利ですよ。
- 糸井
- ああ、有利ですね(笑)。
- 川上
- そういう意味でね、
すごいなと思ったのが、柴門ふみさん。
彼女のマンガは、ときどき、
爽やかな青年が負けるんですよ。
あれは画期的だったと思うんですよ。
- 糸井
- 柴門さんは、
そっちを包み隠さずに言える人ですね。
女の子は、あれを、
ほんとは知ってるはずなんですよね。
- 川上
- ね(笑)。ただ、その、
お金持ちっていうだけじゃ、ダメなんで。
そこはやっぱりね、
悪辣な人物に見えるけど魅力もある、
かといって「いい悪役」というわけでもない、
というような、すごく微妙なところに
着地させなければいけないんですよね。
- 糸井
- うん。で、そこんところを、
認めすぎるとまた僕らもひねくれちゃうんで。
逆に、上手くいかないほうを
絶えず選ぶようなことにもなっちゃう。
- 川上
- そうなんですよね。
うーん、難しいなあ(笑)。