- 岩田
- どうして『MOTHER』というゲームが
特別なのかということを考えると、
やっぱり、糸井さんの存在だと思うんですよね。
ゲームをつくってる人のなかに
糸井さんのような人がいないから、
『MOTHER』のようなゲームがないんですよ。
- 糸井
- そうなのかなぁ(笑)。
そうだと思いますよ。
- 岩田
- 『MOTHER』って、大きなフォーマットのうえでは
日本的なRPGの作法に沿ったもので
そこはむしろ、特別なものではないと思うんです。
なのに、総合的には、くらべるものがないくらい
個性的なゲームになってますよね。
それは、あのゲームのなかに糸井さんが詰め込んだ、
おもしろいこととか、切ないこととか、
常識はずれなこととか、くだらないこととか、
ぜんぶの遊びが影響していると思うんです。
たしかに、『MOTHER』のなかに、
それまでのほかのゲームにはなかった
遊びとか仕掛けって、いっぱいありますものね。
- 糸井
- 写真撮りにくる人とかね。
- ふたり
- はいはいはいはい。
- 糸井
- ピザ屋とかね。
あのピザ屋さん、
自分が行けない場所に主人公たちがいると、
なんか「ムリでした」みたいな
電話かけてくるんですよね。
- 糸井
- わざわざね(笑)。
しかもちゃんと時間差があるのがいいんですよ。
そうとう歩き回ったんだろうなって。
- 糸井
- うん。そのあたりはね、丁寧。
- 岩田
- はい、丁寧です(笑)。
その細やかさもポイントですよね。
おもしろそうなネタやアイデアをポンと入れてあるのは
ほかのゲームでもあると思うんですよ。
でも、そのネタのまわりを
同じようなくだらなさとか、
くだらなさゆえの心配りとかで
きちんと仕上げてるのが『MOTHER』なんです。
- 糸井
- さっき話に出た、
「そろそろ休憩したほうがいいんじゃないか?」
って言ってくるパパにしても、
言うだけ言って、引っ込むしね。
そう、もっと遊ぶって言うと、
「そうか、地球の危機だからな」って言うんですよ。
- 岩田
- そうそう(笑)。
「そろそろゲームやめたら?」って言っておいて、
断ると「地球の危機だからな」って‥‥
- 糸井
- ああいうのは、
つくってても遊んでてもおもしろいよ。
- 岩田
- やっぱりね、ないんですよ、あんなものは、ほかに。
うん、ないですね。
- 糸井
- そう考えると、けっきょく、まぁ、
似たようなことずっとやってますけどね、ぼくは。
そうかもしれない(笑)。
- 糸井
- やっぱり、やってる側の景色、
おもしろがってつくってるこっちの景色が、
ゲームにリアルに映り込んじゃうんだろうね。
- 岩田
- あと、糸井さんは、ご自身がテレビゲームを
夢中になって遊んだ経験がしっかりあるから、
そういう意味での遊び手本位の部分と、
それから、ふつうのゲームをつくる人が
まったく経験していない
さまざまなことを経験してきたこととが
両方セットになって、
独自の個性につながってるんじゃないですかね。
そうですね。
あと、『MOTHER2』って、糸井さんだけじゃなく
関わったスタッフの方も独特なんですよね。
たとえばアートディレクターの大山功一さんも、
ゲームのグラフィックを手がけたのは
この『MOTHER2』だけだとお聞きしてます。
で、音楽も、鈴木慶一さんと田中宏和さんという
ほかのゲームにはない組み合わせで
『MOTHER』にしかない音楽をつくられているわけで。
- 糸井
- ふり返ってみると、そうなんだねぇ。
- 岩田
- そういうぜんぶが凝縮して、
「『MOTHER』でしかないもの」を
生みだしているんでしょうね。
だからこそ、20年近く経っても
みんな憶えてるわけで。
- 糸井
- そうなんだよねぇ。
あの、自分が書いててうれしかったセリフをね、
みんなが憶えててくれるっていうのは、
ほんとうにうれしいんだよ。
そんなことってさ、ないもの。
- 岩田
- ああー。
- 糸井
- 「あのセリフが忘れられません」って、
すらすらことばを諳んじるようなものって
ちょっとほかにないですよ。
- 岩田
- やっぱり、ゲームって、じぶんで操作して、
インタラクティブに関わる娯楽ですから、
刺さり方が独特で、強いんですよね。
感動して涙が出るみたいなことから、
「くだらない!」って笑ったりすることまで、
自分の中にしっかりと刺さり続けてるというか。
しかも『MOTHER』は、
刺さり方が、人によってさまざまというか、
もう、雑多に刺さってますよね。
- 岩田
- そうなんです。
いろんな人が、いろんな場面を憶えている。
実際、そういう声が、
ほんとにいまだに届きますけど、
糸井さんはそういう声を受け取って、
いかがですか。
- 糸井
- ‥‥まいったね。
- ふたり
- (笑)
- 糸井
- ぼくは、いつも、『MOTHER』については、
当事者過ぎて、無口になっちゃうんだよ。
ありがたいし、うれしいんだけど、
言うことがあるかというとあんまりなくて、
こう、聞いてるだけになっちゃう。
ま、そういう声に対して、つくり手としては、
続きをつくるというのが
いちばんの「ありがとう」なんだろうけど、
それはもう、ないのでね。
だから、なんだろう、うれしいけど、
無口になっちゃうんだよ。
- 岩田
- ああ、なるほど‥‥。
永田さんは、遊び手のひとりとして、
作り手の糸井さんをそばで見てるんですよね。
そういう目から見て、どうですか。
そうですね、本人は、ほんと、
『MOTHER』に関しては、そうとう寡黙です。
- 糸井
- うん(笑)。
というのも、おそらく、
糸井さんが「100パーセント著者であるもの」って
『MOTHER』シリーズのほかは、意外にないんですよ。
- 岩田
- あー。
- 糸井
- そうだね。
つくってるもの、関わってるものは
たくさんありますけど、
作品としてまとまってて純粋に著者であるものって
ほんとに『MOTHER』くらい。
著者になってる本にしても、
ぼくを含めたまわりの誰かが本にしたいと思って
本にしているものばかりなので。
だから、寡黙になってしまうんだろうなあと。
そういう意味では、ここ数年、
ツイッターというものができてはじめて
「ありがとう」が言えたんじゃないかなと思います。
- 糸井
- ああ、そうそう、それはそのとおりだ。
やっぱり、「ありがとう」だけって、
原稿には書けないんですよね。
たぶん、それは、岩田さんも
ご自分が関わったものに対して
そうなんじゃないかと思うんですけど。
- 岩田
- そうですね。
心から思っていても、
なかなかそれだけを表す機会はないですね。
- 糸井
- たしかに、そういう意味では、
ツイッターはぼくにとって大きかったですね。
「うれしいよ」って気軽に言えたから。
- 岩田
- で、糸井さんが「うれしいよ」って言ってくれることを、
ほかのみんながまたものすごくうれしく感じて、
そういう気持ちが広がっていくというか。
遊び手のほうも、時間が経ってるし、大人になってるし、
もう、自分がほんとに憶えてることだけを
「忘れられません」って素直に言えるし。
- 糸井
- そうなんだよね。短くね。
だから、こっちも「ありがとう」って言える。
その構造って
「Miiverse(ミーバース)」も同じですよね。
- 岩田
- 同じです、同じです。
だからね、ほんとにたのしみなんですよ、私は。
- 糸井
- 「遊んでもらうなら、いまだと思うんですよね」って
岩田さんがにこにこしながら提案してきたのも、
そういうことなんだよね。
- 岩田
- そうですね。
あのゲームを取り巻くぜんぶのことが、
いま、うまく整っていると思ったんです。
じゃないと、この19周年っていう
中途半端なタイミングで復活させないですよ。
- ふたり
- (笑)
- 岩田
- つくってから19年経って、あらためて、
みんなでたのしめる環境ができたというか
十分な間がとれたというか。
ゲームが育ったというわけではないですが、
遊び手とゲームのあいだに
いい関係ができるような気がしますね。
まぁ、『MOTHER』というゲーム自体が
こどもを遠くから見守る父親の物語ですから。
- 糸井
- そうそうそう、それはね、
なんか、ぼくの、残したい気持ちなんですよね。
父親ってみんな、あれの薄いやつですよね。
- 岩田
- ええ。
- 糸井
- いろんな人にこどもできると、
ああいう気持ちになるんですよね。
うーん、だから、それも無口になっちゃう
原因のひとつかもしれないね。
『MOTHER』って、案外、家族の話だから。
しかも、そういうテーマを考えて
つくったわけじゃなくて、
ああなってしまったというか。
まぁ、こういうことも、19年経ったから
こんなふうに言えるわけだけど。
- 岩田
- はい。
- 糸井
- あとは、最近、つくづく感じるのは、
あのとき『MOTHER』というものをつくってなかったら、
いまこんなふうに会ってなかっただろうなって
思える人がたくさんいるんですよね。
- 岩田
- ああ、それはよくおっしゃってますね。
- 糸井
- 若いクリエイターの人とか、
会いたいって言ってくれる人とか、
やっぱり、「『MOTHER』が大好きで」
っていう人が多いんですよ。
「『MOTHER』がなかったら、
いまの自分はないと思います」とかね。
それは、なんていうんだろう、純粋にありがたいし、
いま自分がつくっているものに関しても
ちゃんとたのしみを見つけてくれる人がいるんだ
っていう自信にもなるし。
- 岩田
- 私も、『MOTHER』がなければ、
糸井さんとお会いしていないのでね。
- 糸井
- ああ、そうだねぇ。
つくったからこそ、会えてるんだよね。
あ、永田くんもか?
いちおう、そうです(笑)。
さて、そろそろ時間が来ましたので、
最後に、『MOTHER2』の「ふっかつ」を
たのしみにしてくださってる方に、なにか。
- 岩田
- はい。あの、『MOTHER2』の
当時のパッケージの裏には、
「こどもはおとなに、おとなはこどもに、
なってゆきます。」ということが書かれていて、
それは、時間が経てば経つほど、
そうだなぁ、って思うんです。
その意味では、いま、Wii Uや、
「Miiverse(ミーバース)」のような場が
できたことも含めて、
いま、もう一回、遊んでもらうこと、
あるいは、はじめて遊んでもらうことについて、
私はすごく手応えがあって。
しかも、その自分が遊んでいる場所で、
つくり手の糸井さんから直接
メッセージを受け取ることができるかもしれない。
そういったこと全部が、なんだか、
夢が実現する直前のような感じがして、
ちょっとわくわくしているところです。
ありがとうございます。
それでは‥‥あの、作者の方。
- 糸井
- ‥‥俺はほんとになに言っていいか、わからないね。
- 岩田
- (笑)
(笑)
- 糸井
- いや、自分でも、びっくりするなぁー。
- 岩田
- ほんとに特別な仕事なんですね、これは。
- 糸井
- そうですねぇ。
いや、だから、ぼくをよく知る人にとっては、
本人がこういう状態でいるっていうことが、
なにより強いメッセージなんだけど。
- 岩田
- たしかに。
たしかに。
- 岩田
- だって、こんなに話に入ってこない糸井さんって
はじめてですよ。
ほんと、そうですね。
今日も、話を振らないとぜんぜんしゃべらない。
- 糸井
- なぁ(笑)。
だから、もう、こういうことで、
通しちゃったほうがいいよ。
そうします。
今日はどうもありがとうございました。
- 岩田
- ありがとうございました!
- 糸井
- いやぁ、参ったなぁ‥‥。
- 一同
- (笑)